「ん?」 聞き方が悪かったのか、タガさんは少しだけ首を傾げて、問い返すように俺を見た。
「例えば、その……自分を殴ろうとする奴が拳をふっと振りかぶった時とかに、『あ! 来る!』って感じるようなことってないですか?」
なんだか、自分で言いながら混乱してきたけど、タガさんなら察してくれるか?
「そりゃ、拳振りかぶってんのみたら、来るってわかるでしょ」 駄目だ。伝わってない。
「いや……たとえば、後ろで誰かが自分を殴ろうとしたときとかに、『あ、殴られる』って感じるような……」
「え? なにそれ?」 タガさんは何を言っているんだという顔になって、俺は諦めた。
まただ。 聞くんじゃなかった。 またヘンな奴だと思われて終わりだ。
わかってくれる人が見つかれば。そんな期待はとっくに捨てたつもりだったけど、また期待してしまった。 でもタガさんは、俺が思ったのとは違う反応をした。
「それはきっと、『相手の動きが予測できてる』ってことなんじゃないか? 相当な場数を踏んできたか、すごいセンスの持ち主なんだな、君は」
もう否定はしないでおこうと思った。この人は信じてくれない。 代わりに聞きたいことを聞いてみた。
「タガさん。なんで襲われてたんですか?」「君の同級生のオウガ君だっけ? 俺があの子と仲良くなろうとしてるのが、気に入らないみたいだね」「オウガ君と?」
「君たちは来年からコーガク(港湾工学校、騎炉区の中学生のほとんどが進学する高校)だろ?」「はい」「コーガクに入れば、川倉とか他のワルから誘いを受けると思うんだ。君たちは『強者ぞろいの当たり年』らしいから、特にね」
二本目のフランクフルトを頬張りながら、正直に答えた。「他の代が勝手に怖がってるだけですよ」「さっきの君の暴れっぷりを見たら、俺だって怖いよ」「そんな冗談言って――」
タガさんが、急に真剣な顔になった。
「君たちをまとめ上げて、この街を変えたい。いずれは川倉に負けない組織を作りたいんだ。毎日のように誰かが殴られたり、女の人が乱暴されたり……。こんな街に住んでたら、俺も君たちもいつかおかしくなる」
急にとんでもないことを言い出されて、理解力のない俺もさすがに焦った。「タガさん、まずいですよ。この広場でそんな話は」「とにかく、あのヤンキー連中をなんとかしたいんだ。手を貸してくれないか?」
後ろの方にある古い和風居酒屋の二階から、変なおじさんが何か怒鳴り出して、思わず振り返った。 夜の7番街でも、別にそこらじゅうでケンカが起きてるって訳でもない。俺はこの街の『頭の悪い人達』の単純さが好きだ。だけど、タガさんはその単純な人達を問題視している。
「ヤンキー連中の何がよくないんですか? 抵抗もできない弱い人達がいいようにされるだけで、抵抗さえしとけば、そんなに狙われるものでもないでしょ?」 タガさんの目が鋭くなった。「抵抗できない人間はどうなってもいいのか?」「いや……」 本心で言うと、そう思っていたような気もする。 タガさんは俺の言葉にがっかりしたのか、深いため息をついて、周りの景色をしばらく眺めたあと、事務的に言った。
「ヤンキーどもは今、俺とエドを狙ってる。エドはオウガと仲の良かった奴2人を病院送りにしたらしいじゃないか」 エドが撃った2人のことか。「ヤンキーって言うのは、『学校に行ってない奴』のことですか? さっき追い払ったナカムラっていうのも、ヤンキーですか?」「そうだ。ヤンキーどもは年齢関係なく仲がいいけど、俺や君たちには学年の溝がある。エドが本当に強い奴だとしたら、きっと俺みたいに一人のところを複数人に狙われるはずだ」
もしかして……。
「今日狙われてる可能性は?」「かもな……」 マジか!?
食べ終えていたフランクフルト2本の串と、飲み終えた缶をその場に放って、座っていた台から降りた。「おい、ゴミはちゃんと捨てて行こうぜ。向こうにゴミ捨て場あるだろ?」「あ、はい……」 それどころじゃないのだけど、タガさんに言われたら仕方ない。 急いで捨てに行くと、タガさんが一緒について来て言った。
「今日やるとしたら、『ガーシュズ』からの帰り道で襲うはずだ。つまり今夜決行だとしたら、もう手遅れだ」
タガさんはそう言うと、俺の顔を確かめて、付け加えた。
「ドミトリーに帰って、エドの部屋を訪ねてみたらどうだ?」「そう……ですね……」
タガさんは両手を腰に当てて、感心したように微笑む。「エドのことは心配するのか。ただの自己中じゃなさそうだな」
優しいと言われることはよくあったけど、自己中って言われるのは初めてだ。 ちょっと悔しいような、複雑な気持ちだった。
「まあ、今日は遅いから帰ろうぜ」「はい」「あ! 月曜の放課後にさ、東高の前の広場来れる? エドと一緒に」「え? まあ多分」
タガさんに両肩を叩かれた。「連合組もうぜ」
なんでこう、いちいちグループになりたがるんだろう?
「例えば、その……自分を殴ろうとする奴が拳をふっと振りかぶった時とかに、『あ! 来る!』って感じるようなことってないですか?」
なんだか、自分で言いながら混乱してきたけど、タガさんなら察してくれるか?
「そりゃ、拳振りかぶってんのみたら、来るってわかるでしょ」 駄目だ。伝わってない。
「いや……たとえば、後ろで誰かが自分を殴ろうとしたときとかに、『あ、殴られる』って感じるような……」
「え? なにそれ?」 タガさんは何を言っているんだという顔になって、俺は諦めた。
まただ。 聞くんじゃなかった。 またヘンな奴だと思われて終わりだ。
わかってくれる人が見つかれば。そんな期待はとっくに捨てたつもりだったけど、また期待してしまった。 でもタガさんは、俺が思ったのとは違う反応をした。
「それはきっと、『相手の動きが予測できてる』ってことなんじゃないか? 相当な場数を踏んできたか、すごいセンスの持ち主なんだな、君は」
もう否定はしないでおこうと思った。この人は信じてくれない。 代わりに聞きたいことを聞いてみた。
「タガさん。なんで襲われてたんですか?」「君の同級生のオウガ君だっけ? 俺があの子と仲良くなろうとしてるのが、気に入らないみたいだね」「オウガ君と?」
「君たちは来年からコーガク(港湾工学校、騎炉区の中学生のほとんどが進学する高校)だろ?」「はい」「コーガクに入れば、川倉とか他のワルから誘いを受けると思うんだ。君たちは『強者ぞろいの当たり年』らしいから、特にね」
二本目のフランクフルトを頬張りながら、正直に答えた。「他の代が勝手に怖がってるだけですよ」「さっきの君の暴れっぷりを見たら、俺だって怖いよ」「そんな冗談言って――」
タガさんが、急に真剣な顔になった。
「君たちをまとめ上げて、この街を変えたい。いずれは川倉に負けない組織を作りたいんだ。毎日のように誰かが殴られたり、女の人が乱暴されたり……。こんな街に住んでたら、俺も君たちもいつかおかしくなる」
急にとんでもないことを言い出されて、理解力のない俺もさすがに焦った。「タガさん、まずいですよ。この広場でそんな話は」「とにかく、あのヤンキー連中をなんとかしたいんだ。手を貸してくれないか?」
後ろの方にある古い和風居酒屋の二階から、変なおじさんが何か怒鳴り出して、思わず振り返った。 夜の7番街でも、別にそこらじゅうでケンカが起きてるって訳でもない。俺はこの街の『頭の悪い人達』の単純さが好きだ。だけど、タガさんはその単純な人達を問題視している。
「ヤンキー連中の何がよくないんですか? 抵抗もできない弱い人達がいいようにされるだけで、抵抗さえしとけば、そんなに狙われるものでもないでしょ?」 タガさんの目が鋭くなった。「抵抗できない人間はどうなってもいいのか?」「いや……」 本心で言うと、そう思っていたような気もする。 タガさんは俺の言葉にがっかりしたのか、深いため息をついて、周りの景色をしばらく眺めたあと、事務的に言った。
「ヤンキーどもは今、俺とエドを狙ってる。エドはオウガと仲の良かった奴2人を病院送りにしたらしいじゃないか」 エドが撃った2人のことか。「ヤンキーって言うのは、『学校に行ってない奴』のことですか? さっき追い払ったナカムラっていうのも、ヤンキーですか?」「そうだ。ヤンキーどもは年齢関係なく仲がいいけど、俺や君たちには学年の溝がある。エドが本当に強い奴だとしたら、きっと俺みたいに一人のところを複数人に狙われるはずだ」
もしかして……。
「今日狙われてる可能性は?」「かもな……」 マジか!?
食べ終えていたフランクフルト2本の串と、飲み終えた缶をその場に放って、座っていた台から降りた。「おい、ゴミはちゃんと捨てて行こうぜ。向こうにゴミ捨て場あるだろ?」「あ、はい……」 それどころじゃないのだけど、タガさんに言われたら仕方ない。 急いで捨てに行くと、タガさんが一緒について来て言った。
「今日やるとしたら、『ガーシュズ』からの帰り道で襲うはずだ。つまり今夜決行だとしたら、もう手遅れだ」
タガさんはそう言うと、俺の顔を確かめて、付け加えた。
「ドミトリーに帰って、エドの部屋を訪ねてみたらどうだ?」「そう……ですね……」
タガさんは両手を腰に当てて、感心したように微笑む。「エドのことは心配するのか。ただの自己中じゃなさそうだな」
優しいと言われることはよくあったけど、自己中って言われるのは初めてだ。 ちょっと悔しいような、複雑な気持ちだった。
「まあ、今日は遅いから帰ろうぜ」「はい」「あ! 月曜の放課後にさ、東高の前の広場来れる? エドと一緒に」「え? まあ多分」
タガさんに両肩を叩かれた。「連合組もうぜ」
なんでこう、いちいちグループになりたがるんだろう?
