精神科隔離室〜閉鎖病練から帰還!ベストセラー作家佐久間拓也を支えた彼女美咲瑠美とは

小さな希望

精神病院にはケースワーカーという役割がある。留美は桜ヶ丘精神病院のケースワーカーのもとへ訪れた。
「私、グループホームから出たい。街に出て、アパートを借りて普通に生活したいの」
しかし、ワーカーは話をはぐらかすだけだった。挙句の果てに、ワーカーの言葉が留美を傷つけた。
「グループホームは天国でしょ? ここを出て一人で生活するなら、死が待ってるだけよ」
グループホームでの生活は天国なのだろうか。朝から晩まで職員に監視され、友達がホームに遊びに来ることも、部屋に入ることも禁じられている。ましてや異性との関係は禁句だ。留美はお父さんを探し出したり、生活保護を受けたり、一応「退院」という名目を達成した。次は、外の世界で普通の暮らしをしたいと考えていた。しかし、高田精神科医はもうこの世には存在しない。彼は自らも統合失調症であり、自殺してしまった。留美は新しい主治医である女性の寺本医師に相談したが、「ワーカーさんに相談しなさい」と言われるばかりだった。グループホームには5人の住人がいる。奇声を上げる人、テレビの音量を大きくする人、しばしば救急車で運ばれる人…。留美はこの環境に耐えられなくなっていた。父親との話し合いが必要となり、父は嫌々ながらも病院に連れて来られた。個室で、ワーカー、看護師、精神科医を交えて懇談が行われた。留美は涙が止まらなかった。父は「留美をよろしくお願いします」と言い残し、去って行った。その後、ワーカーの今井がやってきて言った。
「あんまりしつこく言ってると、また病院にぶち込むわよ」
その頃、金田徹と出会ってから3か月が経とうとしていた。徹は老いた両親のいる市内の実家に帰るつもりだと言う。留美はグループホームからの外出や外泊が禁じられており、保護者がいない彼女には自由はなかった。ある日、留美は徹に言った。
「徹さん、私と結婚したら、グループホームから出られるよ」
徹は驚いて言った。
「結婚は無理だよ」
「形だけよ。口実にするの。それで私は出られるの。協力して」
留美はその場で徹の手を握り、ケースワーカーの事務所に向かった。出てきたのは今井だった。
「あら、結婚するの?勝手にどうぞ。でも、病院も私たちも何の協力もしないけどね」
これが精神医療の現実である。精神医療に携わる人々は親身になって協力することは稀であり、白黒をつける判断もしない。留美はそんな精神医療に感謝していたが、これから困難が待っていることを理解していた。2人は市役所に行き、福祉課を訪ねた。グループホームからの移転には正当な理由が必要であり、役所がその判断を下すという。留美は咄嗟にこう言った。
「私には幼い頃に別れたお母さんが熊本市内にいるんです」
実際、留美はお母さんの居場所を知らなかった。しかし5年前に出会った足立啓介(55歳)と連絡を取り、母親の住民票を調べてもらうことにした。啓介の調べで、母親は長崎市に移転していることがわかった。啓介は留美を連れて、長崎の市役所へ向かった。留美は思った。「もし母が自分を引き取ってくれていたら、私の人生は違っていたのかもしれない」。だが、パチンコに狂い、女に走る父親を恨んではいなかった。長崎に着き、団地のドアを開けると、30年ぶりに再会した母の姿があった。留美には妹が3人、そして孫までいた。留美は母に会えたことが嬉しかったが、帰りの車の中で涙が止まらなかった。啓介に感謝しながらも、複雑な思いを抱えていた。その後、金田徹が亡くなり、そして啓介との関係も複雑なものになっていった。啓介は留美から金を借り、消費者金融の存在を理解していなかった留美は、後にその厳しい現実を知ることになる。しかし、最終的には啓介が障害年金から返済することで、一件落着した。
留美が振り向くと、そこに立っていたのは拓哉だった。
「どうしたの?」
「再発してしまったんだ」
留美は、また拓哉に会えるなんて想像もしていなかった。拓也は、まだ手の震えが止まらず、その震える手を見て大声で笑った。
「その震え、止まらないの?」
「拓也さん、やめてよ」
実は留美は、拓也には心を開いている。彼に対して性的な関心もあったが、それを口にすることはなかった。今日は診察のために来たらしい。
「倒れたの? 再発したの?」
「いや、職場で過労で倒れそうになったけど、ギリギリで入院はしなかったんだ」
「留美ちゃん、退職手続きのためにまた東京に行くんだ。またゆっくり話そう」
「うん、絶対だよ」
その時、少し離れた場所にいる足立啓介の姿が目に入った。留美を見ながら何かをブツブツと唱えている。
「留美ちゃん、あの人は知り合いかい?」
「ちんちん野郎だよ」
拓也が笑いながら言った。
「そういえば、相変わらず病院で中絶する人が多いのか?」
「病院にはプレイボーイな男が多いからね。賑やかでまるでお祭りだよ」