おてんば令嬢と心を喪った騎士

 ――あたたかい。
 じんわりと温泉のように何かが自分を包んでいるのが分かる。
 レオンは、そっと目を開けた。

 彼は、緑色の魔力に繭のように包まれていた。
 その魔力の色に見覚えがある。
 ふと、顔を横に向けると、ベッドの傍で、ノエルがレオンの顔を覗き込んでいた。

「レオン~……!」

「お嬢様――」

 言葉を言い終えないうちに、ノエルが抱きつく。
 肺が圧迫されて、ぐふ、と息を漏らした。
 それでも、レオンはグスッと鼻をすするノエルの頭を、そっと撫でる。

「泣いていらっしゃるのですか」

「だっで、レオン死ぬがと思っだんだもの~……!」

 濁点混じりの声は震えていて、ボロボロと涙がこぼれ落ちていく。
 それを、レオンは指で優しく拭い去った。
 ――死んでも構わなかった、などと、今の令嬢には死んでも言えない。
 最悪、引っぱたかれる。
 レオンは空気の読める騎士だった。

「――レオンがわたくしのそばにいたら危険が及ぶわ」

「これが私の仕事なのですが」

「でも、わたくしはレオンに死んでほしくないの!」

 ノエルは、これから王子妃になろうとしている。
 その生命を狙うものはこれからも次々と現れるだろう。
 レオンは、命に変えても守りたい。
 けれど、ノエルはそれを望まない。

「レオンは私の護衛クビよ!」

 ノエルが笑顔でそう言い出して、レオンは面食らった。
 しかし、ノエルの笑みは、かなり無理をしている。

「これからは、あなたの自由に生きなさい」

「――その命令は聞けません」

「えっ!? あなた、命令違反できたの!?」

 今度はノエルが驚く番だった。

「道具は持ち主に逆らわないんじゃなかったの!?」

「貴女は私を道具として見ていませんよね。都合の良いときだけ道具にしないでください」

「あなたこそ、都合の良いときだけ人間に戻るじゃない!」

 2人で言い合っていると、ノックの音。
 エーデルワイス伯爵が、難しい顔で入ってくる。

「お父様。暴漢の正体はわかりましたか?」

「それが、妙なことになってしまったよ」

 伯爵家は、今回の事態を重く見て、独自の調査を行っていた。
 王子妃候補を狙った犯行かと思われたが……。

「――えっ。フィリップ殿下が暴漢を雇った……?」

「レオンが邪魔になったそうだ」

「あの人が自分でレオンをエーデルワイスから接収したのに?」

 ノエルも伯爵も、わけがわからないという顔をしていた。
 王子は結局、ノエルとレオンの仲を疑って、レオンを抹消しようとしたようだが、誰もそれを知る由もない。
 レオンだけが、キョトンとした顔をしている。

「そんなことする王子なんかと、わたくし結婚できません!」

「結婚しないでどうするんだい? この家にいる限りは政略結婚からは逃げられないよ」

 ノエルと伯爵が話し合っていると、

「――では、私と逃げますか?」

 今度はノエルがキョトンとする。
 レオンは、静かに、彼女に手を差し伸べていた。