カゲスゲ君が俺を役に立ちそうだと見ている。それが一番びっくりだ。
「俺が何の役に立つの?」
「その度胸があれば、交渉事のときなんかに役立つだろ。問題はボーッとしてて動作も遅い、頭も悪い……そういうカスどもだ」
ブレンドコーヒーが運ばれてくると、なぜかカゲスゲ君は俺がカップを持つのを待って、自分のカップを差し出してきた。
「おつかれ……」
ちょっと考えてから、それが『乾杯』の意思だとわかったので、しぶしぶカップを差し出した。
「あ、おつかれ……」
こんなことして何の役に立つんだろうと思うけど、カゲスゲ君の授業は続く。
「みんなが何の苦労もせずに、好きなように生きられるわけじゃないからな。使えるやつだけ残したほうが、一人あたりの取り分は増えるし、余計なムダも減る。だけど、大人たちが言うのは『いたわり』とか『思いやり』とか、糞の役にも立たねえことばっかだ」
なるほど。
「使えるやつだけで新しいチームを作りたいってこと?」
俺が言うと、カゲスゲ君は深く何度も頷いた。
「オウガさんの手元に残った駒の中でまともなのは、多分俺だけだ。だから、まずお前らと組んで、あのヤンキーどもを片付ける」
「なんで片付けるの?」
そう言うと、やれやれという顔をされた。
「この狭い街で毎日、顔合わせるんだぜ? 黙ってても、いずれやられるだろ。だったら先に潰しとくしかないだろ? だろ? 違うか?」
何も言い返さないで聞く。
「俺の最終的な目標は、タガさん達と『対等』な連合を組んで、川倉に負けない組織を作るんだ」
「センゴクブショウじゃあるまいし、そんなの無理だよ」
俺が言い終える寸前。ブレンドを飲もうとしていたカゲスゲ君の手が、ぴたっと止まった。
しばらく2人で黙った後、カゲスゲ君がガチャンと乱暴にカップを置いて、吐き捨てた。
「じゃあ、ずっとカスに囲まれたチンケな人生で終わるのか?」
「俺は今ぐらいの暮らしで満足だよ。ホベタンもコノエ君も俺にとってはマイナスじゃないし」
「とにかく、明日タガさんと会うんだろ? 俺達も会えるようにしてくれないか?」
「自分で話しに行けばいいじゃん」
正論のつもりだったけど、カゲスゲ君は明らかに苛立った。
「お前は気にしないだろうけど、俺らにはメンツってもんがあんだよ。いきなりお願いしますなんて頭下げに行ったら、その後もずっと頭上がんねえだろうが。違うか?」
ということは……?
「じゃあ今日は俺の方が、カゲスゲ君より上なんだね」
「は……?」
カゲスゲ君が目を丸くしたので、また笑いたくなった。
「だって、声かけてきたのそっちじゃん」
「フッ……」
その時、初めて普通に笑うカゲスゲ君を見た。かなり貴重な場面かもしれない。
顔を横に向けて静かに笑うカゲスゲ君を見て、俺も少し笑っておいた。
「お前って、本当に純粋そうに見えるからさ。きれい事に洗脳される前に、色々と真実を教えてやりたくなったんだよ」
役に立たない奴はいなくていい。確かに真実なような気もする。
で、タガさんとの連合。
『対等』の話は置いといて、俺に提案できるのはこれくらいだった。
「じゃあ、タガさんに会うとき、一緒に来たら?」
カゲスゲ君は反対しなかった。
「エドが嫌がらないか?」
「大丈夫だと思うよ」
「そうか……。じゃあ、月曜にドミトリーで俺とオウガさん。お前とエドの4人で待ち合わせないか?」
安請け合いしていいのか、迷ったけど、言葉が勝手に出てしまう。
「じゃあ、そうしようか」
まさかそんな組み合わせの4人で、待ち合わせるなんて話になるとは。
とはいえ、言っておかないといけないことがある。
「ただ、カゲスゲ君。一応断っておきたいんだけど、ヤマナシ君、ホベタン、コノエ君、アサキ兄弟。俺達は『互いに助け合う』っていう約束をしてるんだ。だから、いらないって言われても――」
「わかってるよ。それはそっちで好きにすればいいじゃん」
めんどくさそうに、手を振って黙らされた。
「ありがとう」
言わなくてもいい礼を言うと、カゲスゲ君はボソッと気になることを言った。
「センチメンタル・バリューってやつがあるんだな」
「センチメートル?」
「もういい。さっさと飲んで解散だ」
用事が済んだからか、急にそっけなくなった。
こうしてカゲスゲ君の野望の話は終わって、あとは当たり障りのない話をしながら、クソまずいブレンドをちびちびやるだけだった。
そして飲み終えて、レジで支払いをしていると、窓の外に信じられないものを見た。
エドが女の子と歩いてる!
またあの赤っぽい髪の女の子と!
「ガクワリで――」
とカゲスゲ君が謎の言葉を言っている横で、俺はひたすら目で追った。
いつも自信満々で先頭を歩くエドが、女の子の後ろを大人しく付いて行っている。
やっぱり人ってわからないなぁ。
どこに行くんだろう?
っていうか、『孤独の実験』はどうなったんだ?
「俺が何の役に立つの?」
「その度胸があれば、交渉事のときなんかに役立つだろ。問題はボーッとしてて動作も遅い、頭も悪い……そういうカスどもだ」
ブレンドコーヒーが運ばれてくると、なぜかカゲスゲ君は俺がカップを持つのを待って、自分のカップを差し出してきた。
「おつかれ……」
ちょっと考えてから、それが『乾杯』の意思だとわかったので、しぶしぶカップを差し出した。
「あ、おつかれ……」
こんなことして何の役に立つんだろうと思うけど、カゲスゲ君の授業は続く。
「みんなが何の苦労もせずに、好きなように生きられるわけじゃないからな。使えるやつだけ残したほうが、一人あたりの取り分は増えるし、余計なムダも減る。だけど、大人たちが言うのは『いたわり』とか『思いやり』とか、糞の役にも立たねえことばっかだ」
なるほど。
「使えるやつだけで新しいチームを作りたいってこと?」
俺が言うと、カゲスゲ君は深く何度も頷いた。
「オウガさんの手元に残った駒の中でまともなのは、多分俺だけだ。だから、まずお前らと組んで、あのヤンキーどもを片付ける」
「なんで片付けるの?」
そう言うと、やれやれという顔をされた。
「この狭い街で毎日、顔合わせるんだぜ? 黙ってても、いずれやられるだろ。だったら先に潰しとくしかないだろ? だろ? 違うか?」
何も言い返さないで聞く。
「俺の最終的な目標は、タガさん達と『対等』な連合を組んで、川倉に負けない組織を作るんだ」
「センゴクブショウじゃあるまいし、そんなの無理だよ」
俺が言い終える寸前。ブレンドを飲もうとしていたカゲスゲ君の手が、ぴたっと止まった。
しばらく2人で黙った後、カゲスゲ君がガチャンと乱暴にカップを置いて、吐き捨てた。
「じゃあ、ずっとカスに囲まれたチンケな人生で終わるのか?」
「俺は今ぐらいの暮らしで満足だよ。ホベタンもコノエ君も俺にとってはマイナスじゃないし」
「とにかく、明日タガさんと会うんだろ? 俺達も会えるようにしてくれないか?」
「自分で話しに行けばいいじゃん」
正論のつもりだったけど、カゲスゲ君は明らかに苛立った。
「お前は気にしないだろうけど、俺らにはメンツってもんがあんだよ。いきなりお願いしますなんて頭下げに行ったら、その後もずっと頭上がんねえだろうが。違うか?」
ということは……?
「じゃあ今日は俺の方が、カゲスゲ君より上なんだね」
「は……?」
カゲスゲ君が目を丸くしたので、また笑いたくなった。
「だって、声かけてきたのそっちじゃん」
「フッ……」
その時、初めて普通に笑うカゲスゲ君を見た。かなり貴重な場面かもしれない。
顔を横に向けて静かに笑うカゲスゲ君を見て、俺も少し笑っておいた。
「お前って、本当に純粋そうに見えるからさ。きれい事に洗脳される前に、色々と真実を教えてやりたくなったんだよ」
役に立たない奴はいなくていい。確かに真実なような気もする。
で、タガさんとの連合。
『対等』の話は置いといて、俺に提案できるのはこれくらいだった。
「じゃあ、タガさんに会うとき、一緒に来たら?」
カゲスゲ君は反対しなかった。
「エドが嫌がらないか?」
「大丈夫だと思うよ」
「そうか……。じゃあ、月曜にドミトリーで俺とオウガさん。お前とエドの4人で待ち合わせないか?」
安請け合いしていいのか、迷ったけど、言葉が勝手に出てしまう。
「じゃあ、そうしようか」
まさかそんな組み合わせの4人で、待ち合わせるなんて話になるとは。
とはいえ、言っておかないといけないことがある。
「ただ、カゲスゲ君。一応断っておきたいんだけど、ヤマナシ君、ホベタン、コノエ君、アサキ兄弟。俺達は『互いに助け合う』っていう約束をしてるんだ。だから、いらないって言われても――」
「わかってるよ。それはそっちで好きにすればいいじゃん」
めんどくさそうに、手を振って黙らされた。
「ありがとう」
言わなくてもいい礼を言うと、カゲスゲ君はボソッと気になることを言った。
「センチメンタル・バリューってやつがあるんだな」
「センチメートル?」
「もういい。さっさと飲んで解散だ」
用事が済んだからか、急にそっけなくなった。
こうしてカゲスゲ君の野望の話は終わって、あとは当たり障りのない話をしながら、クソまずいブレンドをちびちびやるだけだった。
そして飲み終えて、レジで支払いをしていると、窓の外に信じられないものを見た。
エドが女の子と歩いてる!
またあの赤っぽい髪の女の子と!
「ガクワリで――」
とカゲスゲ君が謎の言葉を言っている横で、俺はひたすら目で追った。
いつも自信満々で先頭を歩くエドが、女の子の後ろを大人しく付いて行っている。
やっぱり人ってわからないなぁ。
どこに行くんだろう?
っていうか、『孤独の実験』はどうなったんだ?
