ENFJホストは、30歳INFJフリーターの初恋でした。



月末の夜。



店は、いつも以上に騒がしかった。



開店して間もない時間から次々と来店が続き、気づけば店内は満卓。



ホストたちはそれぞれの卓を飛び回り、黒服たちはグラスやボトルの確認に追われている。



煌びやかな照明。



大きな音で流れる音楽。



笑い声。



シャンパンが開く音。



そして。



「姫ー!タワーありがとうございまーす!」


「うおおおお!!」



1台。



また1台。



その夜だけで、何台ものシャンパンタワーが立っていた。



「わー!来ました!この景色!」



愛莉がスタッフルームからフロアを覗き込みながら声を上げる。



「さすが、締め日は盛り上がるなぁ」



湊もその隣から店内を見る。



「このまま何事もなければええんやけどなぁ」


「それ、フラグみたいやからやめて」


「ごめん」



そんな2人の会話を聞きながら。



由夏はタブレットを確認していた。



今日の売上。



各卓の状況。



キャストの出勤状況。



シャンパンの在庫。



明日の予約。



すべて頭の中に入っている。



忙しい。



けれど、慌てない。



どれだけ店内が騒がしくても。



どれだけ予定が変更されても。



由夏の声が乱れることはなかった。




__この時までは。




「ちょっと!」



突然。



フロアの一角から、怒鳴り声が響いた。



「話が違うやろ!!」



空気が変わった。



何人もの人間が振り返る。



由夏も顔を上げた。



「……?」



ある卓。



1人の女性客が立ち上がっている。



隣に座るホストは、必死になだめていた。



「ほんまにごめん、こっちの説明が__」


「うるさい!!」



女性がテーブルを叩く。



グラスが跳ねる。



「私がいくら使ったと思ってんの!?」


「せやから__」


「私はあなたに会いに来たの!」


「それは分かってるって」


「なのに何で他の女と楽しそうにしてんの!?」



周囲の客がざわつき始めた。



由夏はすぐに状況を判断した。



「……愛莉さん」


「ん?」


「黒服を数名、近くに」


「了解!」


「湊さん、代表へ」


「分かった」



蓮にもすでに異変は伝わっていたらしい。



少し離れた場所から、こちらを見ている。



そして。



「由夏」


「はい」



蓮が低い声で言った。



「万が一に備えといて」


「承知しました」



由夏はすぐに動いた。