ヤンキーに襲われた日の夕方、俺はドミトリーの休憩室でエドとオウガ君に話した。
2回も襲われたこと。
ホベタンが頭を殴られたことを。
「ホベタンは、大丈夫そう?」
オウガ君に聞かれて、俺は答えた。
「気を失っただけで、ケガはそんなにひどくないって言われたよ。しばらく様子を見たら、すぐ退院だって」
「そうか……しかし、ひでえな」
悔しがるオウガ君を見て、正直に話した。
「俺がよけた鉄パイプが、横にいたホベタンに当たっちゃったんだ」
言った瞬間、エドが俺を見た。
そしてテーブルに肘をついて、窓の外の土砂降りを見ながら言った。
ひとりごとみたいに。
「エザキのせいじゃないだろ。それより頭とか首をケガした奴は、なるべく動かさない方がいいと思うぜ」
「それ、お医者さんにも言われた」
オウガ君は頭に両手を乗せて、大きなため息をついた。
「だけどなんで、エザキばっかり狙われたんだ? 普通、狙うんならエド、お前か俺だろ? 一応リーダー格なんだから」
エドはゆっくり、こっちに向き直るとコップの麦茶を飲んでから言った。
「俺は図書室にいる事が多いし、オウガも最近は運動場で、サッカーしてることが多かったろ? 最近、エザキが出歩いてばっかいたから目についたんじゃないか?」
そう言いながら、エドは俺の首をわざとらしく覗き込んだ。
頬杖をついて首のキスマークを隠しながら、エドに聞いた。
「みんな、ドミトリーから出ないようにした方が――」
そう言いかけた時だった。
「エザキさん!」
ずぶ濡れのヤマナシ君が慌てきった顔で駆け込んで来て、休憩室のみんなが静かになった。
「エザキさん大変です! ゲホッゲホッ……」
息を切らせたヤマナシ君は、座ってる俺の前で床に手をついてむせてしまった。
慌てて横にしゃがむと、ヤマナシ君は顔を上げて言った。
「ホベ……いや、ベゾさんが、ナカムラってヤンキーの奴に連れて行かれちゃって」
「マジかよ!?」
「ホベタンが?」
オウガ君とエドが同時に立ち上がる。
エドが立ち上がるほど反応するのは珍しいなと思った。
けど正直、俺にとってはそんなに大事でもなかった。
別に俺が捕まったわけじゃないから。
俺はヤマナシ君が落ち着けるように、ゆっくり聞いた。
「ヤマナシ君。ホベタンは、病院から連れていかれたの?」
「そうです。なんか、ナカムラって人がTC地区の倉庫前で待ってるから、一人で来るように伝えろって」
TC地区。4番街の先にある半島状のあそこか。
ウサギ集団が集まった場所。
「ヤマナシ君、それはヤンキーに言われたの?」
「そうです。ベゾさんのお見舞いに行ったら、ちょうど4か5人ぐらいのヤンキーに連れていかれてて。止めようとはしたんですけど、ちょっと手出しは……」
ヤマナシ君はそこまで言うと、悔しそうに下を向いて黙った。
どうしよう?
正直言うと、ホベタンがどうなっても、俺は別に平気だ。
でもホベタンはどこか特別だ。
ユキと知り合って、会いに行くようになったこと。
正直、誰に襲われても怖くなかったこと。
不思議とホベタンには話してしまっていた。
休憩室でポーカーをやっても、大貧民をやっても、絶対に負けないホベタン。
エドがカードを出した瞬間、クスッと笑ってブタを言い当てたホベタン。
俺のせいでケガをして、俺を呼び出すためのエサにされている。
でも、彼がどうなっても俺はなんともない。
「エド、エザキを一人で行かせたりはしないよな?」
オウガ君が何か決心したように言うけど、エドは黙っている。
俺が一人で行かなかったらホベタンがどうなるか……。
「エザキ、タガさんに相談しないか? 勝手なことする訳にも――」
「いや、エド。悪いけど、一人で行ってくるよ」
言いながら立ち上がって、シャツをピッと伸ばしていると、横で立ち上がったヤマナシ君が不安そうに言った。
「それじゃ、エザキさんがリンチされるだけじゃないですか」
「だって、一人で行かないとホベタンがやられちゃうんでしょ? 川倉の義理堅いギャングのメンバーになりたいヤンキー達なら、約束さえ守れば、俺だけがボコられるだけですむでしょ」
っていうか、多分また逃げられると思うし。
「ちょっと待ってくださいよ。エザキさんはダメですよ……」
ヤマナシ君は、なんで俺のことを心配するんだろう?
エドとオウガ君も俺をじっと見ている。
「エザキ。俺達も連れてけよ。タイマンの立会人てことなら、文句ないかもしれないだろ?」
「オウガの言うことも一理あるぞ、エザキ」
エドとオウガ君まで、俺のことで意見が一致してる。
なんで俺のことでそんな話し合うんだ?
ユキといてムズムズしたときと、同じ疑問。
俺達のいる意味ってなんだ?
たまらずに、聞いた。
「ねえ、ヤマナシ君。俺がいなくても、別に困んなくない?」
「え?」
「オウガ君、俺がボコボコにされても、君には関係ないでしょ? エドだって、そうでしょ?」
オウガ君とヤマナシ君は難しい問題でも出されたみたいな顔をしたけど、エドは違った。
「もういいよ。一人で行って来いよ」
「は?」
「え? エドさん! 何言ってんすか!?」
パニックになる2人を無視して、エドが外を指さして俺に言った。
「ちょうど雨も上がったしよ。散歩がてら、行ってくりゃいいじゃん」
本当だ。止んでる。
窓の外もだいぶ暗くなってて、気付かなかった。
いかにも、エドが言いそうなセリフだと思った。
でもその顔を見て、やっと答えが見えそうな気がしてきた。
エドは俺を知っている。
俺も俺なりにエドを知っている。
だから、普通にほほ笑んで言えた。
「うん。ちょっと行ってくる」
2回も襲われたこと。
ホベタンが頭を殴られたことを。
「ホベタンは、大丈夫そう?」
オウガ君に聞かれて、俺は答えた。
「気を失っただけで、ケガはそんなにひどくないって言われたよ。しばらく様子を見たら、すぐ退院だって」
「そうか……しかし、ひでえな」
悔しがるオウガ君を見て、正直に話した。
「俺がよけた鉄パイプが、横にいたホベタンに当たっちゃったんだ」
言った瞬間、エドが俺を見た。
そしてテーブルに肘をついて、窓の外の土砂降りを見ながら言った。
ひとりごとみたいに。
「エザキのせいじゃないだろ。それより頭とか首をケガした奴は、なるべく動かさない方がいいと思うぜ」
「それ、お医者さんにも言われた」
オウガ君は頭に両手を乗せて、大きなため息をついた。
「だけどなんで、エザキばっかり狙われたんだ? 普通、狙うんならエド、お前か俺だろ? 一応リーダー格なんだから」
エドはゆっくり、こっちに向き直るとコップの麦茶を飲んでから言った。
「俺は図書室にいる事が多いし、オウガも最近は運動場で、サッカーしてることが多かったろ? 最近、エザキが出歩いてばっかいたから目についたんじゃないか?」
そう言いながら、エドは俺の首をわざとらしく覗き込んだ。
頬杖をついて首のキスマークを隠しながら、エドに聞いた。
「みんな、ドミトリーから出ないようにした方が――」
そう言いかけた時だった。
「エザキさん!」
ずぶ濡れのヤマナシ君が慌てきった顔で駆け込んで来て、休憩室のみんなが静かになった。
「エザキさん大変です! ゲホッゲホッ……」
息を切らせたヤマナシ君は、座ってる俺の前で床に手をついてむせてしまった。
慌てて横にしゃがむと、ヤマナシ君は顔を上げて言った。
「ホベ……いや、ベゾさんが、ナカムラってヤンキーの奴に連れて行かれちゃって」
「マジかよ!?」
「ホベタンが?」
オウガ君とエドが同時に立ち上がる。
エドが立ち上がるほど反応するのは珍しいなと思った。
けど正直、俺にとってはそんなに大事でもなかった。
別に俺が捕まったわけじゃないから。
俺はヤマナシ君が落ち着けるように、ゆっくり聞いた。
「ヤマナシ君。ホベタンは、病院から連れていかれたの?」
「そうです。なんか、ナカムラって人がTC地区の倉庫前で待ってるから、一人で来るように伝えろって」
TC地区。4番街の先にある半島状のあそこか。
ウサギ集団が集まった場所。
「ヤマナシ君、それはヤンキーに言われたの?」
「そうです。ベゾさんのお見舞いに行ったら、ちょうど4か5人ぐらいのヤンキーに連れていかれてて。止めようとはしたんですけど、ちょっと手出しは……」
ヤマナシ君はそこまで言うと、悔しそうに下を向いて黙った。
どうしよう?
正直言うと、ホベタンがどうなっても、俺は別に平気だ。
でもホベタンはどこか特別だ。
ユキと知り合って、会いに行くようになったこと。
正直、誰に襲われても怖くなかったこと。
不思議とホベタンには話してしまっていた。
休憩室でポーカーをやっても、大貧民をやっても、絶対に負けないホベタン。
エドがカードを出した瞬間、クスッと笑ってブタを言い当てたホベタン。
俺のせいでケガをして、俺を呼び出すためのエサにされている。
でも、彼がどうなっても俺はなんともない。
「エド、エザキを一人で行かせたりはしないよな?」
オウガ君が何か決心したように言うけど、エドは黙っている。
俺が一人で行かなかったらホベタンがどうなるか……。
「エザキ、タガさんに相談しないか? 勝手なことする訳にも――」
「いや、エド。悪いけど、一人で行ってくるよ」
言いながら立ち上がって、シャツをピッと伸ばしていると、横で立ち上がったヤマナシ君が不安そうに言った。
「それじゃ、エザキさんがリンチされるだけじゃないですか」
「だって、一人で行かないとホベタンがやられちゃうんでしょ? 川倉の義理堅いギャングのメンバーになりたいヤンキー達なら、約束さえ守れば、俺だけがボコられるだけですむでしょ」
っていうか、多分また逃げられると思うし。
「ちょっと待ってくださいよ。エザキさんはダメですよ……」
ヤマナシ君は、なんで俺のことを心配するんだろう?
エドとオウガ君も俺をじっと見ている。
「エザキ。俺達も連れてけよ。タイマンの立会人てことなら、文句ないかもしれないだろ?」
「オウガの言うことも一理あるぞ、エザキ」
エドとオウガ君まで、俺のことで意見が一致してる。
なんで俺のことでそんな話し合うんだ?
ユキといてムズムズしたときと、同じ疑問。
俺達のいる意味ってなんだ?
たまらずに、聞いた。
「ねえ、ヤマナシ君。俺がいなくても、別に困んなくない?」
「え?」
「オウガ君、俺がボコボコにされても、君には関係ないでしょ? エドだって、そうでしょ?」
オウガ君とヤマナシ君は難しい問題でも出されたみたいな顔をしたけど、エドは違った。
「もういいよ。一人で行って来いよ」
「は?」
「え? エドさん! 何言ってんすか!?」
パニックになる2人を無視して、エドが外を指さして俺に言った。
「ちょうど雨も上がったしよ。散歩がてら、行ってくりゃいいじゃん」
本当だ。止んでる。
窓の外もだいぶ暗くなってて、気付かなかった。
いかにも、エドが言いそうなセリフだと思った。
でもその顔を見て、やっと答えが見えそうな気がしてきた。
エドは俺を知っている。
俺も俺なりにエドを知っている。
だから、普通にほほ笑んで言えた。
「うん。ちょっと行ってくる」
