モテ男とデキ女の奥手な恋

『隼人が女の子連れてきたのよ!大学のサークルで出会ったんですって。近くの女子大の子よ』
 うきうきと弾む母の声が電話口でそう語ったのは、今年ももう終わろうという頃だった。
 隼人は7つ離れた弟だ。我が弟ながらよくできた奴で、 何をやらせても器用にこなす。
 俺も世間的に決して悪くない大学を出たが、隼人は国内トップのT大卒である。
 この年の差があってよかったと何度思ったことか。両親や、2歳上の姉がベタベタに可愛がっていた。
 大人になって考えてみれば、恐らく隼人ができたのは両親にとって「計算外」だろう。隼人が産まれたのは母が37歳のときだった。
「マジで?早くない?あいつ25だろ」
『早くないわよー。お父さんだって結婚したの27だもの。相手の子同級生だし』
 あんたみたいに遅い方が心配だわ、と、案の定お小言をたれる。
「昨今の男の平均初婚年齢、35だけど」
『あら、そうなの?じゃまだあんたも行き遅れじゃないのね』
 男にその表現はありなのかわからないが、あえてスルーして問う。
「で、どんな子?」
 母はイキイキ話し始めた。
『しっかりしたいい子よ。にこにこして、はきはき答えて。市役所に勤めてるんだって。あんたも誰か紹介してもらいなさいよ』
 また変な方向に話が向かいそうになったところで、電話のキャッチが入る。
「あ、電話きた。悪いけど切るよ。また」
『またって言って、かけてこないくせに』
 母が嘆息しながら言って、じゃあねと電話が切れ、切り替わる。
『Hello?』
 声を聞いて、俺は苦笑した。噂の張本人だ。
 今お前の話を聞いたところだ、と英語で返すと、隼人は笑った。
 隼人は大学在学中にアメリカに留学していた。外資系企業に勤める俺が、ちょうどボストンにいた頃だったので、なにかと便を図ってやったし、母も安心して送り出したようだ。
 英会話を忘れないように、という隼人の希望で、俺との電話は英語だ。
『急なんだけど、明日の午後、時間ある?』
「あるけど。なに、お前のハニーに会わせてくれるの?」
『まあ、そんなとこ』
 隼人の声は晴れ晴れしていた。俺は笑って答える。
「いいよ。野暮用はキャンセルしとく。可愛い弟のフィアンセに会えるチャンスだからな」
 隼人も笑って、Thanks、と短く答える。時間と場所はまたメールする、と言って隼人は電話を切った。