異世界から来た魔法使いで何が悪い?

 「僕が君が魔法学校に行けるか決める、審査員だからね」

 杠葉 舞、人生最大のチャンス……いや、ピンチです?!

 春休みが空け、入学式がやってくる。
 中学受験に落ちた私は、地域の市立校に通うことになった。
 てことは、あの人が居る……!!
 私が本当に受験に受かりたかった理由は……。

 「あら。 受験したんじゃなかったの?」

 後ろから聞こえる、私の聞き飽きたほど聞いた声―――。
 「ル、ルル……っ。」
 「またこうして同じ学校に通えてるのよ。よろしくね」
 「なんでルルだけ? 私たちもいるんだけど〜」
 そういって、先を行く背中四つ。
 ルル、ナナ、ララ、ココ。
 この四人はいつも一緒で、一緒にいないところを見たことがないくらい。
 そしてこの四人が私を……っ。

 ―――いじめてたんだ。


 「えぇ〜、今年も同じクラスなんだ?よろしくね〜」
 (う、うそでしょ……)
 「今年も同じクラスとか、運命〜?」
 「ギャハハ、運命ウケる笑」
 せ、せめてクラスだけでも別れたかった……!
 (今年もルルたちと同じクラスになってしまった……)
 も、もはやコレは運命と言っても過言なのかもしれない。
 ―――だってずっと同じクラスなんだよ!?
 私が小学校に転校してからずっと!
 もう、ナニコレ?! 神様のいたずら!!?
 ……でも、そうかもしれない。
 私には昔から神様に意地悪されているから。


 「はぁ……」
 ふと、ため息が漏れる。
 ルルたちと同じクラスっていうのでドッときたし、これからもルルからいじめを受けるんだと思うと、辛すぎて仕方がない。
 まぁ、でも、仕方ないよねって流せる。
 私は悪くないんだもん。
 悪いのは全部、神様なんだもん……っ。
 息をつき、黒板書かれた自分の出席番号を照らし合わせ、自分の席に腰をかける。
 ……そのときだった。

 ブワァァァアッ

 「っ!?」
 なん、だこれ。
 どこからか探知される、えげつない反応。
 これは……。

 魔力だ……っ。

 魔法使いには、魔力というものがつきものであり、魔力があるほど強い魔法使いだと分かる。
 でも。
 (な、ナニコレ……。こんな魔力の多さ、見たことない!)
 これほど多い魔力は、私が生まれた時から見たことも感じたことがない。
 今まで会った魔物だって。
 魔法学校の試験会場にいた大勢の受験者だって。
 も、もしかして魔物か……??
 なら討伐しないと……。
 でもここで私に不安がよぎる。
 でも、この世界で魔法を使っていいのかな……? しかもこんな大勢の前で?
 でも、攻撃してみろ。
 こんな魔力の相手、勝てるわけない。
 攻撃をしたとて、ただ騒ぎになって私はすぐに敗れてしまうだろう。
 (っ……!? 嘘でしょ……?こ、コッチに向かってる……!?)
 魔力は、近くにいなくとも感知でき、近づいたり離れたりしたら何となくわかる。
 う、そ。こんなに私の少ない魔力も検知出来るの?
 特大の魔力がこちらに向かってくる。
 (魔物だったらどうしよ……っ)
 私は冷や汗と鼓動が収まらなかった。
 だって。
 私は専門、治癒魔法の魔法使い。
 攻撃魔法じゃない。治癒魔法に特化している。
 だから、魔物との戦闘経験が少ない。
 そして、もちろん強くはない……。
 私が中学受験に落ちた理由もそうだ。

 私は、魔物に勝てないから落ちたんだ。

 そんな未熟で弱い魔法使い、この学校にいらないってね。
 ……ってそんな事言ってる場合じゃ……っ。
 ―――――そのとき。
 ガラッ
 (……っ!!)
 どうしよ、終わった。
 ……と思ったんだけど。

 入ってきたのは……人間だった。

 黒いストーレート髪センター分けの、眼鏡をかけたつり目の明らかな男子だった。
 (魔物じゃなかった……)
 私は安心からほっと胸を撫で下ろす。
 ……でも。
 (すごい……こんな魔力の多い魔法使い、みたことない……)
 その同じクラスに入ってきた黒髪の眼鏡くんは、見たことないほどの魔力が立ち上っていた。
 たださえ、試験会場でもこんなに多い魔力を持った魔法使いはいなかったはず。
 そうとう強い魔法使いなんだろうな……。
 あれ、でもなんかひっかかる。

 こんなに魔力多いなら、絶対受験、受かったんじゃない?

 なんでこんなところに……?
 「君が『杠葉 舞』さん?」
 「ヒョッ!?」
 びびびっくりした!!!
 いつの間にか、その眼鏡くんが目の前に立っていたんだ。
 びっくりしすぎて、座っていたはずの私の体は、肩が跳ね上がっていつの間にか起立していた。
 「えと、私になにか……」
 「ちょっと一緒に来てくれる?」
 「え」


 「……ここは……校長室?」
 私は黒髪眼鏡くんの後ろについて行き、大きな茶色の引きドアがある部屋の前に連れてこられた。
 「……厳密には違うかな」
 そう言い放つと、眼鏡くんは私を置いてどっかに行ってしまおうとする。
 「えっえ、なんで私はここに連れてこられたの!」
 ちゃんと彼に聞こえるように、大袈裟に大きな声で伝える。
 すると彼は振り返りもせずに……。
 「……中で君をお待ちしている人がいる。普通連れてこられたんなら分かるでしょ」
 「おッ……。スミマセン 」
 急な辛辣な発言に、私はびっくりして体を縮こませる。
 私が謝った後に、彼はスタスタと教室に戻って行く。
 (わ、私に用って、なんなんだろう……?)
 思い当たる節が見つからない。
 ていうか、入学早々校長室(?)に呼び出されるって、そうとうやばいことなんじゃ?!
 急に顔がサァーと青ざめる。
 (……でも、中で待っててくれてるらしいし……。てか、早く話を終わらせて教室に戻らないとっ。)
 そう急ごうとしてドアノブに手をかけたが……。
 「……………………っ」
 や、やっぱ無理かも〜!
 流石に怖すぎるって!
 初めましての学校来て初めましての人に案内されて初めましての校長先生(?)に呼び出されたんだよ?!
 (はぁ、入学早々ついてない……)
 開けないと……。でも怖すぎる!
 そのとき。
 「早く入ったらどうかね」
 「!?」
 中から、渋い年老いた男性の声が。
 な、なんで私がドアの前にいるって分かった?!
 ……いや、そっか。さっきあんな大声出したからか。
 「す、すみません! 失礼します!」
 やっと私は校長室(?)に入れましたとさ。

 「そこ、自由に腰掛けてくれ」
 「は、はい……」
 中にいたのは髭を生やした、明らかな年老いの男性。
 ソファが向かい合っている奥には、大きな机にイス。
 ……明らかに校長室。
 (でも、厳密には違うんだよね?)
 さっき、眼鏡くんが言っていたこと。
 あれはどういう意味だったのだろう?
 うーん、と頭を抱えていたら。

 「君が朝の歩魔法学校に落ちた、『迷い人』だね」

 「っ……?!」
 年老い男性の口から出た、『迷い人』という3文字。
 「どっ、どうして迷い人を知ってるんですか!!」
 つい私は身を乗り出しながら、大きな声を出してしまう。
 だってそうなんだ。
 迷い人は異世界からこの現代に迷い込んでしまった人のこと。
 普通のこの世を生きてる現代人が知るはずの無いものだから。
 「落ち着いてくれ。 わしは君にチャンスを与えにきたのだ。」
 「チャンス……ですか」
 「そうだ……。 もし認められれば、お前が朝の歩魔法学校に通う権利を授けよう。」
 「っ?!」
 朝の歩魔法学校。
 私の落ちた迷い人のための魔法使い名門校。
 でも私は、通う権利を授けるという事にびっくりしたのではなく……。
 「……なぜ、朝の歩魔法学校を知っているのですか」
 私がその質問を最初にするとは思わなかったのか、年老いの男性は目を見開く。
 「……ほほう。 それは簡単なことだ。」
 そう目を細くした笑顔の口はゆっくりと開き――。

 「わしがその魔法学校を運営する、理事長だからね」

 「……えっ?!」
 ここの校長ではなく、朝の歩魔法学校の理事長?!
 「……なぜここにいるんですか!?」
 「だから先程言っただろう。……チャンスを与えに来たのだ」
 そう言うと朝の歩魔法学校の理事長は、ティーカップにポットから紅茶をそそぐ。
 そして私の目の前にコト、と置く。
 「あ、ありがとうございます……」
 私に紅茶を、渡すと理事長はようやく私と向かいのソファに座る。
 そして、理事長も自分の分を注ぎ、一服した後。
 理事長はようやく口を開く。
 「さっきも言ったように、わしはお前にチャンスを与えに来た。そのチャンスを掴むことができれば、朝の歩魔法学校に入学を認める。」
 淡々と続けると、理事長は手に持っていたティーカップをテーブルに置く。
 「……認められるには、どうしたらいいんですか?」
 「それもまた簡単なことだ。」
 そういうと、ゆっくりと理事長は顔をあげ――。

 「学校内の教員含む生徒たちを、怪我ひとつせず守ることだ。」

 「っ……。」
 今日初めて目が合った理事長の顔は、口角は上がっているようで目が笑っていない。
 なんというか、不気味というか……。
 「守る、とは具体的にどういうことですか」
 私は彼と目を合わせるのが怖くなり下を見ながら詳細を聞く。
 「……君はこの世界に迷い込んだ時、どこから迷い込んだ」
 「え……」
 突然逆質問されて、頭をフル回転させる。
 「えと……豪邸の奥の部屋の鏡からこの世界に来て……。そうそう、鷹野山(たかのさん)というところから……」
 そうだ。私がこの世界に降り立ったのは学校のすぐ側にある鷹野山というところから来たのだ。
 上から見ると高くそびえ立つビルや横断歩道がたくさん見える山。
 ハイキングにも低くて初心者向けだと有名で人気な山だ。
 なぜそれを聞いた……?
 「考えてみろ。そこから魔法使いや異世界者が来るということは、魔物もそこがこの世界に来る入口ということだ。」
 「……!」
 「魔物の飯は人間。ここは多くの生徒と教員が働く場所。つまり?」
 「――――魔物にとって絶好な場所言うこと……っ」
 消え入りそうな声。
 あまりにも恐ろしかったからだ。
 私がそう返答すると、理事長は深くうなずく。
 「迷い魔がこの世界に来た時、一番最初に狙いに来る場所ということだな」
 「……っ」
 怖くて恐ろしくて、声も出なかった。
 だって私は、昔―――!
 「それじゃあ、あとは頼んだぞ、―――ノア」
 「――――はい」
 「!」
 扉の向こうから、先程聞いた男子の声が。
 これは、さっきの……!
 「果たして、君がこの学校が守れるかね」
 理事長がそうつぶやいていたことは、私の耳には届きませんでした。


 「はいこれ」
 「あ……、ありがとう」
 部屋を出ると、さっき私もここへ連れていってくれた眼鏡くんが私のカバンを渡してくれ、先を行って無言で学校の外へ案内してくれる。
 あぁっ、もしかして、もうみんな朝の時間が終わって、帰っちゃったのかな……っ。遅かった……。
 それにしても……。
 (魔力、すごいな……)
 後ろ姿の彼からは、壮大な魔力がもえあがっている。
 眼鏡もして目元が見えなく地味そうな彼は、ものすごく強い魔法使いなんだ―――。
 (これだけの年齢でこんなに魔力あるなんて……。どんなすごい努力したんだろ)
 色々彼には聞きたいことがある。
 声掛けたら、聞いてくれるかな。
 (いいや、聞いちゃえ!)
 私は意を決して……!
 「ねぇねぇ、君も魔力があるってことは、『迷い人』なんだよね? こんなに魔力あるのすごいね! どんな努力したの?」
 そのとき、突然彼は歩くのをやめて、足を止めた。
 (あ……)
 い、いっぱい聞きすぎた?! やばいどうしよ、せっかちな子だって思われたかな。
 足を止めたまま、一言を発さない彼。
 それに合わせて私も足を止める。
 「ご、ごめん。せっかちだった……」
 慌てて謝る。
 「……」
 あ、謝っても応答なし……、と。
 なるほど……。こういう子か……っ。
 でもその時。
 「……!」
 ゆっくりと彼はこちらへ振り返った。

 「蒼井 希空(あおい のあ)。 ……ノアって呼んで欲しいかな」

 「!! うん!呼ぶ!」
 彼は振り返って目を合わせながら、答えてくれたのだ。
 返してくれたことに、嬉しくて感激してしまう。
 そして話が続いてるうちに、色々聞こうと話を広げる。
 「ねぇ、ノアくんは『迷い人』で、優秀な魔法使いなんだよね?」
 「…………うん」
 やっぱりそうなんだ! 理事長から私を連れてくるよう言っただけあるね。
 「すんごい! 私とは大違いだねー」
 ハハハと、一人で笑う私。
 それと、聞きたいことがもう一つ。
 「あとさ……、私の名前知ってたよね?」
 そう。彼はクラスに入ってすぐに、私の名前を呼び、部屋に案内してくれた。
 まるで、私がこのクラスにいて、部屋に行く用事が分かっていたように……。
 「ノアくんは……どうしてここにいるの? こんなに魔力あるんだったら、絶対、学校受かってたよね? どうして市立に……ハッ」
 横を見ると、彼は氷のような眼差しを地面にさしていた。
 (しまった〜!)
 「な、なにか事情があったからここにいるんだよね……。ごめんね、こんな性格で……。」
 ことごとく地雷だなぁ……。
 「……」
 「…………っ」
 またしても応答なし、か……っ。
 はぁ、人間関係ってムズカシ……。
 「あやまらないで」
 「……!!」
 急にノアくんが口を開くもんだから、びっくりしてしまう。
 「僕がここにいるのは、一時的に。 用がすんだら朝の歩に戻るよ」
 「え……!」
 そうなんだ、戻っちゃうんだ……?
 と、いうか、用ってなんだろう?
 優等生に用ってだいぶだよね―――?
 「―――――用ってなんだって思ってるでしょ」
 「!!!??」
 な、なんと?!
 「えっええぇっ?! ノっ、ノアくんてテレパシーの魔法使えるの?!」
 もしかして、今までの全部読まれ―――??!
 「いや、流石にテレパシーは。」
 「使えないの? じゃあなんでわかったの!?」
 気になりすぎて、彼を問い詰めてしまう。
 でも、こんな時でも彼は冷静で……。
 「落ち着いて。」
 彼は身を乗り出して覗きに来る私の肩を抑え元の位置へ戻す。
 「あぁ、ごめんなさい……」
 やばい……。 絶対めんどくさい人認定されてる……。
 「な、なんでわかったの……?」
 今度こそ引かれないように、恐る恐るたずねる。
 「……いや、分かりやすいから」
 「……!!?」
 わ、わわわゎ分かりやすい???
 私が?
 「顔に出てるって言うか」
 「な、ななななんだって?!」
 かっ、顔に出てるって初めて言われた!!
 自分では気づかないものなの?!
 ガーン……。
 一人で百面相してたら。
 「フフッ」
 「……えっ」
 隣を見ると、さっきまで氷の顔だったノアくんが、顔をくしゃっとして笑ってたんだ。
 「いや、ごめん。 コロコロ顔変わって面白くてつい。」
 そういうと、彼はすぐに顔をいつもの様に戻す。
 笑ってる顔、すんごく優しそうだったな……っ。
 でも、なんだかさっきの時より目が優しい気がしたんだ。


 「でさ、用って、結局なんなの……?」
 優等生魔法使いのノアくんが市立でやりたいことってなんなんだろうって。
 どうしても疑問に思ったんだ。
 「ねぇ」
 「ん?! うん!!」
 「君はさ……、朝の歩魔法学校に、行きたい?」
 「え……?」
 そんなの……っ。
 「当たり前じゃん!もちろん行きたいよ!!」
 にっこりと答えると、彼は「そっか」と短く切って言う。

 「じゃあ……、厳しめにしないとね」

 「……え?」
 きびしめ?
 ノアくんが何の話をしてるのかついていけなくて、疑問に思う。
 「そうだよ」
 そういうと、下駄箱から自分の靴をとって床に置き、靴を履いたあと、もう一度私を見て……。

 「僕が君が魔法学校に行けるか決める、審査員だからね」

 「……え」
 し、審査員……??
 「ノっ、ノアくんがっ!!!?」
 「うん」
 そう言い捨てると、昇降口に向かい……、振り返って。
 「明日から隣の席で審査させてもらうよ。 ―――杠葉 舞さん」
 そう言って、立ち尽くす私を置いて、ノアくんは一人帰って行ってしまった。