「わりいな。付き合わせちまって」
「いいよ、別に」
エドは地下室から出ると、マエハラ通りに行くと言って俺を誘った。
灯台広場では市場の片付けが始まっている。
その広場を歩いている間も、エドはズボンに差した拳銃を注意深く押さえ続ける。
彼は俺にもポケットに入れずに、ズボンに差してシャツで隠すように言った。
とにかくポケットに入れるのは、良くないらしい。
「焼きそば、売り切れてる」
「ん? ああ」
マエハラ通りに入ると、空気が変わる。
バーや飲み屋の多い灯台広場やコワキ通りと比べて、少し落ち着いている。
飲んだくれている人や、たむろっている中高生もいない。コワキ通りで『嬢』と呼ばれるような、お姉さん達もいない。
多少のケンカは見かけるけれど、こっちこそ大人の雰囲気じゃないかなって思う。
賭けに勝ったり負けたりして、騒いでいる大人もいるけど、酔っぱらいとかと違って『意味のない喜び』ではないから。
2人で例の屋台のところまで来ると、エドは奥にある建物の入口で見張り番みたいなお兄さんに名乗った。
「エド・リンジです。ナカサワダさん、いますか?」
「待ってろ」
お兄さんは一度ドアを開けて中に入ると、すぐに出てきた。
「入れ」
入ると、夢のような涼しさ。
中はいかにも事務所っていう感じの部屋だった。
壁には、なにやら色々書き込まれたカレンダーと、ナカサワダさん達の覚書みたいなのが一杯書かれたホワイトボード。
窓の外にはパラソルとテーブルがちらっと見えている。
部屋の奥にあるソファで、タバコを咥えてくつろいでいたナカサワダさんが、手招きする。
エドは軽く目で俺に合図すると、すたすたとソファのそばまで歩いた。
「ナカサワダさん。遅くなりました」
「いや、遅かねえよ」
ソファの前のテーブルの上で、灰皿に灰を落としながら、ナカサワダさんは俺達と向かい側の椅子に座らせた。
そしてエドをまっすぐ見て聞いた。
「持って帰ってきたか?」
エドはシャツの下から銃を出すと、パカっと弾倉を横にずらした。そんなこと出来るんだ。知らなかった。
そしてその銃を、捧げ物でもするように差し出した。
ナカサワダさんはそっと受け取って確かめると、エドに言った。
「3発。誰か殺ったのか?」
「いいえ、脅しです」
「オウガは銃を誰からもらったって?」
「拾ったみたいですよ」
「本当のこと言ってるか?」
ナカサワダさんが座った目でエドを見るが、エドはそのままの顔で答えた。
「本当です。あ、エザキ……」
「ん? ああ」
俺は預かっていたオウガ君の銃を出して、あれをやろうとした。けど、あのパカッとやるやり方が分からない。
まごまごしていると、エドがさっさと取り上げて、パカッとして差し出してしまった。
やりたかったのに……。
ナカサワダさんは銃を確かめると、まあいいかと小声で呟いて、2丁ともテーブルに置いた。
「しかし、お前も友達思いだよな。オウガなんかかばってよ」
「恨みを買って、毎日睨み合いながら学校行くのが、面倒なだけです」
エドが少しだけ緊張しているように見えるけど、どうなんだろう?
「なけなしの貯金をはたいて、安心を買ったわけか。お前みたいな、出来の良さそうな奴。高校なんか行かせないで、うちで働かせたかったけど、どうやら主義が違うみたいだな」
エドがよくわからなそうな顔をしつつ、微笑みを返すと、ナカサワダさんは真面目な顔で聞いてきた。
「お前ら、今日のドンパチの音聞いたか?」
灰皿に押し付けられているタバコを見ながら、話の続きを聞く。
「7番街は、俺のボスの川倉さんが仕切ってる。警察は来ない約束だ。そのために川倉さんは警察に金も払ってる。だけど、警察ってやつはたまに約束を破るんだ。そういうとき、俺達は報復として下っ端にぶっ放しに行かせる」
ナカサワダさんはこっちに身を乗り出して、俺達を交互に見て聞いた。
「そんなとき、ぶっ放しに行かされるのはどんな奴だと思う?」
エドが答えた。
「いらない人じゃないですか?」
ナカサワダさんは
「ただのいらない奴じゃない。そんな奴の中でも、『一発あててビッグになってやろう』、そう思ってるバカを使うんだ」
「オウガですか」
エドが言うと、ナカサワダさんは笑った。
「そうだ。ああいう奴は死んでも誰も損しないからな」
なるほど、と思った。
事務所から出ると、俺達はまっすぐドミトリーに向かった。
また昼の人と夜の人が入れ替わる時間帯だ。
キャバにお酒を届ける軽トラックが、歩いてる人を蹴散らすようにして、狭い路地を抜けて来ると、コワキ通りの方に勢いよく走っていった。
軽トラの音で気が付いた。
右耳がまだ聞こえにくい。
2人で、ボロボロのコンクリートの建物の間をモタモタと歩いていると、エドが言った。
「俺さ、別に一発当てたいっていうのがバカだとは思わないんだよな」
「ハズレを引いたときのことを考えてない人は、やっぱりバカなんじゃないの?」
俺達はこういう議論が大好きだ。
「ミュージシャンとか、当たりを引いて叶えた夢で、みんなに夢を与えてるんじゃないのか?」
「頑張ったから、叶った夢じゃなくて?」
「頑張ってる奴の中から、オーディションで絞り込まれるんだぜ? そこは運みたいなもんだろ?」
「うーん、なるほど」
「だから、俺はオウガに期待してんだよ。失敗してもいいから、なんかで成功してくれないかって」
びっくりして顔を上げると、エドは笑って言った。
「バカで目立ちたがりのリーダーって、扱いやすそうじゃん」
エドはやっぱりすごい奴なんだな、と思った。
言ってることは、よくわかんないけど。
こういう時って、俺も何か言ったほうがいいのかな。
路地の家の前で、小さい子が、おじさんになにか問い詰められて、話しづらそうにしているのが見えた。
そうだ。
あれを言おう。
「しかし、エドはよくスラスラ言えるね、あの名前。ナカサワダさんてーー」
「なげーよな! めっちゃ言いづらかったよ……」
多分、こういうのを意気投合っていうのだろう。
「いいよ、別に」
エドは地下室から出ると、マエハラ通りに行くと言って俺を誘った。
灯台広場では市場の片付けが始まっている。
その広場を歩いている間も、エドはズボンに差した拳銃を注意深く押さえ続ける。
彼は俺にもポケットに入れずに、ズボンに差してシャツで隠すように言った。
とにかくポケットに入れるのは、良くないらしい。
「焼きそば、売り切れてる」
「ん? ああ」
マエハラ通りに入ると、空気が変わる。
バーや飲み屋の多い灯台広場やコワキ通りと比べて、少し落ち着いている。
飲んだくれている人や、たむろっている中高生もいない。コワキ通りで『嬢』と呼ばれるような、お姉さん達もいない。
多少のケンカは見かけるけれど、こっちこそ大人の雰囲気じゃないかなって思う。
賭けに勝ったり負けたりして、騒いでいる大人もいるけど、酔っぱらいとかと違って『意味のない喜び』ではないから。
2人で例の屋台のところまで来ると、エドは奥にある建物の入口で見張り番みたいなお兄さんに名乗った。
「エド・リンジです。ナカサワダさん、いますか?」
「待ってろ」
お兄さんは一度ドアを開けて中に入ると、すぐに出てきた。
「入れ」
入ると、夢のような涼しさ。
中はいかにも事務所っていう感じの部屋だった。
壁には、なにやら色々書き込まれたカレンダーと、ナカサワダさん達の覚書みたいなのが一杯書かれたホワイトボード。
窓の外にはパラソルとテーブルがちらっと見えている。
部屋の奥にあるソファで、タバコを咥えてくつろいでいたナカサワダさんが、手招きする。
エドは軽く目で俺に合図すると、すたすたとソファのそばまで歩いた。
「ナカサワダさん。遅くなりました」
「いや、遅かねえよ」
ソファの前のテーブルの上で、灰皿に灰を落としながら、ナカサワダさんは俺達と向かい側の椅子に座らせた。
そしてエドをまっすぐ見て聞いた。
「持って帰ってきたか?」
エドはシャツの下から銃を出すと、パカっと弾倉を横にずらした。そんなこと出来るんだ。知らなかった。
そしてその銃を、捧げ物でもするように差し出した。
ナカサワダさんはそっと受け取って確かめると、エドに言った。
「3発。誰か殺ったのか?」
「いいえ、脅しです」
「オウガは銃を誰からもらったって?」
「拾ったみたいですよ」
「本当のこと言ってるか?」
ナカサワダさんが座った目でエドを見るが、エドはそのままの顔で答えた。
「本当です。あ、エザキ……」
「ん? ああ」
俺は預かっていたオウガ君の銃を出して、あれをやろうとした。けど、あのパカッとやるやり方が分からない。
まごまごしていると、エドがさっさと取り上げて、パカッとして差し出してしまった。
やりたかったのに……。
ナカサワダさんは銃を確かめると、まあいいかと小声で呟いて、2丁ともテーブルに置いた。
「しかし、お前も友達思いだよな。オウガなんかかばってよ」
「恨みを買って、毎日睨み合いながら学校行くのが、面倒なだけです」
エドが少しだけ緊張しているように見えるけど、どうなんだろう?
「なけなしの貯金をはたいて、安心を買ったわけか。お前みたいな、出来の良さそうな奴。高校なんか行かせないで、うちで働かせたかったけど、どうやら主義が違うみたいだな」
エドがよくわからなそうな顔をしつつ、微笑みを返すと、ナカサワダさんは真面目な顔で聞いてきた。
「お前ら、今日のドンパチの音聞いたか?」
灰皿に押し付けられているタバコを見ながら、話の続きを聞く。
「7番街は、俺のボスの川倉さんが仕切ってる。警察は来ない約束だ。そのために川倉さんは警察に金も払ってる。だけど、警察ってやつはたまに約束を破るんだ。そういうとき、俺達は報復として下っ端にぶっ放しに行かせる」
ナカサワダさんはこっちに身を乗り出して、俺達を交互に見て聞いた。
「そんなとき、ぶっ放しに行かされるのはどんな奴だと思う?」
エドが答えた。
「いらない人じゃないですか?」
ナカサワダさんは
「ただのいらない奴じゃない。そんな奴の中でも、『一発あててビッグになってやろう』、そう思ってるバカを使うんだ」
「オウガですか」
エドが言うと、ナカサワダさんは笑った。
「そうだ。ああいう奴は死んでも誰も損しないからな」
なるほど、と思った。
事務所から出ると、俺達はまっすぐドミトリーに向かった。
また昼の人と夜の人が入れ替わる時間帯だ。
キャバにお酒を届ける軽トラックが、歩いてる人を蹴散らすようにして、狭い路地を抜けて来ると、コワキ通りの方に勢いよく走っていった。
軽トラの音で気が付いた。
右耳がまだ聞こえにくい。
2人で、ボロボロのコンクリートの建物の間をモタモタと歩いていると、エドが言った。
「俺さ、別に一発当てたいっていうのがバカだとは思わないんだよな」
「ハズレを引いたときのことを考えてない人は、やっぱりバカなんじゃないの?」
俺達はこういう議論が大好きだ。
「ミュージシャンとか、当たりを引いて叶えた夢で、みんなに夢を与えてるんじゃないのか?」
「頑張ったから、叶った夢じゃなくて?」
「頑張ってる奴の中から、オーディションで絞り込まれるんだぜ? そこは運みたいなもんだろ?」
「うーん、なるほど」
「だから、俺はオウガに期待してんだよ。失敗してもいいから、なんかで成功してくれないかって」
びっくりして顔を上げると、エドは笑って言った。
「バカで目立ちたがりのリーダーって、扱いやすそうじゃん」
エドはやっぱりすごい奴なんだな、と思った。
言ってることは、よくわかんないけど。
こういう時って、俺も何か言ったほうがいいのかな。
路地の家の前で、小さい子が、おじさんになにか問い詰められて、話しづらそうにしているのが見えた。
そうだ。
あれを言おう。
「しかし、エドはよくスラスラ言えるね、あの名前。ナカサワダさんてーー」
「なげーよな! めっちゃ言いづらかったよ……」
多分、こういうのを意気投合っていうのだろう。
