「秘宝は我ら『ファントム・キー』がいただく!」
吹き抜けになった天井から、ワイヤーを伝って無数の黒づくめの工作員が雪崩込んでくる。
強烈なヘリのローター音が塔全体を震わせ、粉々に砕けた文字盤のガラス片が、月光を反射してきらきらと殺意のように降り注いだ。
「させるかッ!!」
神臣先輩が凛とした叫びとともに地を蹴った。
襲いかかってきた工作員の一人を、華麗な回し蹴りで一撃で叩きのめす。だが、相手は十人数名。しかも手にはスタンガンや特殊網(ネット)を構えている。
「くっ……数が多い……!」
「神臣先輩、あぶないっ!」
私が悲鳴を上げた瞬間、球体金庫の光の中から、眩い青い輝きを放つ古風な金色の装飾鍵――第二の秘宝『天球の鍵(アストロ・キー)』が浮かび上がった。
「もらったぞ、鍵開け姫!」
工作員のリーダー格が、鋭い爪のついたグローブで『天球の鍵』へ手を伸ばす!
――シュインッ!
一筋の銀色の閃光が夜の空気を切り裂いた。
クロノが投げ放った純銀のピックが、工作員のグローブを完璧に貫き、金庫のフチへと縫い付けたのだ!
「ぐああぁっ!?」
「僕の目の前で、そんな野蛮な手で美しい秘宝に触ろうなんて……万死に値するよ」
シルクハットのフチを指先でなぞりながら、クロノが不敵に微笑む。
「今だ、姫! 鍵を獲れ!!」
「はいっ!!」
私は崩れかける床を飛び越え、空中へ踊り出ると、両手でしっかりと『天球の鍵』を抱きしめた!
ズシリとした冷たい真鍮の重みと、そこに宿る創立者の温かい意志のような鼓動が、指先を通じて伝わってくる。
「秘宝獲得……っ! 神臣先輩、確保しました!」
「よくやった、鈴宮!」
だが、喜んだのも束の間。
ゴゴゴゴゴ……ズガガガガガッ!!
塔全体を支えていたメインの巨大歯車が軸から外れ、爆音とともに激しく崩落し始めた!
床が斜めに傾き、足場が次々と暗闇の底へ落ちていく!
『ふたりとも、逃げてぇぇぇっ!』
インカムからカイ先輩の絶叫が響く。
『大時計塔の構造限界を超えた! あと三十秒でタワー全体が完全に崩落するよ!!』
「脱出ルートが……螺旋階段が崩れた!?」
神臣先輩が周囲を見回すが、地上へ続く階段はすでに瓦礫の山と化していた。
ヘリに乗ったファントム・キーの工作員たちも「チッ、撤退だ!」と捨てゼリフを残し、ワイヤーを引き揚げて上空へと逃げていく。
迫り来る崩壊。逃げ場のない高さ数十メートルの最上階。
絶体絶命の瞬間――。
「やれやれ……最後まで手のかかるお姫様と王子様だね」
クロノが呆れたように溜め息をつくと、腰のベルトからワイヤー銃(グラップリング・ガン)を抜き放った。
「怪盗クロノ……!?」
「僕の美学は『華麗なる脱出』だ。無格好に押し潰されるなんて冗談じゃない。……おい生徒会長、姫をしっかり抱きしめておきなよ!」
クロノがワイヤー銃を向けたのは――向かい側に見える、本校舎の屋上のフェンス!
シューーーーーッ!!
ワイヤーが夜空を一直線に切り裂き、がっちりとフェンスに突き刺さる。
「鈴宮、僕から絶対に離れるな!」
「きゃあっ!?」
神臣先輩が迷わず私を両腕で抱え上げた。
完璧なお姫様抱っこ!
胸に顔が埋まり、先輩の強い腕と、熱い体温が私を包み込む。
「飛ぶよ、二人の愛の逃避行に乾杯!」
クロノがワイヤーの巻取りスイッチを入れた瞬間、私たちの身体は浮遊感とともに夜空へと投げ出された!
――ドガァァァァァンッ!!
背後で、百年以上の歴史を誇る大時計塔が、轟音とともに崩れ落ちていく。
舞い上がる塵肺と、夜空に散る真鍮の歯車たち。
その圧倒的な破壊の光景をバックに、私たちは月光の射す夜空を、一筋の風となって滑空していた。
「神臣……先輩……っ!」
私は先輩の制服の胸元をギュッと強く握りしめた。
髪が風になびき、視界全体に星空が広がる。
私を抱きしめる神臣先輩の腕の力は、少しも緩むことなく、どこまでも優しく、どこまでも強かった。
「大丈夫だ、鈴宮。僕が……絶対に落とさせない」
耳元で囁かれた低く甘い声に、胸が破裂しそうなくらいキュンと跳ね上がった。
ドサッ……!
本校舎の屋上の芝生の上へ、私たちは無事着地した。
回転しながら着地した神臣先輩は、自分の身体をクッションにして私を衝撃から守ってくれた。
「痛っ……ふぅ」
「神臣先輩! 大丈夫ですか!?」
「ああ……なんとか、五体満足のようだな」
神臣先輩が私を抱きかかえたまま、ゆっくりと体を起こす。
そのすぐ隣で、クロノが軽やかに着地し、シルクハットを脱いで優雅に一礼してみせた。
「ふぅ、間一髪だったね。……さて、無事に着地できたところで、秘宝の分配といこうか」
クロノの紫の瞳が、私の手の中にある『天球の鍵』に向けられる。
神臣先輩が素早く立ち上がり、私を庇うように立ち塞がった。
「悪いが、この秘宝を渡すわけにはいかない。これは学園の創立者が残した重要な遺産だ」
「フフッ……固いことを言わないでくれよ、生徒会長殿。僕がワイヤーを出さなければ、君たちも秘宝も今頃ペチャンコだったんだよ?」
怪盗と生徒会長の間に、ピリッとした緊張感が走る。
私は『天球の鍵』をぎゅっと抱きしめ、クロノを見つめた。
「クロノ……助けてくれたのは、本当に感謝してます。でも……この鍵は渡せません! ファントム・キーから学園を守るために、私にはこの鍵が必要なんです!」
私が真っ直ぐな瞳で訴えると、クロノは一瞬驚いたように目を見開き、それからクックックと楽しそうに肩を揺らして笑い出した。
「ハハハ! いい顔だ、鍵開け姫! ……ふぅ、参ったな。そんな瞳で見つめられたら、野蛮な奪い取りなんてできるわけがないじゃないか」
クロノはしなやかな手つきで、胸元に挿していた一輪の『黒い薔薇』を抜き取ると、くるりと回して私に向かって投げ渡した。
「え……?」
私が慌ててキャッチすると、甘く妖しい香りが鼻をくすぐった。
「その『天球の鍵』は、君たちに預けておくよ。……ただし! 借りを作ったままなのは嫌だからね。次の『第三の開かずの扉』では、容赦なく君から秘宝を奪わせてもらうよ、鈴宮リオ」
初めて自分の名前を呼ばれ、私はドキリとした。
「僕の心まで解錠(ピッキング)してくれたお礼さ。……それじゃあ、アデュー!」
クロノが黒いマントを翻した瞬間――バッと大量の黒い羽が舞い散り、彼の姿は夜の闇の中へ消えていた。
「消えた……!? まるで手品みたい……」
「……喰えない奴だ。だが、敵に回すと厄介なのは間違いないな」
神臣先輩が警戒を解き、ふぅと長い息を吐いた。
『ふたりともーーーーーっ!!』
屋上の扉がバタンと開いて、カイ先輩が泣きそうな顔で飛び込んできた。
『よかったぁぁぁっ! 無事だったんだね! 時計塔が崩れて……僕、もう生きた心地がしなかったよぉ!』
「カイ、心配をかけたな。ご覧の通り、全員無事だ。秘宝も手に入れた」
神臣先輩がポケットから『天球の鍵』を取り出して見せると、カイ先輩は涙を拭いながら感無量といった様子で頷いた。
「生徒会室へ戻ろう。……鈴宮の手当も、まだ途中だからな」
深夜の生徒会室。
静まり返った部屋の中で、私はソファーに座り、神臣先輩に手当をしてもらっていた。
クロノとの同期ピッキングと、崩壊するタワーからの脱出で、私の指先は再び痛々しく赤くなっていた。
神臣先輩は一点の曇りもない真剣な表情で、私の指先に優しく絆創膏と包帯を巻き直してくれている。
「痛むか?」
「ううん……神臣先輩の手が温かいから、ちっとも痛くありません」
私がニッコリ笑うと、神臣先輩の手が一瞬止まった。
先輩は伏せられた綺麗なまつ毛をゆっくりと上げ、私の目をまっすぐに見つめ返した。
「……バカ者。お前はいつもそうだ。自分の身体のことより、鍵のこと、みんなのことを優先する」
「だって……私、生徒会特殊捜査課の鍵開け師(クラッカー)ですから」
「僕にとっては……」
神臣先輩の声が、少しだけ低く、熱を帯びて響いた。
「僕にとっては、鍵開け師(クラッカー)である前に……かけがえのない『大切なバディ』なんだ。お前が傷つくくらいなら、秘宝などどうでもいいとすら思ってしまう」
「神臣、先輩……」
先輩の長くて温かい指先が、包帯の巻かれた私の手を優しく包み込み、ゆっくりと自分の額へと引き寄せた。
「……もう、無茶はしないでくれ。お前を守るのが、僕の役目なんだから」
普段のドSで冷徹な氷の王子様からは想像もつけない、切ないほどに素直な言葉。
胸の奥がキュンと締め付けられ、顔全体が爆発しそうなくらい真っ赤になった。
『あ、ダメだ……! こんなの反則すぎる……! 私、本当に先輩のこと……!』
「コ、コホンッ!」
部屋の隅でパソコンを操作していたカイ先輩が、気まずそうに咳払いをした。
『あのー、甘い空気のところ大変申し訳ないんだけど……すごく大変なことが分かっちゃったよ』
「カイ……空気を読め」
神臣先輩が冷たい視線を向ける。
『ご、ごめんって! でも見てよこれ!』
カイ先輩が差し出したモニターには、第一の秘宝『水晶のキューブ』と、第二の秘宝『天球の鍵』が共鳴して放つ、新たなデータ解析結果が表示されていた。
『二つの秘宝が合わさったことで、次に目指すべき「第三の開かずの扉」の場所が特定できたんだ! その場所は……』
カイ先輩がゴクリと唾を飲み込んだ。
『学園の地下深く……かつて創立者が封印したという『旧校舎の地下大迷宮・拷問部屋』!!』
「拷問部屋……!?」
私が叫ぶと同時に、二つの秘宝がまばゆい光を放ち、天井に向かって『第三の暗号』をホログラムのように映し出した。
『我は「第三の扉」を守る影。
次に挑む者に与えし試練は――「絶対解読不能の死の迷宮錠」。
解けぬ者に待つのは、永遠の闇なり』
姿なき敵『ファントム・キー』の影。
華麗なるライバル『怪盗クロノ』の予告。
そして、学園の地下深くに眠る恐ろしい第三の試練!
「ふっ……死の迷宮錠か。面白い」
神臣先輩が不敵な笑みを浮かべ、私の肩を力強く抱き寄せた。
「行くぞ、鈴宮。どんな暗闇が待っていようと……僕とお前の二人なら、すべての鍵を撃ち破れる!」
「はいっ!! 私と神臣先輩のコンビで……第三の開かずの扉も、ぜんぶカチリと解き明かしてみせます!」
互いの絆を胸に、私たちは次なる恐怖と冒険が待つ『地下大迷宮』へと立ち向かうのだった――!
吹き抜けになった天井から、ワイヤーを伝って無数の黒づくめの工作員が雪崩込んでくる。
強烈なヘリのローター音が塔全体を震わせ、粉々に砕けた文字盤のガラス片が、月光を反射してきらきらと殺意のように降り注いだ。
「させるかッ!!」
神臣先輩が凛とした叫びとともに地を蹴った。
襲いかかってきた工作員の一人を、華麗な回し蹴りで一撃で叩きのめす。だが、相手は十人数名。しかも手にはスタンガンや特殊網(ネット)を構えている。
「くっ……数が多い……!」
「神臣先輩、あぶないっ!」
私が悲鳴を上げた瞬間、球体金庫の光の中から、眩い青い輝きを放つ古風な金色の装飾鍵――第二の秘宝『天球の鍵(アストロ・キー)』が浮かび上がった。
「もらったぞ、鍵開け姫!」
工作員のリーダー格が、鋭い爪のついたグローブで『天球の鍵』へ手を伸ばす!
――シュインッ!
一筋の銀色の閃光が夜の空気を切り裂いた。
クロノが投げ放った純銀のピックが、工作員のグローブを完璧に貫き、金庫のフチへと縫い付けたのだ!
「ぐああぁっ!?」
「僕の目の前で、そんな野蛮な手で美しい秘宝に触ろうなんて……万死に値するよ」
シルクハットのフチを指先でなぞりながら、クロノが不敵に微笑む。
「今だ、姫! 鍵を獲れ!!」
「はいっ!!」
私は崩れかける床を飛び越え、空中へ踊り出ると、両手でしっかりと『天球の鍵』を抱きしめた!
ズシリとした冷たい真鍮の重みと、そこに宿る創立者の温かい意志のような鼓動が、指先を通じて伝わってくる。
「秘宝獲得……っ! 神臣先輩、確保しました!」
「よくやった、鈴宮!」
だが、喜んだのも束の間。
ゴゴゴゴゴ……ズガガガガガッ!!
塔全体を支えていたメインの巨大歯車が軸から外れ、爆音とともに激しく崩落し始めた!
床が斜めに傾き、足場が次々と暗闇の底へ落ちていく!
『ふたりとも、逃げてぇぇぇっ!』
インカムからカイ先輩の絶叫が響く。
『大時計塔の構造限界を超えた! あと三十秒でタワー全体が完全に崩落するよ!!』
「脱出ルートが……螺旋階段が崩れた!?」
神臣先輩が周囲を見回すが、地上へ続く階段はすでに瓦礫の山と化していた。
ヘリに乗ったファントム・キーの工作員たちも「チッ、撤退だ!」と捨てゼリフを残し、ワイヤーを引き揚げて上空へと逃げていく。
迫り来る崩壊。逃げ場のない高さ数十メートルの最上階。
絶体絶命の瞬間――。
「やれやれ……最後まで手のかかるお姫様と王子様だね」
クロノが呆れたように溜め息をつくと、腰のベルトからワイヤー銃(グラップリング・ガン)を抜き放った。
「怪盗クロノ……!?」
「僕の美学は『華麗なる脱出』だ。無格好に押し潰されるなんて冗談じゃない。……おい生徒会長、姫をしっかり抱きしめておきなよ!」
クロノがワイヤー銃を向けたのは――向かい側に見える、本校舎の屋上のフェンス!
シューーーーーッ!!
ワイヤーが夜空を一直線に切り裂き、がっちりとフェンスに突き刺さる。
「鈴宮、僕から絶対に離れるな!」
「きゃあっ!?」
神臣先輩が迷わず私を両腕で抱え上げた。
完璧なお姫様抱っこ!
胸に顔が埋まり、先輩の強い腕と、熱い体温が私を包み込む。
「飛ぶよ、二人の愛の逃避行に乾杯!」
クロノがワイヤーの巻取りスイッチを入れた瞬間、私たちの身体は浮遊感とともに夜空へと投げ出された!
――ドガァァァァァンッ!!
背後で、百年以上の歴史を誇る大時計塔が、轟音とともに崩れ落ちていく。
舞い上がる塵肺と、夜空に散る真鍮の歯車たち。
その圧倒的な破壊の光景をバックに、私たちは月光の射す夜空を、一筋の風となって滑空していた。
「神臣……先輩……っ!」
私は先輩の制服の胸元をギュッと強く握りしめた。
髪が風になびき、視界全体に星空が広がる。
私を抱きしめる神臣先輩の腕の力は、少しも緩むことなく、どこまでも優しく、どこまでも強かった。
「大丈夫だ、鈴宮。僕が……絶対に落とさせない」
耳元で囁かれた低く甘い声に、胸が破裂しそうなくらいキュンと跳ね上がった。
ドサッ……!
本校舎の屋上の芝生の上へ、私たちは無事着地した。
回転しながら着地した神臣先輩は、自分の身体をクッションにして私を衝撃から守ってくれた。
「痛っ……ふぅ」
「神臣先輩! 大丈夫ですか!?」
「ああ……なんとか、五体満足のようだな」
神臣先輩が私を抱きかかえたまま、ゆっくりと体を起こす。
そのすぐ隣で、クロノが軽やかに着地し、シルクハットを脱いで優雅に一礼してみせた。
「ふぅ、間一髪だったね。……さて、無事に着地できたところで、秘宝の分配といこうか」
クロノの紫の瞳が、私の手の中にある『天球の鍵』に向けられる。
神臣先輩が素早く立ち上がり、私を庇うように立ち塞がった。
「悪いが、この秘宝を渡すわけにはいかない。これは学園の創立者が残した重要な遺産だ」
「フフッ……固いことを言わないでくれよ、生徒会長殿。僕がワイヤーを出さなければ、君たちも秘宝も今頃ペチャンコだったんだよ?」
怪盗と生徒会長の間に、ピリッとした緊張感が走る。
私は『天球の鍵』をぎゅっと抱きしめ、クロノを見つめた。
「クロノ……助けてくれたのは、本当に感謝してます。でも……この鍵は渡せません! ファントム・キーから学園を守るために、私にはこの鍵が必要なんです!」
私が真っ直ぐな瞳で訴えると、クロノは一瞬驚いたように目を見開き、それからクックックと楽しそうに肩を揺らして笑い出した。
「ハハハ! いい顔だ、鍵開け姫! ……ふぅ、参ったな。そんな瞳で見つめられたら、野蛮な奪い取りなんてできるわけがないじゃないか」
クロノはしなやかな手つきで、胸元に挿していた一輪の『黒い薔薇』を抜き取ると、くるりと回して私に向かって投げ渡した。
「え……?」
私が慌ててキャッチすると、甘く妖しい香りが鼻をくすぐった。
「その『天球の鍵』は、君たちに預けておくよ。……ただし! 借りを作ったままなのは嫌だからね。次の『第三の開かずの扉』では、容赦なく君から秘宝を奪わせてもらうよ、鈴宮リオ」
初めて自分の名前を呼ばれ、私はドキリとした。
「僕の心まで解錠(ピッキング)してくれたお礼さ。……それじゃあ、アデュー!」
クロノが黒いマントを翻した瞬間――バッと大量の黒い羽が舞い散り、彼の姿は夜の闇の中へ消えていた。
「消えた……!? まるで手品みたい……」
「……喰えない奴だ。だが、敵に回すと厄介なのは間違いないな」
神臣先輩が警戒を解き、ふぅと長い息を吐いた。
『ふたりともーーーーーっ!!』
屋上の扉がバタンと開いて、カイ先輩が泣きそうな顔で飛び込んできた。
『よかったぁぁぁっ! 無事だったんだね! 時計塔が崩れて……僕、もう生きた心地がしなかったよぉ!』
「カイ、心配をかけたな。ご覧の通り、全員無事だ。秘宝も手に入れた」
神臣先輩がポケットから『天球の鍵』を取り出して見せると、カイ先輩は涙を拭いながら感無量といった様子で頷いた。
「生徒会室へ戻ろう。……鈴宮の手当も、まだ途中だからな」
深夜の生徒会室。
静まり返った部屋の中で、私はソファーに座り、神臣先輩に手当をしてもらっていた。
クロノとの同期ピッキングと、崩壊するタワーからの脱出で、私の指先は再び痛々しく赤くなっていた。
神臣先輩は一点の曇りもない真剣な表情で、私の指先に優しく絆創膏と包帯を巻き直してくれている。
「痛むか?」
「ううん……神臣先輩の手が温かいから、ちっとも痛くありません」
私がニッコリ笑うと、神臣先輩の手が一瞬止まった。
先輩は伏せられた綺麗なまつ毛をゆっくりと上げ、私の目をまっすぐに見つめ返した。
「……バカ者。お前はいつもそうだ。自分の身体のことより、鍵のこと、みんなのことを優先する」
「だって……私、生徒会特殊捜査課の鍵開け師(クラッカー)ですから」
「僕にとっては……」
神臣先輩の声が、少しだけ低く、熱を帯びて響いた。
「僕にとっては、鍵開け師(クラッカー)である前に……かけがえのない『大切なバディ』なんだ。お前が傷つくくらいなら、秘宝などどうでもいいとすら思ってしまう」
「神臣、先輩……」
先輩の長くて温かい指先が、包帯の巻かれた私の手を優しく包み込み、ゆっくりと自分の額へと引き寄せた。
「……もう、無茶はしないでくれ。お前を守るのが、僕の役目なんだから」
普段のドSで冷徹な氷の王子様からは想像もつけない、切ないほどに素直な言葉。
胸の奥がキュンと締め付けられ、顔全体が爆発しそうなくらい真っ赤になった。
『あ、ダメだ……! こんなの反則すぎる……! 私、本当に先輩のこと……!』
「コ、コホンッ!」
部屋の隅でパソコンを操作していたカイ先輩が、気まずそうに咳払いをした。
『あのー、甘い空気のところ大変申し訳ないんだけど……すごく大変なことが分かっちゃったよ』
「カイ……空気を読め」
神臣先輩が冷たい視線を向ける。
『ご、ごめんって! でも見てよこれ!』
カイ先輩が差し出したモニターには、第一の秘宝『水晶のキューブ』と、第二の秘宝『天球の鍵』が共鳴して放つ、新たなデータ解析結果が表示されていた。
『二つの秘宝が合わさったことで、次に目指すべき「第三の開かずの扉」の場所が特定できたんだ! その場所は……』
カイ先輩がゴクリと唾を飲み込んだ。
『学園の地下深く……かつて創立者が封印したという『旧校舎の地下大迷宮・拷問部屋』!!』
「拷問部屋……!?」
私が叫ぶと同時に、二つの秘宝がまばゆい光を放ち、天井に向かって『第三の暗号』をホログラムのように映し出した。
『我は「第三の扉」を守る影。
次に挑む者に与えし試練は――「絶対解読不能の死の迷宮錠」。
解けぬ者に待つのは、永遠の闇なり』
姿なき敵『ファントム・キー』の影。
華麗なるライバル『怪盗クロノ』の予告。
そして、学園の地下深くに眠る恐ろしい第三の試練!
「ふっ……死の迷宮錠か。面白い」
神臣先輩が不敵な笑みを浮かべ、私の肩を力強く抱き寄せた。
「行くぞ、鈴宮。どんな暗闇が待っていようと……僕とお前の二人なら、すべての鍵を撃ち破れる!」
「はいっ!! 私と神臣先輩のコンビで……第三の開かずの扉も、ぜんぶカチリと解き明かしてみせます!」
互いの絆を胸に、私たちは次なる恐怖と冒険が待つ『地下大迷宮』へと立ち向かうのだった――!


