嘘つきな3人


◇

その日、伊久間くんが事務所へ戻ってきたのは夕方を過ぎてからだった。

「ただいま」

いつもと変わらない声だったけれど、コートの裾が少し汚れている。靴にも乾きかけた泥がついていた。

「おかえり。現場、遠かったの?」

「まあ、ちょっとね」

伊久間くんはそれだけ答えて、自分の机へ向かいながらコートを脱いだ。そして机の上に置かれた書類へ手を伸ばしたとき、指先が赤くなっているのが見えた。

「外寒かった? 手、冷たいでしょ。赤くなってる」

「……今日、やばい。風花(かざはな)舞ってるよ」

「何の調査で遠くまで行ってたの?」

冷たそうな赤い手が気になって、いつもはあまり気にならなかった伊久間くんの仕事を尋ねた。

「浮気男待ち」

けれど、軽い調子で返されてしまった。探偵の仕事なら、外で何時間も待つことくらいあるのだろう。

私はそれ以上聞かず、手元の数字へ視線を戻した。