月末の夜。
店は、いつも以上に騒がしかった。
開店して間もない時間から次々と来店が続き、気づけば店内は満卓。
ホストたちはそれぞれの卓を飛び回り、黒服たちはグラスやボトルの確認に追われている。
煌びやかな照明。
大きな音で流れる音楽。
笑い声。
シャンパンが開く音。
そして。
「姫ー!タワーありがとうございまーす!」
「うおおおお!!」
1台。
また1台。
その夜だけで、何台ものシャンパンタワーが立っていた。
「わー!来ました!この景色!」
愛莉がスタッフルームからフロアを覗き込みながら声を上げる。
「さすが、締め日は盛り上がるなぁ」
湊もその隣から店内を見る。
「このまま何事もなければええんやけどなぁ」
「それ、フラグみたいやからやめて」
「ごめん」
そんな2人の会話を聞きながら。
由夏はタブレットを確認していた。
今日の売上。
各卓の状況。
キャストの出勤状況。
シャンパンの在庫。
明日の予約。
すべて頭の中に入っている。
忙しい。
けれど、慌てない。
どれだけ店内が騒がしくても。
どれだけ予定が変更されても。
由夏の声が乱れることはなかった。
__この時までは。
「ちょっと!」
突然。
フロアの一角から、怒鳴り声が響いた。
「話が違うやろ!!」
空気が変わった。
何人もの人間が振り返る。
由夏も顔を上げた。
「……?」
ある卓。
1人の女性客が立ち上がっている。
隣に座るホストは、必死になだめていた。
「ほんまにごめん、こっちの説明が__」
「うるさい!!」
女性がテーブルを叩く。
グラスが跳ねる。
「私がいくら使ったと思ってんの!?」
「せやから__」
「私はあなたに会いに来たの!」
「それは分かってるって」
「なのに何で他の女と楽しそうにしてんの!?」
周囲の客がざわつき始めた。
由夏はすぐに状況を判断した。
「……愛莉さん」
「ん?」
「黒服を数名、近くに」
「了解!」
「湊さん、代表へ」
「分かった」
蓮にもすでに異変は伝わっていたらしい。
少し離れた場所から、こちらを見ている。
そして。
「由夏」
「はい」
蓮が低い声で言った。
「万が一に備えといて」
「承知しました」
由夏はすぐに動いた。
