TC地区へ行くのに、いつもと同じ抜け道を使う。
細くて暗い道だけど、襲いたければ好きにすればいいと思っていた。
右の方がまだ明るいけど、左から降りて来た夕闇の幕がもうじき下ろされようとしている。
夜に出歩いている所をギャングさんに見つかれば、帰れってドヤされる。だけど、どういうわけか今日はギャングさんを見かけない。
7番街の外側を回って、4番街に入ると、大人のお店の並ぶコワキ通りの方へ向かって行くお姉さん達が見える。
思わず立ち止まった。
仕事へと向かうお姉さんたちの中に、ユキがいる。
短いスカートにタンクトップ。髪の毛まで整えてるけど、顔が怖い。
頭を叩かれたときのことを思い出した。
ユキは俺には気づかず、そのままコワキ通りの雑踏に吸い込まれていった。
朝から俺に会って、昼から一緒に過ごしたチカちゃんをドミトリーに預けて、これから仕事。
大変だ。
絵はいつ描いているんだろう?
いや、それどころじゃない。
東側に見える港湾地区への検問ゲートの前を通り過ぎて、すっかり暗くなったTC地区に入った。
使われなくなったコンテナの一時保管場所。
その一番奥の倉庫から、明かりが漏れている。
ボロボロで屋根も崩れかかってるけど、照明は生きてるのか。
あれ? この倉庫って……。
俺が入り口を覗きながら近づくと、中で座っていた人影が次々に立ち上がり、見覚えのあるスキンヘッドと、ナカムラさんが表に出て来た。
「おう、ちゃんと来たか」
「あれ? ナカムラさんですか?」
ナカムラさんは、何かの油で髪の毛をオールバックにしている。
その整髪料の油なのか、彼自身の脂なのか、なんとも言えない臭さ。
できれば触れずに終わらせたい。
倉庫内のヤンキーを確かめると、昼間に俺を襲った奴もいる。
そして、いつだったかエドに撃たれた2人も。
やっぱり報復なのかな?
「ホベタンを逃がしてもらうには、どうしたらいいですか?」
「ホベタン?」
一歩近づいて、もう一度尋ねた。
「ええと、ベゾ君を逃がしてもらうにはどうすれば?」
と言いながら、自分で見つけた。
頭に包帯を巻いたホベタン。
倉庫の少し入ったところに積まれたパレット。その端にちょこんと座ってる。
逆光で顔は見えないけど、いつも以上に落ち着きのない貧乏ゆすりが見える。
ホベタン。君は弱い。
自分で自分を守ることもできない。
もし俺が君だったら、どうしたんだろう?
「お前、いつだったか俺の頭蹴りやがったよな? チップつけて返してやるよ」
「蹴ったのがタガさんだったら、どうしてましたか?」
「殺すぞ」
思わず笑ってしまった。
「殺す気ならとっくにやってるはずでしょ」
まただ。
またびっくりしてるよ。この人も。
みんな一緒。
同じ種族。同じ本能を持った動物たち。
「もういっぺん言ってみろよ」
「殺す気ならとっくに――」
ナカムラさんが右腰あたりから、『俺の顔を狙って握った何かを振る力』を感じた。
ザッ!
向こうが踏み出すのと同時に、俺は一歩下がった。
顔の前に小さなナイフが来た。
俺は右手でナカムラさんの手首を、左手でナイフを握る手を持って、力を加えた。
「いっ!」
カランと落ちたナイフを無視して、両手で思いきり突き飛ばした。
一緒に動物やるか。
ナカムラさんは、よろめきながら後ろに2歩下がった。
拾ってみると、随分と小さなバタフライナイフだった。すごく凝った細工でおしゃれにできてる。
「かわいいナイフですね」
俺にケンカができるのか? わからない。
ただ、向こうが挑発に乗って暴れてくれれば、チャンスはあるはずだと思った。
ナイフをうまく畳めないので、先に質問をする。
「あの……なんでタガさんを襲ったんですか?」
どうしても聞きたかった。
「支配されたくねぇんだよ」
「タガさんは支配なんかしてませんよ」
即答すると、ナカムラさんは口ごもった。
「それは、おまえ……飼い慣らされてるだけだろ」
自分でも思いがけず、深いため息が出てしまった。
「そんな強がりばっかり、疲れませんか?」
そう言うと、ナカムラさんは黙った。
どうして動物たちは、しょうもない欲をヒーローの大義みたいに言いたがるんだ?
急に何もかもめんどくさくなった。
「まあいいや。ホベタン! 帰ろ!」
ナカムラさんを無視して呼ぶと、ホベタンはパレットから降りた。
けど、取り巻きのヤンキーに睨まれて動けない。
問題はナカムラさんが銃を持っているかどうか。
持っているなら、俺はホベタンに近づけない。
よけて当たれば、今度こそ死なせてしまうかも。
どうなんだ?
細くて暗い道だけど、襲いたければ好きにすればいいと思っていた。
右の方がまだ明るいけど、左から降りて来た夕闇の幕がもうじき下ろされようとしている。
夜に出歩いている所をギャングさんに見つかれば、帰れってドヤされる。だけど、どういうわけか今日はギャングさんを見かけない。
7番街の外側を回って、4番街に入ると、大人のお店の並ぶコワキ通りの方へ向かって行くお姉さん達が見える。
思わず立ち止まった。
仕事へと向かうお姉さんたちの中に、ユキがいる。
短いスカートにタンクトップ。髪の毛まで整えてるけど、顔が怖い。
頭を叩かれたときのことを思い出した。
ユキは俺には気づかず、そのままコワキ通りの雑踏に吸い込まれていった。
朝から俺に会って、昼から一緒に過ごしたチカちゃんをドミトリーに預けて、これから仕事。
大変だ。
絵はいつ描いているんだろう?
いや、それどころじゃない。
東側に見える港湾地区への検問ゲートの前を通り過ぎて、すっかり暗くなったTC地区に入った。
使われなくなったコンテナの一時保管場所。
その一番奥の倉庫から、明かりが漏れている。
ボロボロで屋根も崩れかかってるけど、照明は生きてるのか。
あれ? この倉庫って……。
俺が入り口を覗きながら近づくと、中で座っていた人影が次々に立ち上がり、見覚えのあるスキンヘッドと、ナカムラさんが表に出て来た。
「おう、ちゃんと来たか」
「あれ? ナカムラさんですか?」
ナカムラさんは、何かの油で髪の毛をオールバックにしている。
その整髪料の油なのか、彼自身の脂なのか、なんとも言えない臭さ。
できれば触れずに終わらせたい。
倉庫内のヤンキーを確かめると、昼間に俺を襲った奴もいる。
そして、いつだったかエドに撃たれた2人も。
やっぱり報復なのかな?
「ホベタンを逃がしてもらうには、どうしたらいいですか?」
「ホベタン?」
一歩近づいて、もう一度尋ねた。
「ええと、ベゾ君を逃がしてもらうにはどうすれば?」
と言いながら、自分で見つけた。
頭に包帯を巻いたホベタン。
倉庫の少し入ったところに積まれたパレット。その端にちょこんと座ってる。
逆光で顔は見えないけど、いつも以上に落ち着きのない貧乏ゆすりが見える。
ホベタン。君は弱い。
自分で自分を守ることもできない。
もし俺が君だったら、どうしたんだろう?
「お前、いつだったか俺の頭蹴りやがったよな? チップつけて返してやるよ」
「蹴ったのがタガさんだったら、どうしてましたか?」
「殺すぞ」
思わず笑ってしまった。
「殺す気ならとっくにやってるはずでしょ」
まただ。
またびっくりしてるよ。この人も。
みんな一緒。
同じ種族。同じ本能を持った動物たち。
「もういっぺん言ってみろよ」
「殺す気ならとっくに――」
ナカムラさんが右腰あたりから、『俺の顔を狙って握った何かを振る力』を感じた。
ザッ!
向こうが踏み出すのと同時に、俺は一歩下がった。
顔の前に小さなナイフが来た。
俺は右手でナカムラさんの手首を、左手でナイフを握る手を持って、力を加えた。
「いっ!」
カランと落ちたナイフを無視して、両手で思いきり突き飛ばした。
一緒に動物やるか。
ナカムラさんは、よろめきながら後ろに2歩下がった。
拾ってみると、随分と小さなバタフライナイフだった。すごく凝った細工でおしゃれにできてる。
「かわいいナイフですね」
俺にケンカができるのか? わからない。
ただ、向こうが挑発に乗って暴れてくれれば、チャンスはあるはずだと思った。
ナイフをうまく畳めないので、先に質問をする。
「あの……なんでタガさんを襲ったんですか?」
どうしても聞きたかった。
「支配されたくねぇんだよ」
「タガさんは支配なんかしてませんよ」
即答すると、ナカムラさんは口ごもった。
「それは、おまえ……飼い慣らされてるだけだろ」
自分でも思いがけず、深いため息が出てしまった。
「そんな強がりばっかり、疲れませんか?」
そう言うと、ナカムラさんは黙った。
どうして動物たちは、しょうもない欲をヒーローの大義みたいに言いたがるんだ?
急に何もかもめんどくさくなった。
「まあいいや。ホベタン! 帰ろ!」
ナカムラさんを無視して呼ぶと、ホベタンはパレットから降りた。
けど、取り巻きのヤンキーに睨まれて動けない。
問題はナカムラさんが銃を持っているかどうか。
持っているなら、俺はホベタンに近づけない。
よけて当たれば、今度こそ死なせてしまうかも。
どうなんだ?
