ギャングの名前を出されたエドは、むしろ絡み返すように質問した。
「お前、あれだろ? えっと、誰だっけ? 名前忘れちゃった」
「カゲスゲだよ。シンジ・カゲスゲ」
カゲスゲ君がフルネームを名乗ったのは、逃げも隠れもしないというアピールだろうか。
エドがまた忘れたりした時のために、俺も覚えておこうと思った。
「そうだ、カゲスゲだ。わりい。たしかに俺も陰口を言うことあるよ。でもオウガのことをそんな風に言いふらすようなことはしてないよ」
「じゃあ、なんで俺の耳に入るんだよ?」
「ならカゲスゲ、お前にそれを吹き込んだのは誰だ?」
カゲスゲ君は黙ってしまった。なおもエドを睨み続けてはいるんだけど、言葉が出ないみたいだ。
「まあオウガについて俺が本音を言うとするなら、そうだな……声がデカくて疲れる時がたまにある。まあ、そんぐらいだ」
これで笑って終わりになればいいと思った。
なのにカゲスゲ君はわざわざベゾを見て、言ってしまった。
「これは、お前らのペットか? せいぜい可愛がってやれよ。じゃあな」
エドが焼きそばを落として、カゲスゲの黒いTシャツを掴んだ。
「お前もオウガのペットなんだろ?」
うんざりする。
「エド、やめよう。好きにさせてあげようよ」
もちろん、聞いてなんかもらえない。
仕方なく、二人の間に入ってエドを突き飛ばす。
「カゲスゲ君。やめよ?」
「お前、エザキだろ? お前も、オウガさんのことも突き飛ばしたんだって?」
「わざとじゃないよ。ごめんて謝った――」
言いかけた時、カゲスゲ君が左足に力をこめるのを感じたので、右前に一歩踏み出した。
その足で、蹴られなければいいだけのこと。
俺が距離を詰めたことで、カゲスゲ君の足に勢いはつかず、俺の右膝に軽く当たっただけで済んだ。
すごく驚いているカゲスゲ君の顔が面白くて、思わず笑いそうになったが、今度は彼の首に力が発生する。
頭突きか……。
とっさに左手で脂っこいおでこを押さえ、右手でカチューシャを抜き取った。
見た目以上にベタベタで、うわーと思った。
そのおでこに、カゲスゲ君のセミロングぐらいの髪の毛が散らかった。
「これ、カチューシャって言うんだっけ?」
「あ! お、お前……」
喧嘩っ早い人達って、素直な人が多い。
だから信用できる。
「ごめん。カッコいいなーと思って」
カチューシャを返すと、カゲスゲ君はツンデレ男のようにボソボソと言った。
「お前、なんなんだよ」
「俺? 俺もペットかな。カゲスゲ君のペットにしてくれる?」
自然と笑えている自分が嬉しくて、ニコニコと話すと、ツンデレぼうやはカチューシャをセットしながら捨て台詞を吐いた。
「調子こいてっと、殺すからな。いいな?」
そして、気持ち早足で去っていった。
ホベタンがエドの落とした焼きそばを集めて、丁寧に紙皿の上に戻している。
俺とエドも参加した。
「お前、砂入れんなよ」
「なら自分で拾えばいいでしょ? ホベタン、めっちゃ器用だね」
落ち着いて食べ終えた俺達は、ドミトリーに戻ってトランプに興じた。
俺とエドは20戦やって、ホベタンに一度も勝てなかった。
ドミトリーの休憩室で、ポーカーやら大貧民やらに夢中になっていた俺の背中を誰かがバチンと叩いた。
「あいたっ」
傷つける意図がないので、気が付かなかった。
振り向くと、オウガ君だった。
「おい、お前とエドさ、明日一緒にコロッケ食いに行かねえか?」
「え? コロッケ?」
なぜそんなことを言い出すのか。
ホベタンはカードを凝視し続けていて、エドは俺を見ている。
なぜか窓口にされている俺に、オウガ君がダメ押しをする。
「マエハラ通りで安く食えるんだよ。運が良けりゃ、ただでもらえるかも」
ちょっとひっかかるけど……でもコロッケが安く食えるんなら、やっぱり行きたい。
でもカゲスゲ君と揉めたばっかりだし、それをオウガ君が聞いたら結局行けなくてがっかりとかなりそうだし……。
「なあ、エド。お前は?」
動かなくなった俺を無視して、オウガ君がエドに聞くと、エドはまた俺を見る。
なんで俺なんだよ。もう知らないぞ?
「うん、コロッケ食べられるんなら行く」
エドが「えっ!?」という顔をするが、知らない。俺に振ったのが悪い。
パンと牛乳とサラダばっかりの毎日。
このスラムに住む俺達にとって、コロッケの価値がどんなものか、エドだってわかってるはずだ。
自分が言うとカッコ悪いから、俺に言わせたかったんだろうな。
「じゃあ、オウガ君。明日、何時に待ち合わせればいい?」
「まあ、学校終わったら門の前で」
「本当にコロッケ食べられる? 食べられるんだよね?」
「お前、あれだろ? えっと、誰だっけ? 名前忘れちゃった」
「カゲスゲだよ。シンジ・カゲスゲ」
カゲスゲ君がフルネームを名乗ったのは、逃げも隠れもしないというアピールだろうか。
エドがまた忘れたりした時のために、俺も覚えておこうと思った。
「そうだ、カゲスゲだ。わりい。たしかに俺も陰口を言うことあるよ。でもオウガのことをそんな風に言いふらすようなことはしてないよ」
「じゃあ、なんで俺の耳に入るんだよ?」
「ならカゲスゲ、お前にそれを吹き込んだのは誰だ?」
カゲスゲ君は黙ってしまった。なおもエドを睨み続けてはいるんだけど、言葉が出ないみたいだ。
「まあオウガについて俺が本音を言うとするなら、そうだな……声がデカくて疲れる時がたまにある。まあ、そんぐらいだ」
これで笑って終わりになればいいと思った。
なのにカゲスゲ君はわざわざベゾを見て、言ってしまった。
「これは、お前らのペットか? せいぜい可愛がってやれよ。じゃあな」
エドが焼きそばを落として、カゲスゲの黒いTシャツを掴んだ。
「お前もオウガのペットなんだろ?」
うんざりする。
「エド、やめよう。好きにさせてあげようよ」
もちろん、聞いてなんかもらえない。
仕方なく、二人の間に入ってエドを突き飛ばす。
「カゲスゲ君。やめよ?」
「お前、エザキだろ? お前も、オウガさんのことも突き飛ばしたんだって?」
「わざとじゃないよ。ごめんて謝った――」
言いかけた時、カゲスゲ君が左足に力をこめるのを感じたので、右前に一歩踏み出した。
その足で、蹴られなければいいだけのこと。
俺が距離を詰めたことで、カゲスゲ君の足に勢いはつかず、俺の右膝に軽く当たっただけで済んだ。
すごく驚いているカゲスゲ君の顔が面白くて、思わず笑いそうになったが、今度は彼の首に力が発生する。
頭突きか……。
とっさに左手で脂っこいおでこを押さえ、右手でカチューシャを抜き取った。
見た目以上にベタベタで、うわーと思った。
そのおでこに、カゲスゲ君のセミロングぐらいの髪の毛が散らかった。
「これ、カチューシャって言うんだっけ?」
「あ! お、お前……」
喧嘩っ早い人達って、素直な人が多い。
だから信用できる。
「ごめん。カッコいいなーと思って」
カチューシャを返すと、カゲスゲ君はツンデレ男のようにボソボソと言った。
「お前、なんなんだよ」
「俺? 俺もペットかな。カゲスゲ君のペットにしてくれる?」
自然と笑えている自分が嬉しくて、ニコニコと話すと、ツンデレぼうやはカチューシャをセットしながら捨て台詞を吐いた。
「調子こいてっと、殺すからな。いいな?」
そして、気持ち早足で去っていった。
ホベタンがエドの落とした焼きそばを集めて、丁寧に紙皿の上に戻している。
俺とエドも参加した。
「お前、砂入れんなよ」
「なら自分で拾えばいいでしょ? ホベタン、めっちゃ器用だね」
落ち着いて食べ終えた俺達は、ドミトリーに戻ってトランプに興じた。
俺とエドは20戦やって、ホベタンに一度も勝てなかった。
ドミトリーの休憩室で、ポーカーやら大貧民やらに夢中になっていた俺の背中を誰かがバチンと叩いた。
「あいたっ」
傷つける意図がないので、気が付かなかった。
振り向くと、オウガ君だった。
「おい、お前とエドさ、明日一緒にコロッケ食いに行かねえか?」
「え? コロッケ?」
なぜそんなことを言い出すのか。
ホベタンはカードを凝視し続けていて、エドは俺を見ている。
なぜか窓口にされている俺に、オウガ君がダメ押しをする。
「マエハラ通りで安く食えるんだよ。運が良けりゃ、ただでもらえるかも」
ちょっとひっかかるけど……でもコロッケが安く食えるんなら、やっぱり行きたい。
でもカゲスゲ君と揉めたばっかりだし、それをオウガ君が聞いたら結局行けなくてがっかりとかなりそうだし……。
「なあ、エド。お前は?」
動かなくなった俺を無視して、オウガ君がエドに聞くと、エドはまた俺を見る。
なんで俺なんだよ。もう知らないぞ?
「うん、コロッケ食べられるんなら行く」
エドが「えっ!?」という顔をするが、知らない。俺に振ったのが悪い。
パンと牛乳とサラダばっかりの毎日。
このスラムに住む俺達にとって、コロッケの価値がどんなものか、エドだってわかってるはずだ。
自分が言うとカッコ悪いから、俺に言わせたかったんだろうな。
「じゃあ、オウガ君。明日、何時に待ち合わせればいい?」
「まあ、学校終わったら門の前で」
「本当にコロッケ食べられる? 食べられるんだよね?」
