集中治療室。
扉の向こうは。
静かだった。
規則的な機械音。
看護師たちの足音。
そして。
その中央に。
由夏がいた。
たくさんの機器に囲まれ。
眠っている。
蓮は。
ゆっくりとベッドの横へ歩いた。
「……由夏」
返事はない。
蓮はしばらく。
何も言えなかった。
ただ。
そこにいる由夏を見つめていた。
さっきまで。
自分の目の前で笑っていたのに。
今は。
目を閉じたまま。
「……」
蓮はベッドの脇に立つ。
そして。
そっと由夏の手に触れた。
「……俺、ここにおるからな」
返事はない。
「もう頑張らんでええから」
自分でも。
何を言っているのか分からなかった。
ただ。
声を掛けずにはいられなかった。
その時。
ほんのわずかに。
由夏の指が動いた。
「……?」
蓮が顔を上げる。
「由夏?」
ゆっくり。
由夏の瞼が動いた。
「……」
目が、ほんの少しだけ開く。
「由夏!」
蓮が身を乗り出す。
「分かるか?」
由夏の視線が。
ゆっくりと動いた。
まだ。
はっきりとは見えていない。
それでも。
目の前にいる人だけは。
分かった。
「……だい、ひょう……」
「俺や」
蓮の声が震える。
「ここにおる」
「……」
由夏の唇が。
かすかに動く。
「……よかっ……た」
「何がや」
「……みんな……」
蓮の胸が詰まる。
「愛莉さん……湊さん……」
「大丈夫や」
「……そう……ですか」
由夏は。
ほんの少しだけ安心したように。
目を閉じかける。
「由夏」
蓮が呼び止める。
「俺のことはええから」
「……」
「自分のこと考え」
由夏の目尻から。
一筋の涙が流れた。
「……すみ、ません」
「謝らんでええ」
「……」
「ほんまに」
蓮は。
そっと手を握った。
「もう何もせんでええから」
由夏の指が。
ほんの少しだけ。
蓮の指を握り返した。
そして。
また目を閉じた。
「由夏?」
反応はない。
看護師がモニターを確認する。
「大丈夫です。眠っていらっしゃいます」
蓮は。
しばらくその場に立っていた。
やがて。
看護師に促され。
部屋を出る。
