「紅ちゃんの手、あったかい」
伊久間くんが少し掠れた声で呟いた。
やがて、もう片方の手が頬に触れる。
「……紅」
呼び方が変わる。
触れるだけのキスをして、少し離れる。
そして、もう一度唇が重なった。
その夜の奏斗くんは、いつもより少し甘かった。
何度も名前を呼んで、触れるたびに私の顔を見る。
「紅、こっち見て」
言われるまま顔を上げると、目が合った。いつだって優しい。けれど今日は、確かめるみたいに何度も私を見つめていた。
「奏斗くん……今日、どうしたの?」
聞くと、奏斗くんは少しだけ笑った。
「なにが?」
うまく言葉にできずにいると、頬に触れていた手が髪を撫でる。
「紅がかわいいからじゃない?」
「そういうのじゃなくて……」
「じゃあ、どういうの?」
「……分かんない」
奏斗くんは小さく笑う。
「分かんないなら、いいじゃん」
耳元でそう言って、もう一度私を抱き寄せた。
