さよならを繰り返す100回目の放課後

夕暮れ色の光が、誰もいない教室をオレンジ色に染めていた。
キーンコーンカーンコーン……。
放課後を告げるチャイムの音が、遠くで静かに響き渡る。

(……また、ここだ)

机に伏せていた顔を上げると、目に飛び込んできたのは見慣れた木目の天板と、隅っこに刻まれた小さな傷跡だった。
慌てて壁の丸時計を見上げる。針は午後四時三十分を指していた。
黒板の横にかけられた日めくりカレンダーに目をやると、赤字で大きく「10月15日」と書かれている。

(10月15日……。やっぱり、戻ってきちゃったんだ)

これで、何回目だろう。
5回目? 10回目? それとも、もっと……?
何度カウントしても、恐怖と焦りで途中で分からなくなってしまう。けれど、ひとつだけ確かなことがある。
今日は、わたしにとって世界で一番大切な人が——同い年のクラスメイトである瀬名律(せな りつ)が、事故で命を落としてしまう「最悪の日」だということ。

「うわっ、紬? なんで泣いてんの?」

突然、頭の上から呆れたような、でもどこか優しい声が降ってきた。
弾かれたように顔を上げると、そこにはスクールバッグを肩にかけた律が立っていた。
少しクセのある黒髪、夕日に透ける茶色い瞳、そして口元に浮かべた生意気そうな笑み。
昨日、葬儀場で写真越しに見たはずの律が、目の前で生きている。温かい体温を持って、わたしを見つめている。

「な、泣いてなんて……っ!」
「嘘つけ。目、真っ赤じゃん。なんか嫌な夢でも見たのか?」

律は自分のポケットからクシャクシャのハンカチを取り出すと、ポイッとわたしの机の上に投げ置いた。
そのぶっきらぼうな優しさに、胸がキュッと締め付けられる。こぼれ落ちそうになる涙を必死でこらえながら、わたしはハンカチをギュッと握りしめた。

(夢なんかじゃない。わたしは、きみを救うために戻ってきたんだよ)

律がこの教室を出て、駅前の交差点に向かうのは午後五時ちょうど。
そこでトラックの暴走事故に巻き込まれてしまう。
一回目のときは、何も知らずに「じゃあね」と手を振って別れてしまった。
二回目のときは、必死で引き止めたけれど、彼は「忘れ物を取ってくる」と言って一瞬の隙に立ち去ってしまった。
三回目のときは、一緒について行ったけれど、かえってわたしを庇う形で律が……。

どうすれば、律の未来を変えられるんだろう。
何度やり直しても、まるで世界全体が「律の死」を望んでいるかのように、残酷な運命が邪魔をしてくる。

「紬、顔色悪いぞ? 体調悪いなら、家まで送っていこうか?」

律が心配そうに顔を覗き込んできた。距離が近すぎて、ドクンと心臓が跳ね上がる。
不器用で、口が悪くて、でも誰よりも優しくて——。
二ヶ月前に転校してきたばかりの律と過ごした毎日は、モノクロだったわたしの世界を色鮮やかに変えてくれた。
そんな律がいない世界なんて、絶対に嫌だ。

「ううん、大丈夫! それより……ねえ、律」
「ん?」
「今日の放課後、わたしに付き合ってくれない? 行きたいところがあるの!」

時計の針は、四時四十分を指していた。
運命の事故まで、あと二十分。
今度こそ、絶対に律の手を離さない。わたしがこの手で、きみの運命を変えてみせる——!