イヤホンの奥で
誰かの歌が泣いている
その旋律に合わせて

彼は夜の名前を捨て
一つの命を終わらせる
血の匂いさえ低音に溶けていく

世界はいつも
音楽より少し残酷だった

朝になれば白衣を着る
「眠れていますか」
「疲れていませんか」

優しい声で他人の心の傷を
ひとつずつ撫でていく
けれど彼自身の心には

診察券も処方箋もない
イヤホンを外せば
世界の雑音が押し寄せる

泣き声
銃声
救えなかった夜

だから彼はまた音楽を聴く
殺すためではなく
壊れずに生きていくために

白衣のポケットには
小さな薬瓶と
冷たい弾丸

そして誰にも見せない
ひどく臆病な心が
ひとつしまわれている