リノ・イーシア ―知ってほしい でも理解できない―

「まあお情けだけど、卒業は卒業だからな」
 騎炉中の校長はめんどくさそうに、卒業証明の紙切れをくれた。

「はい」
 後ろに並ぶ同級生のために、さっさとどいた。

 俺にはそんなことを言いながら、オウガ君には黙って渡す校長。
 俺の方が点数良かったような気がするんだけど。

 受け取ったオウガ君が俺の横に来て、やたらと大きな声で言った。

「俺より点取ってるエザキが、あんなこと言われんのヘンだよな!」


 同級生9人は、校舎の入口で記念撮影を終えると、ドミトリーに戻った。
 結局、いつも通り。

 来月からは隣にある高校生用のドミトリーに移る。
 港湾工学校に入れば、午前は授業、午後は労働。
 午後に働いた分の給料が貰えるようになって、勤め先を選べるようになる(能力次第だけど)。

 まあ結局、大して変わらない。


 けど校外での風景は、すっかり変わっていた。

 タガさんは当たり年の俺達にサブリーダーとしての役割を期待すると言って、オウガ君とエドを幹部役にした。

 こうして、『組織』になったことで、いろいろ変わった。

 ヤンキー連中はいざこざになっても、暴力を振るってくることはなくなった。

 ウサギ集団とオウガ君達の関係もだいぶ変わって、タガさん達のライブの準備なんかを一緒に手伝ったりもするようになった。

 それとギャングさん達は、俺達やタガさんに苦情を入れてくるようになった。
 例えば、俺達の仲間が公園で騒いでたりすると、
「ダチどもに、うるさくするなって言っとけ」
 みたいに言われるので、エドやオウガ君がそれを仲間全員に伝えるって感じだ。

 タガさんというリーダーのおかげで、俺達はかなり大きな群れになった。

 群れにならないと、安心して行動できない。

 結局、俺達も動物だ。


 エドとホベタンは、総合成績でダントツの1位タイだった。
 ホベタンは数学と英文法で、エドは社会で満点を取ったけど、合計で並んだ。

 アサキ兄弟は弟のリョウ君が、サッカー推薦で砂利州区に行けそうという話だったけど、ダメになった。
「面接で態度が悪いってなったらしいんだ。しばらく、サッカーの話は出さないでやってくれ」
 兄のタツ君に言われて、俺も触れないようにしている。
 砂利州区はシリウス区ほどじゃないけど、こっちみたいなスラムとは違う、綺麗な街だ。
 誰にも害のないリョウ君を、態度という理由で落とすとは、いかにも『あっちの人達』らしい。

 ホベタンはケンカの一件について、気にしていないみたいで、なぜか前より俺にいろんなことを話してくれるようになった。
 実は密かにマエハラ通りの賭け事でお金を稼いでいるらしくて、コロッケをよく奢ってくれる。

 卒業証明の紙をみんなでゴミ箱に放って、休憩室でいつものようにうだうだしていると、エドに誘われた。

「今日の昼飯、マズかったから、焼きそばで口直ししようぜ」
「ん? ああ」

 それまで俺と喋っていたヤマナシ君を見て、なんとなく聞いた。
「ヤマナシ君も行く?」
「あ、えーと、今日はいいです」

 なんか、気を使われているような気がした。

 エドと2人で外に出て、熱い日差しを避けるように狭い路地を歩く。
「なんか2人で歩いてると、グループになる前の頃を思い出すんだよな」

 たしかにエドと2人で出歩くことがほとんどだった。
「俺とエドって、ずっと前から友達だったのかな?」
「え?」

 何言ってんだ? という顔で見られた。

「いろんな出来事があって、お互いのことを知るようになると、なんか『友だちになれたような気がする』って感じるようになったんだ」
「うーん。それは、もしかすると……俺も同じかもしれないな」

 目を閉じても歩けそうなくらい、歩き慣れた路地が、いつもより少し明るく見える。

「ケンカになったら、お前をおとりにして俺がカタをつける」
「そういうつもりって、いつもわかってた」
「頭にこないのか?」

 そう言いながら、笑ってるエドを見て、俺も笑った。

「攻撃とか抗議とか、俺がやりたくないことをやるのがエド」

 俺が言い終えると同時に、エドが俺の肩に軽いパンチを入れた。

「エザキ。『リノ』って言葉知ってるか?」
「なにそれ?」
「この太平洋地域の言葉で『結ぶ』とか『繋ぐ』って意味らしいぜ」

 急になんだ? と思って、エドを見たけど、ただ前を見て歩いているだけ。

「へぇ。そうなんだ」

 だから?


 灯台広場が見えてくると、俺の興味は焼きそばに移った。