「うさぎが、うさ晴らしに、うなぎを食うっ!!」
「……」
「……」
たぶん世界の終わりは、これくらい静かだろう。
シーン、という音が今にも聞こえそうなほどの沈黙が教室を包む。
ぼくは哀れみの視線を露木くんに送った。
うさぎでも笑わないよ?
「……それ、一発ギャグなのか?」
「絶対違う」
「相変わらずだな、朔也は……」
男の子たちが額を押さえている。
そして先生といえば、固まった表情の上に笑顔を貼りつけてなぜか拍手をした。
「うさぎがうさ晴らしに食ったうなぎは美味しかったか、気になるなー!」
ぼくが人間の言葉を話せるなら、『フォローになってませんよね?』とツッコミを入れたと思う。
ついでに、うさぎ目線から言うと……ぼくたちうさぎは草食系なんだから、そんな高級魚食べられないからね?
「たしかに、おれも気になるー! …で、結局、うさぎはオスなの?答え合わせちょうだいよ先生!」
あ、そうだ。
露木くんが一発ギャグとは言えない一発ギャグをしたのは、その質問がきっかけだった。
「お、そうだったそうだった。このうさぎはなー、オスだ!」
「ちょっ、せんせー。すぐ答え言えるんだったら、一発ギャグしてスベる必要なかったでしょー!」
露木くんの隣に座る女の子が、半笑いで言い放つ。
「さっくんはうちの彼氏なんだから、そんないじんないじんなー」
……彼氏って!?
だれが……あ、さっくんイコール露木朔也くんってことかな?
つまり。
この女の子と露木くんは、付き合ってるんだ!?
「あ、そうだったな。スマンスマン」
そして驚いているのはうさぎのぼくだけだから、どうやら2人はクラス公認のカップルらしい。
「羽凛、それ改まっていうことなくないかぁ?」
「だから、さっくんは女心を分かってなーい」
「マジ? まぁそれでも大丈夫か、羽凛の心は彼氏なんだから分かってるし」
ぼくの毛並みは白いけど、それが赤く染まっているんじゃないかと思うくらい、こっちまで恥ずかしくなる。
「はい、惚気は後でなー」
すると、先生が温かくも冷たくもないトーンで惚気を中断させた。
ありがとう、先生。
「じゃあ、うさぎの話に戻って……名前を決めよう!」
たしかに、ぼくに名前はない。
提案してくれてありがとう、先生。
「うさぎの名前かー。オスだし、朔也でよくない?」
「俺の名前にすんなってー、実物ここにいるんだから」
「あはっ、たしかに」
惚気!!
真面目に決めてくれ、と決めてもらう側のぼくが思った時。
「……帆高先生。名前、一つ考えました」
救世主が現れた。
「おっ、吉永か! なんだなんだ、その名前は?」
吉永、呼ばれた女の子は背中の真ん中あたりまである黒髪を一つに結んでいて、少し大人しそうな印象を受けた。
