「行かせはしないっ!!」
神臣先輩の地を這うような叫びとともに、鋭い打撃音が夜空に響き渡った。
ドカッ!! バキッ!!
右手の手のひらを深く負傷しているにもかかわらず、神臣先輩は左手一本で警棒を閃かせ、飛びかかってきた黒づくめの警備兵二人を鮮やかに叩きのめした。
「怯むな! 相手は手負いの一人だ、包囲して叩きのめせ!」
残る警備兵たちが一斉に警棒とスタンガンを構え、神臣先輩へと群がり寄る。
だが、先輩は一歩も引かない。己の身体を完全な肉の壁とし、私の背後へ迫る一切の脅威をその身で受け止めていた。
(神臣先輩が繋いでくれた三十秒……絶対に無駄にはしない!!)
私は身をかがめながら石畳を滑るように駆け抜け、時計塔の中央に鎮座する『巨大な古時計の歯車台座』の前へと飛び込んだ。
真鍮と黒檀で装飾された重厚な台座。その中央には、幾重ものギアが噛み合った複雑怪奇な『隠しシリンダー』が刻まれている。
「これが……学園の全システムを司るマスター・コンソール……!」
ポケットから取り出した、あの眩く輝く『黄金のマスターキー』を、台座中央の黄金の鍵穴へと力任せに差し込む。
ジャキンッ!!
鍵はぴったりと収まった。しかし、それだけでは回らない!
(やっぱり……! 『二重構造の極限錠(デュアル・マスターロック)』! 鍵を差し込んだ状態のまま、内部の可動ピンをピックで手動調整して、時計の歯車運動と同調(シンクロ)させないと回転しない仕組みになっているんだ!!)
「頼む……私の指先……動いてっ!!」
私はツールポーチから、先ほどハッチを開けるのに使ったチタン製ピックを抜き取り、マスターキーの隙間から内部の極小シリンダーへと滑り込ませた。
──カチ。……カチ。……カチ。
時計塔全体を揺らす、巨大な振り子の重厚な往復音。
“ゴーン……コチ……ゴーン……コチ……”
(聴くのよ……時計の脈動を……! 振り子が左へ振り切れる「一秒の隙間」に、三番目と五番目のタンブラーを同時に持ち上げる……!)
その時だった。
「ええい、鬱陶しい小娘だ! ハエのようにチョコマカと……そこを動くな!!」
怒号とともに、背後で冷たい金属音が響いた。
チラリと視線を向ければ、九条代理がスーツの胸元から一丁の黒い小銃(ハンドガン)を抜き出し、マスター・コンソールに向かって作業する私の背中へ銃口を真っ直ぐ向けていた!
(え……銃……!?)
「しまっ――鈴宮っ!!!」
異変に気付いた神臣先輩が、警備兵の拘束を力任せに振り払い、弾かれたように跳躍した。
バンッ──!!
夜空を切り裂く一閃の乾いた銃声。
「きゃああっ!?」
「ぐああああっ!!」
私の視界が激しく揺れた。
九条代理の放った弾丸は、私を庇うように割り込んできた神臣先輩の右肩を鋭くかすめ、時計塔の石柱を砕いて火花を散らした。
肩から鮮血を撒き散らしながら、神臣先輩が私の前に崩れ落ちる。
「神臣先輩っ!! 神臣先輩ぁぁぁっ!!」
「振り向くな……っ! 鈴宮……前を見ろ……!!」
膝をつき、血を流しながらも、神臣先輩は九条代理を鋭い眼光で睨みつけ、私の前に立ちはだかり続けた。
「僕の命が尽きるのが先か……お前が鍵を開けるのが先か……それだけのことだ。……僕を信じて、鍵だけに集中しろ!!」
「先輩……っ! はい……はいっ!!」
涙で滲む視界。だが、私の心から迷いは完全に消え去っていた。
(この人は……神臣先輩は、自分の命を投げ打ってまで私を……私の『鍵開け』を信じてくれている……! なら、私がやるべきことは一つだけ!!)
私はピックを握る手に全魂を込めた。
右耳の集音センサーが、時計の歯車の回転音、神臣先輩の荒い呼吸音、そして自爆シークエンスの刻限を知らせる警告音を完璧に捉える。
『自爆システム発動まで……残り【00:15】秒……【00:14】秒……』
(振り子の周期は一・二秒……。ギアの噛み合わせ角度、残り三度……!!)
「調子に乗るなよ、神臣!! 次で終わりだ!!」
九条代理が再び銃口を神臣先輩の胸元へと向け、引き金に指をかける。
『【00:08】秒……【00:07】秒……』
(今だっ!!!)
振り子が最左端へ到達した瞬間──!
私はチタン製ピックをミリ単位で跳ね上げ、黄金のマスターキーを全力で右へとねじ込んだ!!
シュピンッ────ガギギギギギッ!!!
重厚な真鍮ギアが、完璧な噛み合わせを見せて旋回する!
『全タンブラー合致。マスター・オーバーライド……承認(アクセプテッド)!!』
カチャリ!!!
マスター・コンソールの全ての鍵穴が黄金の光を放ち、時計塔の最上階全体に眩い光が溢れ出した!
『自爆シークエンス、強制停止。緊急セキュリティモード発動』
“ウゥゥゥゥゥン──!!”という凶悪な自爆サイレンがピタリと停止する。
そして次の瞬間──!
“ガ――――ン……!! ガ――――ン……!! ガ――――ン……!!”
時計塔の巨大な大鐘が、夜空全体へ届かんばかりの大音量で鳴り響き始めた!
それは自爆の停止を告げると同時に、学園全土、そして警察機関へと直結された緊急通報シグナルだった!
「なっ……何だと!? 自爆が止まった……!? 警報が……全館に通報が言っているだと!?」
九条代理が驚愕のあまり目を見開き、銃を構えたままへたり込んだ。
さらに、時計塔の大型スピーカーから、地下の保管庫で神臣先輩が起動させた録音音声──九条代理が自らの口で語った「学園の資金私物化と生徒の実験台計画」の動かぬ音声データが、大鐘の音とともに街全体へと朗々と響き渡り始めた!
『……私は単に「適性試験」を行っただけだ。あの地下迷宮は、初代理事長が残した遺産……秘密資金のアクセス権を保管する巨大な金庫だからね……』
「な、なんだこれは……!? 私の声……!? やめろ、止めろぉぉぉぉっ!!」
自分の悪事が白日のもとに晒され、狂ったように叫び声をあげる九条代理。
警備兵たちも完全に戦意を喪失し、手にした武器をガタガタと震わせながら取り落としていった。
夜空の遠くから、何台もの警察車両のサイレン音が、この鳳凰学園を目指して猛スピードで近づいてくるのが聞こえる。
「勝った……んだ……」
私はピックを握りしめたまま、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。全身の緊張が抜け、涙がボロボロと溢れ出して止まらない。
「良くやった……鈴宮……」
血に染まった制服のまま、神臣先輩が静かに私の隣へとひざまずいた。
傷だらけの大きな手が、そっと私の頭を優しく撫でてくれる。
「お前は……最高の鍵開け師だ。僕の誇りだ……」
「神臣先輩……っ! うあぁぁぁんっ!!」
私は先輩の胸にとびつき、声を上げて泣きじゃくった。
神臣先輩は痛む腕で、私を温かく、力強く抱きしめ返してくれた。
夜空に響く大鐘の音と、近づいてくる警察のサイレン。
漆黒の闇に包まれていた時計塔に、静かに眩しい東の空からの朝焼け(サンライズ)が差し込み始めていた──。
神臣先輩の地を這うような叫びとともに、鋭い打撃音が夜空に響き渡った。
ドカッ!! バキッ!!
右手の手のひらを深く負傷しているにもかかわらず、神臣先輩は左手一本で警棒を閃かせ、飛びかかってきた黒づくめの警備兵二人を鮮やかに叩きのめした。
「怯むな! 相手は手負いの一人だ、包囲して叩きのめせ!」
残る警備兵たちが一斉に警棒とスタンガンを構え、神臣先輩へと群がり寄る。
だが、先輩は一歩も引かない。己の身体を完全な肉の壁とし、私の背後へ迫る一切の脅威をその身で受け止めていた。
(神臣先輩が繋いでくれた三十秒……絶対に無駄にはしない!!)
私は身をかがめながら石畳を滑るように駆け抜け、時計塔の中央に鎮座する『巨大な古時計の歯車台座』の前へと飛び込んだ。
真鍮と黒檀で装飾された重厚な台座。その中央には、幾重ものギアが噛み合った複雑怪奇な『隠しシリンダー』が刻まれている。
「これが……学園の全システムを司るマスター・コンソール……!」
ポケットから取り出した、あの眩く輝く『黄金のマスターキー』を、台座中央の黄金の鍵穴へと力任せに差し込む。
ジャキンッ!!
鍵はぴったりと収まった。しかし、それだけでは回らない!
(やっぱり……! 『二重構造の極限錠(デュアル・マスターロック)』! 鍵を差し込んだ状態のまま、内部の可動ピンをピックで手動調整して、時計の歯車運動と同調(シンクロ)させないと回転しない仕組みになっているんだ!!)
「頼む……私の指先……動いてっ!!」
私はツールポーチから、先ほどハッチを開けるのに使ったチタン製ピックを抜き取り、マスターキーの隙間から内部の極小シリンダーへと滑り込ませた。
──カチ。……カチ。……カチ。
時計塔全体を揺らす、巨大な振り子の重厚な往復音。
“ゴーン……コチ……ゴーン……コチ……”
(聴くのよ……時計の脈動を……! 振り子が左へ振り切れる「一秒の隙間」に、三番目と五番目のタンブラーを同時に持ち上げる……!)
その時だった。
「ええい、鬱陶しい小娘だ! ハエのようにチョコマカと……そこを動くな!!」
怒号とともに、背後で冷たい金属音が響いた。
チラリと視線を向ければ、九条代理がスーツの胸元から一丁の黒い小銃(ハンドガン)を抜き出し、マスター・コンソールに向かって作業する私の背中へ銃口を真っ直ぐ向けていた!
(え……銃……!?)
「しまっ――鈴宮っ!!!」
異変に気付いた神臣先輩が、警備兵の拘束を力任せに振り払い、弾かれたように跳躍した。
バンッ──!!
夜空を切り裂く一閃の乾いた銃声。
「きゃああっ!?」
「ぐああああっ!!」
私の視界が激しく揺れた。
九条代理の放った弾丸は、私を庇うように割り込んできた神臣先輩の右肩を鋭くかすめ、時計塔の石柱を砕いて火花を散らした。
肩から鮮血を撒き散らしながら、神臣先輩が私の前に崩れ落ちる。
「神臣先輩っ!! 神臣先輩ぁぁぁっ!!」
「振り向くな……っ! 鈴宮……前を見ろ……!!」
膝をつき、血を流しながらも、神臣先輩は九条代理を鋭い眼光で睨みつけ、私の前に立ちはだかり続けた。
「僕の命が尽きるのが先か……お前が鍵を開けるのが先か……それだけのことだ。……僕を信じて、鍵だけに集中しろ!!」
「先輩……っ! はい……はいっ!!」
涙で滲む視界。だが、私の心から迷いは完全に消え去っていた。
(この人は……神臣先輩は、自分の命を投げ打ってまで私を……私の『鍵開け』を信じてくれている……! なら、私がやるべきことは一つだけ!!)
私はピックを握る手に全魂を込めた。
右耳の集音センサーが、時計の歯車の回転音、神臣先輩の荒い呼吸音、そして自爆シークエンスの刻限を知らせる警告音を完璧に捉える。
『自爆システム発動まで……残り【00:15】秒……【00:14】秒……』
(振り子の周期は一・二秒……。ギアの噛み合わせ角度、残り三度……!!)
「調子に乗るなよ、神臣!! 次で終わりだ!!」
九条代理が再び銃口を神臣先輩の胸元へと向け、引き金に指をかける。
『【00:08】秒……【00:07】秒……』
(今だっ!!!)
振り子が最左端へ到達した瞬間──!
私はチタン製ピックをミリ単位で跳ね上げ、黄金のマスターキーを全力で右へとねじ込んだ!!
シュピンッ────ガギギギギギッ!!!
重厚な真鍮ギアが、完璧な噛み合わせを見せて旋回する!
『全タンブラー合致。マスター・オーバーライド……承認(アクセプテッド)!!』
カチャリ!!!
マスター・コンソールの全ての鍵穴が黄金の光を放ち、時計塔の最上階全体に眩い光が溢れ出した!
『自爆シークエンス、強制停止。緊急セキュリティモード発動』
“ウゥゥゥゥゥン──!!”という凶悪な自爆サイレンがピタリと停止する。
そして次の瞬間──!
“ガ――――ン……!! ガ――――ン……!! ガ――――ン……!!”
時計塔の巨大な大鐘が、夜空全体へ届かんばかりの大音量で鳴り響き始めた!
それは自爆の停止を告げると同時に、学園全土、そして警察機関へと直結された緊急通報シグナルだった!
「なっ……何だと!? 自爆が止まった……!? 警報が……全館に通報が言っているだと!?」
九条代理が驚愕のあまり目を見開き、銃を構えたままへたり込んだ。
さらに、時計塔の大型スピーカーから、地下の保管庫で神臣先輩が起動させた録音音声──九条代理が自らの口で語った「学園の資金私物化と生徒の実験台計画」の動かぬ音声データが、大鐘の音とともに街全体へと朗々と響き渡り始めた!
『……私は単に「適性試験」を行っただけだ。あの地下迷宮は、初代理事長が残した遺産……秘密資金のアクセス権を保管する巨大な金庫だからね……』
「な、なんだこれは……!? 私の声……!? やめろ、止めろぉぉぉぉっ!!」
自分の悪事が白日のもとに晒され、狂ったように叫び声をあげる九条代理。
警備兵たちも完全に戦意を喪失し、手にした武器をガタガタと震わせながら取り落としていった。
夜空の遠くから、何台もの警察車両のサイレン音が、この鳳凰学園を目指して猛スピードで近づいてくるのが聞こえる。
「勝った……んだ……」
私はピックを握りしめたまま、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。全身の緊張が抜け、涙がボロボロと溢れ出して止まらない。
「良くやった……鈴宮……」
血に染まった制服のまま、神臣先輩が静かに私の隣へとひざまずいた。
傷だらけの大きな手が、そっと私の頭を優しく撫でてくれる。
「お前は……最高の鍵開け師だ。僕の誇りだ……」
「神臣先輩……っ! うあぁぁぁんっ!!」
私は先輩の胸にとびつき、声を上げて泣きじゃくった。
神臣先輩は痛む腕で、私を温かく、力強く抱きしめ返してくれた。
夜空に響く大鐘の音と、近づいてくる警察のサイレン。
漆黒の闇に包まれていた時計塔に、静かに眩しい東の空からの朝焼け(サンライズ)が差し込み始めていた──。


