1人。
また1人。
店の外へ。
店内に残っている人数が減っていく。
「出口まで行ったら、そのまま道路側へ!」
「振り返らんといて!」
由夏は最後尾で指示を出す。
蓮はその少し前。
女性客は、なおも怒り狂っていた。
そして。
「……何よ」
女性が視線を動かした。
「こんな店……」
目に入ったのは。
煌びやかなシャンパンタワー。
「こんなもの……!」
女性は卓上のタワーを掴んだ。
ガシャーン!
大量のグラスが床へ落ちる。
「……っ!」
由夏が息を呑む。
また1台。
ガシャーン!
さらに1台。
店内に破壊音が響く。
蓮は女性を刺激しないよう、一定の距離を保っていた。
「もうええから」
蓮が低く言う。
「落ち着いて」
「うるさい!!」
女性が振り返る。
そして。
その視線の先に。
蓮がいた。
「……あんた」
蓮が動きを止める。
「全部、あんたのせいや」
女性が銃を向ける。
「……!」
「代表!」
由夏の声。
その瞬間。
女性の指が動いた。
__パンッ!!
「__代表!!」
考えるより先に。
由夏の身体が動いた。
蓮の前へ。
覆い被さるように。
両腕を広げる。
次の瞬間。
背中に。
強烈な衝撃が走った。
「……っ」
息が。
できない。
身体から力が抜ける。
「……由夏?」
蓮の声。
由夏は何かを言おうとした。
けれど。
声が出なかった。
膝から崩れ落ちる。
「由夏!!」
蓮が受け止める。
腕の中へ倒れ込んできた身体は。
驚くほど軽かった。
「おい……!」
蓮の声が震える。
「由夏!!」
返事がない。
「由夏、しっかりせぇ!」
「……」
由夏の瞳が、ゆっくりと蓮を捉える。
ぼやけている。
何も見えない。
身体が冷たい。
痛みすら、もう遠い。
それでも。
蓮の顔だけは分かった。
ずっと好きだった人。
高校時代から。
1度も忘れられなかった人。
その人が。
自分の目の前にいる。
「……だい、ひょう」
「喋んな!」
蓮は由夏の身体を抱き締める。
「誰か!救急車!」
叫び声が響く。
由夏の頬を。
一筋の涙が伝った。
「……にげ、て」
「は?」
「はやく……」
由夏の声は掠れていた。
「代表……だけでも……」
「何言うてんねん!」
「みなさん……」
「俺が置いていけるわけないやろ!」
蓮の声が震える。
「由夏!」
「……」
「頼むから、目ぇ閉じるな」
「……」
「俺のこと見てて」
由夏は答えられない。
ただ。
静かに涙を流した。
__この人が無事なら。
それでいい。
そう思った。
その直後。
遠くからサイレンの音が聞こえた。
そして。
駆けつけた警察官によって、女性客は取り押さえられた。
