真美さんに魔法をかけます

初デート

隣で真美がハンドルを握り運転をしている。とっさに思いついたデート、朝からまさかの出来事が起こるとは予期せぬ。真美は、淡いピンクのブラウスに、春風に揺れそうなベージュのスカートを合わせていた。いつもの仕事の日とは少し違う。その姿を見た瞬間、私は妙に緊張した。すると真美が気付いたのか「緊張しないでいいですよ」とにかく、まだ朝だ。腹ごしらえにモーニングと誘うと、真美はハンドルを喫茶店へと切った。その間。頭の中では、今日の計画が見えてこない。このあとどう誘えばいいなかと、思案していると、真美がカラオケを提案してきた。しかし、若い人が歌うレパートリーがない。なんたって年齢差30だ緊張で汗がすたたりおちる。思いついたのがチャットGPT。この次の行動を質問した。
「何、歌います?」
真美が楽しそうに聞いてくる。額から汗が一筋、頬を伝って落ちた。まずい。ここで選曲を間違えたら、「やっぱり年齢差三十歳ですね」と思われてしまう。
私はスマートフォンを取り出した。私は画面に文字を打ち込んだ。
「三十歳年下の女性とカラオケに行きます。相手に引かれない曲を教えてください」
すると、すぐに答えが返ってきた。私は画面を見ながら、思わずつぶやいた。
「なるほど……」
真美が覗き込む。
「何してるんですか?」
「いや……ちょっと、作戦会議」
「誰と?」
私は少し間を置いて答えた。
「ChatGPTと」
真美は声を出して笑った。
「そこまで緊張してるんですか?」
私は苦笑した。
「恋愛偏差値30だからね」
真美は笑いながら言った。
「じゃあ、ChatGPTに聞いてみましょうか」
こうして私は、人生で初めて、カラオケの選曲をAIに相談することになった。すると、真美が、のど自慢で歌った時の歌。歌ってくださいとリクエストしてきた。咄嗟に、郷ひろみの選曲となる。イントロが流れ始める。私はマイクを握った。さっきまで汗が止まらなかったのに、歌い始めると不思議と落ち着いてきた。真美は、何も言わずに私の歌を聴いている。一曲歌い終えると、真美が拍手した。
「上手ですよ」
「そうかな」
「緊張していた人とは思えません」
「歌っている間だけは、恋愛偏差値が上がるんだよ」
真美が笑った。
「じゃあ、今は何点ですか?」
私は少し考えた。
「……三十一点」
「一つしか上がってないじゃないですか」
二人で笑った。その瞬間、朝からずっと感じていた緊張が、少しだけ消えた。カラオケを出ると、まだ午後だった。
「このあと、どうします?」
真美が聞いてきた。私は考えた。映画?買い物?それとも、どこかで食事?でも、今日の目的は「完璧なデート」をすることじゃない。真美と一緒にいる時間を、もう少し楽しみたい。私は言った。
「ちょっと、海を見に行かない?」
真美は少し驚いた顔をした。
「海?」
「うん。天気もいいし」
真美は笑った。
「いいですよ」
真美はまだ私の年齢からしたら若いし可愛い。だけど、意外にも彼氏はいなかった。会ってみると、ああだこうだと妄想を膨らませていた自分がアホらしく思えたのであった。