しかし。
事態は、由夏たちが想定していたよりも遥かに早く悪化した。
「ふざけんな!!」
女性が叫ぶ。
そして。
鞄へ手を入れた。
「……?」
由夏が眉を寄せる。
次の瞬間。
女性が取り出したものを見て。
「__!」
空気が凍った。
拳銃。
本物だった。
「……っ」
思わず息を呑む。
女性は震える手で銃を握り。
「動くな!!」
店内に絶叫が響く。
そして。
__パンッ!!
天井へ向けて、1発。
乾いた音が店内を貫いた。
悲鳴。
グラスが割れる音。
誰かがしゃがみ込む。
音楽も止まった。
さっきまで華やかだった空間が。
一瞬で。
恐怖に支配された。
「全員、落ち着いて!」
蓮の声が響いた。
代表として。
誰よりも冷静な声。
「愛莉!」
「はい!」
「湊!」
「了解!」
「客とキャスト、外へ!」
「分かった!」
「急いで!」
愛莉と湊が先頭に立つ。
「こっちです!」
「走らんといて!押さんといて!」
「大丈夫です、順番に!」
2人が客とキャストを誘導していく。
由夏も最後尾へ回った。
「こちらからお願いします」
「慌てず、壁際を__」
「大丈夫です。ゆっくりで構いません」
声は落ち着いている。
自分自身も怖い。
それでも。
仕事だから。
代表が残っているから。
自分が最後まで誘導しなければならない。
そう思っていた。
そして。
ふと。
蓮を見る。
「……」
蓮は動いていなかった。
店内に残っている人間がまだいる。
代表として。
最後まで残るつもりなのだ。
由夏には分かった。
__この人は、絶対に最後まで残る。
自分だけ先に逃げるなんて。
絶対にしない。
「……由夏ちゃん!」
愛莉の声。
「早く!」
「はい」
そう答えた。
けれど。
由夏は蓮から離れなかった。
