放課後ロック・クラッカー!〜校内の開かずの扉、すべて開けてみせます〜

「旧校舎の……地下大迷宮・拷問部屋……!?」

大時計塔での激闘から一夜明けた生徒会室。
カイ先輩がノートパソコンに表示させた青い立体ホログラムを見つめながら、私は思わずその禍々しい名称を反芻していた。

画面に浮かび上がっているのは、学園の地下数百メートルに広がる広大な空洞。
第一の秘宝『水晶のキューブ』と、第二の秘宝『天球の鍵』が共鳴したことで、旧校舎のさらに下に隠されていた「完全未開拓エリア」のマップが鮮明に描き出されていたのだ。

「ああ。明治時代、学園が設立された当初……不審な侵入者や裏切り者を収容・審問するために造られたとされる非公式の地下施設だ」

神臣先輩がコーヒーカップを保温プレートに戻し、腕を組みながら言った。

「都市伝説だと思っていましたが……本当に存在したんですね。拷問部屋なんて……」

「噂では、創立者の鏡三郎はカラクリ技術を悪用した数々の『拷問カラクリ』をそこに設置していたらしい。一度足を踏み入れれば、二度と生きては戻れない『開かずの地下牢』として恐れられていたそうだ」

『うん……。しかも解析データによると、その最奥にある審問室……通称「拷問部屋」に、第三の秘宝が封印されている「第三の開かずの扉」があるみたいなんだよ』

カイ先輩がキーボードを叩き、画面の一部を拡大する。

『ただし、問題があるんだ。この地下大迷宮は磁気と電磁波を遮断する特殊な鉱石で覆われてる。奥へ進めば進むほど、僕のハッキングやサポート通信が届かなくなっちゃう!』

「通信不能の完全孤立空間……というわけか」

神臣先輩の瞳が冷たく冴え渡る。
通信が切れれば、カイ先輩のナビゲーションも、外部からの情報支援も期待できない。何かトラブルが起きても、二人だけで解決するしかないのだ。

「鈴宮、恐怖を感じるなら……今回は生徒会室で待機していてもいいぞ」

神臣先輩が私を気遣うように、少し柔らかい声でそう囁いた。
だが、私は即座にブンブンと頭を横に振った。

「冗談言わないでください! 拷問部屋だろうが何だろうが、鍵があるなら私の出番です! それに……」

私は自分の右手をギュッと握りしめた。
指先には、今朝も神臣先輩が丁寧に巻いてくれた新しい絆創膏が貼られている。

「神臣先輩を一人でそんな危険な場所に行かせられるわけないじゃないですか。私たちは『バディ』なんですから!」

真っ直ぐに先輩を見つめて言うと、神臣先輩は一瞬口を噤み、それから呆れたような、けれど愛おしくてたまらないといったように口元を綻ばせた。

「フッ……相変わらず口だけは達者だな。……よし、ならば行こう。僕とお前で、その都市伝説を解き明かす」

「はいっ!」

放課後。夕闇が校舎を真っ赤に染め上げる頃、私たちは旧校舎の裏手にある、普段は誰も近づかない『旧礼拝堂』の焼け跡へとやってきていた。

蔦に覆われた古い石造りの扉。
神臣先輩が『天球の鍵』を扉の彫刻へ差し込むと――ガコン! と重い駆動音が響き、足元の石畳が観音開きに開いて、地下へと続く急な石段が現れた。

「ヒエッ……すごい湿気と冷気……」

地下から吹き上がってくるのは、カビと鉄錆、そして微かに焦げたような独特の匂い。
懐中電灯の光を照らすと、どこまでも続く暗黒の階段が口を開けていた。

「足元に気をつけろ、鈴宮。ここからは未知の領域だ」

神臣先輩が先頭に立ち、私の手をしっかりと握りしめて階段を下り始める。
ぎゅっと握られた先輩の手は温かく、暗闇の恐怖を吹き飛ばしてくれるようだった。

階段を下りきると、そこはまるでダンジョンのような入り組んだ石造りの通路だった。
壁には錆びついた松明(たいまつ)の台座や、重厚な鉄格子がいくつも並んでいる。

『ザザッ……ふたりとも……聞こえるかい……?』

インカムからカイ先輩の声が届くが、早くも激しいノイズが混じり始めていた。

『やっぱり……電磁波の遮断が……激しい……。僕のマップ表示も……ここから先は途切れ……ザザッ……』

「カイ! 僕たちの現在地はわかるか!?」

『ダメだ……位置情報が……狂ってる……! 気をつけて……その迷宮には……無数の死の……トラップが……ザザザッ……!』

ブツンッ……!

ついにインカムの通信が完全に切断され、静寂が訪れた。
聞こえるのは、どこか遠くでポツリ……ポツリ……と落ちる水滴の音と、私たちの荒い息遣いだけ。

「通信遮断か……。いよいよ本格的な迷宮探検だな」

「は、はい……。でも、大丈夫です! 壁の掘り込みや空気の流れを見れば、奥へ続く正解のルートは分かります!」

私は鍵開け師特有の鋭い観察眼で、石畳の摩耗具合や風の通り道を見極めて進んだ。

途中、天井から巨大な鉄の振り子斧が落下してくる罠や、足元の踏み板と連動して壁から毒針が飛び出すトラップが次々と襲いかかってきた。
だが、神臣先輩の驚異的な反射神経と、私の仕掛け分析の連携によって、私たちは危機一髪でそれらをかいくぐっていった。

「すごいな鈴宮。お前といると、どんな死地もまるでアトラクションのように思えてくる」

「もう、笑い事じゃありませんよ! 一歩間違えたら串刺しでしたからね!?」

そんな軽口を叩きながら奥へ奥へと進むこと三十分。

湿り気のある通路の突き当たりに、それまでとは明らかに異質な、不気味なオーラを放つ『漆黒の巨大鉄扉』が現れた。

「ここが……拷問部屋……」

その部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、全身の毛穴が逆立つような強烈な寒気が走った。

広大な円形の石造りの部屋。
壁際には、中世の拷問器具を思わせるアイアン・メイデン(鉄の処女)や、ギロチンの刃、巨大なチェーンや万力のような真鍮製の道具がずらりと並べられている。
どれも創立者・鏡三郎によって精密なカラクリ機構が組み込まれており、今なお静かに脈打つように『カチ……カチ……』と不気味な駆動音を立てていた。

「趣味の悪さもここまで来ると圧巻だな……」

神臣先輩が不快そうに眉をひそめる。

そして、その部屋の最奥――壁一面を埋め尽くすように鎮座していたのが、目的の『第三の開かずの扉』だった。

「ひっ……! なに……この扉……!?」

私は思わず息をのんだ。

扉の表面には、等身大の『鉄の処女(アイアン・メイデン)』の姿が立体的に浮き彫りになっていたのだ。
美しくも冷酷な女性の彫刻。その全身には無数の鍵穴がまるで傷口のように刻まれており、胸の中央にはどくどくと赤い光を放つ液晶端末のような『ガラス盤』が埋め込まれていた。

私たちが近づいたその時――。

ガチャンッ!!

背後の入り口に重厚な鉄格子が天井から落下し、私たちの退路を完全に遮断した!

「なっ……退路が破られたか!?」

神臣先輩が素早く腰の警棒を引き抜き、鉄格子を叩くが、びくともしない。

次の瞬間、扉の彫刻の口元から、プシューッと蒸気が吐き出され、耳障りな機械音声が部屋中に響き渡った。

『ようこそ、死の拷問部屋へ』

合成された無感情な声。

『我が名は「絶対解読不能の死の迷宮錠(ラビリンス・ロック)」。
この扉を解錠せんとする者に、死のゲームを開始する』

ガラス盤に、赤く光る『10:00』のカウントダウンが刻まれ始めた。

『制限時間は十分。
十のキーホールに隠された「迷宮回路」を正しい順番で解読せよ。
一度でもピッキングの順番を間違えるか、時間を超絶すれば――この部屋のすべての拷問カラクリが作動し、侵入者を跡形もなく破砕する』

ガコンッ! ギギギギ……!

アナウンスと同時に、部屋の壁際に並んでいたアイアン・メイデンが次々と口を開け、中の鋭い鉄棘(スパイク)を露わにした!
さらに、天井からは巨大な鋼鉄の圧殺天井が、ゆっくりと、しかし確実に下降を始めたのだ!

「くっ……圧殺天井に、壁の拷問器具の連動トラップか……!」

神臣先輩が不敵に口元を歪め、私の前に立ちはだかる。

「鈴宮! 解錠に取りかかれ! 迫り来る罠は、僕がすべて叩き潰す!」

「神臣先輩……! はいっ!!」

私は震える指先を抑え込み、チタン製ピックを構えて『アイアン・メイデン』の扉へと飛び付いた。

秘宝を懸けた第三の試練。
制限時間十分の「死のゲーム」が、いま幕を開ける――!