「イーシアの主要産業は?」
30歳ぐらいのおっさん先生に聞かれたエドは、被せ気味に答える。
「製薬、医療関連企業」
先生は満足そうに頷くと隣の俺を見て聞いた。
「もう一つは?」
とっさに考えた。港で働く大勢の人達のことを。
「船の整備とかですか?」
「うん。船舶の整備と検査だな」
そっけなく答えると、先生は付け加えた。
「まあ、港湾企業の売上を合計しても、ベルグメディカルの半分にもならないけどな」
授業が終わると、ドミトリーの自分の部屋に勉強道具を置きに行った。
窓の向こう、遠くに港が見える。
ベルグメディカル。
昔、母さん父さんと住んでた街にある、大きな会社だ。
すごい広さで芝生が綺麗に敷かれてる。いつ見ても、人影はまばらで、素敵な公園みたいなところだった。
そんな会社が、あの港の何倍も稼いでるなんて信じられない。
あれだけ大勢の大人が、昼も夜もごちゃごちゃと働いているのに。
まあいいや、よくわかんないし。
フンと息を整えて、外に出た。
門のところに行くと、エドとオウガ君はもう来ていた。
オウガ君と並ぶとエドの背の高さが改めて分かる。
「一番コロッケ食いたそうな奴が、遅れんなよ」
「エドだって食いたいでしょ?」
俺達の仲睦まじさがうっとうしいのか、オウガ君は冷たく言った。
「行くぞ」
マエハラ通りは灯台広場につながる通りで、賭け事のお店ばっかり。
大人のお店ばっかりのコワキ通りとは違って、ゴミは少なくて臭さもマシだ。
一見バーかと思いきや、中に沢山のテレビが置かれている店があって、足を止めた。
沢山の画面に、色んなスポーツの試合が映っている。
野球、レース、モーターボート、競馬、そしてサッカー。
見とれているうちに、二人においていかれて、慌てて追いかける。
どこもかしこもコンクリ剥き出しの建物ばっかりの騎炉区だけど、この街にはなんとも言えない穏やかさがある。
着飾ったお姉さんが、チョッキを着た小太りの金持ちそうなおじさんと、入口に幕が掛かった建物に近づく。
中から黒服さんみたいな人が出てきて幕を開け、頭を下げた。
「いかにも金持ってそうだな」
エドがじっと観察しながらつぶやく。
「なんのお店かな?」
「金持ちが行くカジノだよ」
オウガ君が、そんなことも知らないのかって顔で言う。
「オウガ君、こんなとこ来てるの?」
「先輩にすごい人を紹介してもらってさ」
「ふーん……。あれ?」
揚げ物の油の匂いがする。これは、まちがいない!
「エド!」
「ああ、食いもんだな」
「おまえら貧乏かよ」
3人でしょうもない会話をしながら、ようやく着いた屋台の前に立つ。
オウガ君が急にビシッと背筋を伸ばして、屋台のお兄さんに頭を下げた。
びっくりしながら、俺とエドもちょっと頭を下げる。
「お疲れ様です!」
「あれ? オウガ? お前、また来たの?」
「へへ。すみません」
威張るのが好きな人に限って、自分より強そうな人には、とっても腰が低い。
「なんだよ、またひもじいのか? オウガ」
シブすぎる声がして、恐る恐る振り返ると、優しそうなおじさんが立っていた。
別にビシッとしたカッコをしているでもなく、普通のズボンにシャツ姿だけど、顔がかっこいい。
けど、やっぱり強そうで、怖そう。
「あ! ナカサワダさん! お疲れ様です」
日本の戦争映画で見るような、ピシーっと伸びた背筋を前に傾ける、丁寧なお辞儀を見て、さすがに俺も従った。
ところがエドは、ちょこっと頭を下げるだけ。親友だけど、こういうところはどうなのかと思う。
「おお、友達連れてきたのか?」
「はい!」
「お、お前ガタイいいな。なんていうんだ?」
「エド・リンジです」
二人は揃って笑顔を見せているが、エドの顔には少し緊張感がある。
「エドか。メガネなんか掛けてっと、舐められるんじゃねえか?」
エドは普通の笑顔になった。
「いやあ、もう慣れました」
ナカサワダさんは、腕を組み感心したように頷くと、エドの肩に手を置いた。
「ま、それだけ堂々としてたら、簡単には舐められねえわな」
そう言うと、今度は俺に向かって
「お前も落ち着いてるよな。名前は?」
「キュー・エザキです」
ナカサワダさんが目を丸くした。
「キュー! 日本のおばけか?」
お化け? わからずに考え込んでいると、ナカサワダさんは笑って俺の頭をぽんと叩いた。優しく。
「日本のそういう漫画があるんだよ。よし! じゃあごちそうしてやるか」
そして屋台の方を向いて大声で
「おい! 1個ずつ食わしてやれ!」
と言うと、ナカサワダさんは俺達に手を軽く振って去っていった。
カッコいいけど、ちょっとキメすぎな気もした。
オウガ君は、ちょっと不満そうな顔でエドを見ていたが、すぐに屋台に向き直った。
「あ! いいんですか!? すみません! いただきますっ!」
威張ったり、頭下げたり忙しいオウガ君だ。
エドはナカサワダさんの後ろ姿を、ただ黙って見送っている。
ナカサワダさんは川倉の幹部だろうと察しがついたけど、エドも同じだろう。
オウガ君は、自分がギャングの幹部と知り合いだって俺達に見せたかったのかもしれない。
エドに向けた不満そうな顔も、それなら説明がつく。
いや!
今はそれどころじゃない!
俺はオウガ君が持ってきた、新聞紙に包まれたコロッケ3個に飛びついた。
「おい!」
「ちょ、ちょっと見せて!」
ここは慎重にならないといけない。
一番大きいのはどれだ?
30歳ぐらいのおっさん先生に聞かれたエドは、被せ気味に答える。
「製薬、医療関連企業」
先生は満足そうに頷くと隣の俺を見て聞いた。
「もう一つは?」
とっさに考えた。港で働く大勢の人達のことを。
「船の整備とかですか?」
「うん。船舶の整備と検査だな」
そっけなく答えると、先生は付け加えた。
「まあ、港湾企業の売上を合計しても、ベルグメディカルの半分にもならないけどな」
授業が終わると、ドミトリーの自分の部屋に勉強道具を置きに行った。
窓の向こう、遠くに港が見える。
ベルグメディカル。
昔、母さん父さんと住んでた街にある、大きな会社だ。
すごい広さで芝生が綺麗に敷かれてる。いつ見ても、人影はまばらで、素敵な公園みたいなところだった。
そんな会社が、あの港の何倍も稼いでるなんて信じられない。
あれだけ大勢の大人が、昼も夜もごちゃごちゃと働いているのに。
まあいいや、よくわかんないし。
フンと息を整えて、外に出た。
門のところに行くと、エドとオウガ君はもう来ていた。
オウガ君と並ぶとエドの背の高さが改めて分かる。
「一番コロッケ食いたそうな奴が、遅れんなよ」
「エドだって食いたいでしょ?」
俺達の仲睦まじさがうっとうしいのか、オウガ君は冷たく言った。
「行くぞ」
マエハラ通りは灯台広場につながる通りで、賭け事のお店ばっかり。
大人のお店ばっかりのコワキ通りとは違って、ゴミは少なくて臭さもマシだ。
一見バーかと思いきや、中に沢山のテレビが置かれている店があって、足を止めた。
沢山の画面に、色んなスポーツの試合が映っている。
野球、レース、モーターボート、競馬、そしてサッカー。
見とれているうちに、二人においていかれて、慌てて追いかける。
どこもかしこもコンクリ剥き出しの建物ばっかりの騎炉区だけど、この街にはなんとも言えない穏やかさがある。
着飾ったお姉さんが、チョッキを着た小太りの金持ちそうなおじさんと、入口に幕が掛かった建物に近づく。
中から黒服さんみたいな人が出てきて幕を開け、頭を下げた。
「いかにも金持ってそうだな」
エドがじっと観察しながらつぶやく。
「なんのお店かな?」
「金持ちが行くカジノだよ」
オウガ君が、そんなことも知らないのかって顔で言う。
「オウガ君、こんなとこ来てるの?」
「先輩にすごい人を紹介してもらってさ」
「ふーん……。あれ?」
揚げ物の油の匂いがする。これは、まちがいない!
「エド!」
「ああ、食いもんだな」
「おまえら貧乏かよ」
3人でしょうもない会話をしながら、ようやく着いた屋台の前に立つ。
オウガ君が急にビシッと背筋を伸ばして、屋台のお兄さんに頭を下げた。
びっくりしながら、俺とエドもちょっと頭を下げる。
「お疲れ様です!」
「あれ? オウガ? お前、また来たの?」
「へへ。すみません」
威張るのが好きな人に限って、自分より強そうな人には、とっても腰が低い。
「なんだよ、またひもじいのか? オウガ」
シブすぎる声がして、恐る恐る振り返ると、優しそうなおじさんが立っていた。
別にビシッとしたカッコをしているでもなく、普通のズボンにシャツ姿だけど、顔がかっこいい。
けど、やっぱり強そうで、怖そう。
「あ! ナカサワダさん! お疲れ様です」
日本の戦争映画で見るような、ピシーっと伸びた背筋を前に傾ける、丁寧なお辞儀を見て、さすがに俺も従った。
ところがエドは、ちょこっと頭を下げるだけ。親友だけど、こういうところはどうなのかと思う。
「おお、友達連れてきたのか?」
「はい!」
「お、お前ガタイいいな。なんていうんだ?」
「エド・リンジです」
二人は揃って笑顔を見せているが、エドの顔には少し緊張感がある。
「エドか。メガネなんか掛けてっと、舐められるんじゃねえか?」
エドは普通の笑顔になった。
「いやあ、もう慣れました」
ナカサワダさんは、腕を組み感心したように頷くと、エドの肩に手を置いた。
「ま、それだけ堂々としてたら、簡単には舐められねえわな」
そう言うと、今度は俺に向かって
「お前も落ち着いてるよな。名前は?」
「キュー・エザキです」
ナカサワダさんが目を丸くした。
「キュー! 日本のおばけか?」
お化け? わからずに考え込んでいると、ナカサワダさんは笑って俺の頭をぽんと叩いた。優しく。
「日本のそういう漫画があるんだよ。よし! じゃあごちそうしてやるか」
そして屋台の方を向いて大声で
「おい! 1個ずつ食わしてやれ!」
と言うと、ナカサワダさんは俺達に手を軽く振って去っていった。
カッコいいけど、ちょっとキメすぎな気もした。
オウガ君は、ちょっと不満そうな顔でエドを見ていたが、すぐに屋台に向き直った。
「あ! いいんですか!? すみません! いただきますっ!」
威張ったり、頭下げたり忙しいオウガ君だ。
エドはナカサワダさんの後ろ姿を、ただ黙って見送っている。
ナカサワダさんは川倉の幹部だろうと察しがついたけど、エドも同じだろう。
オウガ君は、自分がギャングの幹部と知り合いだって俺達に見せたかったのかもしれない。
エドに向けた不満そうな顔も、それなら説明がつく。
いや!
今はそれどころじゃない!
俺はオウガ君が持ってきた、新聞紙に包まれたコロッケ3個に飛びついた。
「おい!」
「ちょ、ちょっと見せて!」
ここは慎重にならないといけない。
一番大きいのはどれだ?
