夜桜顛末記

部活には入っていないから、授業が終わって、ホームルームが終わったらすぐに帰る。
帰り道。

…よし、誰もいない。

私は、すぐ隣にあった公園のフェンスに足をかけた。
フェンスは少しだけみしっと音を立てた。
そのままフェンスを踏み台にして隣の塀に登って、よく猫がやっているように、塀の上を歩く。
危険なやつとして何回か学校に通報されたが。
吹っ切れてどうでも良くなった。
少し行くと、塀の上のこの道は途切れる。
3メートルほどある塀と塀の間。
少しだけ勢いをつけて飛ぶ。
向こう側の塀の縁を掴んで登る。
私に気づいて、塀にとまって一休みしていた鳥たちが飛んでいく。
私を見ると、人間も鳥も逃げるのだ。
別に私は不良ではないし、怖いと言うわけではないのだろうが。
ただ、話しかけづらいのだろう。
「『元』天才」には。

塀の上をしばらく歩いて、いつもの曲がり角で塀の上から飛び降りた。
玄関の扉を開ける。
「あら莉華、お帰りなさい」
リビングでテレビを見ていた母さんがこちらを向く。
「ん、ただいま」
私はリュックを下ろしながら返事をする。
「そういえば今日肉じゃがよ、莉華の好きなやつ」
母さんは私が学校でどんなことをしているか知らないのだろう。
昔は罪悪感を感じていたのだろうが、今はそんなものも感じなくなった。
「お弁当と水筒、出しておかないと洗わないわよー」
母さんのそんな言葉を聞き流しながら、私は階段を上がった。