モテ男とデキ女の奥手な恋


 初日はミーティングを終えた後、資料確認やオフィス環境の確認に費やした。
 先方へのアポ取りを任せた課長の上家さんは、電話を切ると言った。
「明日の朝なら会えるそうだ。ーーただし、会長が会えるかどうかは分からないと言われたが」
 上家さんは苦笑している。俺は頷きながらも、その不信感を改めて感じた。
 翌日、江原さんと出かけると聞いて、案の定絡んできたのは阿久津だ。
「なーんだよ、マーシー。次はアキ狙いなわけ?来て早々、さすがエースは違うねぇ」
「阿久津先輩はお忙しいだろうからね。悪いけど江原さんを借りるよ」
 阿久津の言葉を適当に流した俺は、鞄を手にして江原さんに声をかけた。
「行こうか。江原さん、車運転できる?」
「できます」
「よかった。じゃあ頼む」
 江原さんは一瞬の間の後に頷いて、鞄とコート、車の鍵を出して来た。
「神崎さんて、結構、フェミニストなんですね」
 助手席に乗り込んだ俺に、江原さんは意外そうに言った。
 どこかで聞いた言葉だ。わずかに懐かしさを感じながら、俺はふと笑う。
「誰にでも公平に関心がないだけかもしれないよ」
 やはりそのときのフレーズを思い出しながら少し意地悪に言うと、江原さんは笑った。
「勝手な都合で振り回されるより、その方が全然マシです」
 誰が振り回すのか、あえて聞く気にはならなかった。俺は苦笑を返しながらシートベルトを留めた。
「神崎さんは、運転するんですか、日頃」
「たまにね。でも車持ってる訳じゃないし、都内だと乗ることもほとんどないから。こっちじゃ土地勘もないし、しばらくは運転しないで済むといいんだけど」
「そうですよね。都心だと、車なくても生活できますもんね」
 江原さんの運転は規則通りで大変安心だった。制限速度通りに走っているため、時々後ろから追い抜かれることを除けば、だが。
「関東に比べると、こっちはみんな運転慣れしてる分、乱暴なドライバーも多くて。私、免許は都内で取りましたけど、こっちに戻って来たら、こんなに違ったんだーって」
「江原さん、都内にいたの?」
 話の内容から推察して問うと、江原さんは頷いた。
「大学が都内だったんです。こっちだと大学の選択肢も少ないし、就職を考えても一度都内に出ておこうかな、って」
「そこまで考えて大学選んだの。偉いなぁ」
 感心して言うと、江原さんは笑った。
「神崎さんと話してると、なんか不思議です。年上の男の人なのに、先輩ぶらないし」
 俺は肩を竦めた。
「先輩ぶるほどの実力もないからね。本社から来たとはいえ、ホントに役に立てるのか自分でも疑問だよ」
 江原さんはちらりと俺の方を伺い見てから、妙に確信したように言った。
「少なくとも、今までみたいに関係が硬直することはないと思います。神崎さんがいれば」
「そうかな。……進むといいけどね。できれば、いい方向に」
 江原さんも頷いた。