後ろの魔王様

・ ・ ・


──キーンコーンカーンコーン……


日本史の授業が終わり、教科書を閉じる。

後ろの席では相変わらず、ふわふわの金髪頭が机に突っ伏して、気持ちよさそうに眠っていた。


次の授業も、教室を移動する必要はない。

そのまま寝かせておこうと思い、そっと席を立つと、ガシッと掴まれる手首。


「ここちゃん……どこ行くのォ?」


ふわふわ髪の隙間から、垂れた茶色い瞳が覗く。


……寝てたよね、この人?


「トイレだよ、ついてこないでね」

「ふうん……早く戻ってきてねェ」

「はいはい」

「はい、は一回でしょ〜」

「……はぁ〜い」

「あは……ここちゃんかわい」


とろん、とした眠そうな目でそんなことを言うんじゃない。ドキッとしてしまったじゃないか……!


「も、もう!トイレ行くんだから手離して!」


掴まれていた手を振り解くと、簡単に離される。

英くんはそのまま、もう一度夢の世界へ……。

熱くなった頬を誤魔化すように、私は眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げた。


最近はかわいい、だとか、そういう言葉も増えてきた。

ドキドキするからやめてほしいけれど、これも言ってもきかない。


まったく……。
とんだワンコ魔王様だよ。


私は教室を出て、トイレへ向かう。

賑わう廊下を一人で歩くのも、このときくらい。

少しだけ伸びをし、廊下を歩いていくのだった。