おてんば令嬢と心を喪った騎士

「――わぁ、綺麗な景色!」

 ノエルは、高原で深く息を吸った。
 花畑の広がる野原には、陽光が差し込んでいる。
 高原から見下ろせば、王都が小さく見えた。

「わたくしたち、あんな小さくて狭い世界で生きていたのね」

 ――ノエルとレオンは、伯爵家を出奔した。
 エーデルワイス伯爵から、支援金はもらっている。
 食べるのには困らない程度のお金もあるし、レオンはノエルに不自由をさせないと心に誓っていた。

「守られてきたことには感謝してる。でも、これからの人生を決めるのはわたくしよ」

 そう言い切った娘の姿を、伯爵はむしろ喜んでいたように見える。
 魔法の力を知られないように、自由を奪って屋敷の中に拘束していた。
 そして、今度は王家に奪われようとしていた。
 そんな娘に負い目があったのかもしれない。
 ……まあ、ただのレオンの推測に過ぎないが。

「これから、いかがいたしましょうか、お嬢様」

「王国のいろんな地域の風景を見てみたいわ。一緒についてきてくれる?」

「もちろんです」

 レオンが花畑に咲いている、小さな白い花を摘み、令嬢の髪に挿す。
 ノエルは幸せそうに目を細めて、レオンの真紅の瞳を見つめた。

「もうあなたにお給金は出せないかもしれないけど、それでも従ってくれるの?」

「ええ。今も私は貴女の剣です。――ただし、命令は関係ありません」

 レオンは、今まで見せたことのない、優しい微笑みを浮かべている。
 そうして2人は連れ添って、王国各地を巡る旅に出るのであった。