母さんにそう言われて、俺は少しだけ言葉に詰まった。
もともとは今日のうちに帰るつもりだった。雫もそのつもりで来てくれたはずだ。
それでも、目の前にいる母さんの顔を見ていると、ここで断る理由もないような気がしてきた。
「……雫は?」
そう聞くと、雫は少し考えてから、俺のほうを見る。
「私は……湊がいいなら」
「俺は、いいよ」
そう答えると、雫が小さく笑った。
「じゃあ、泊まろうか」
「うん」
母さんも嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、夕飯も一緒に食べましょう。せっかくだから、今日はゆっくりしていって」
それからしばらくして、夕食の時間になった。
旅館の食事処の一角で、俺たちは母さんと一緒に食卓を囲んだ。
子どもの頃には当たり前だった場所なのに、久しぶりに座ると、なんとなく落ち着かない。目の前に並ぶ料理も、昔から見慣れていたものばかりなのに、今日は隣に雫がいるせいか、少しだけ違って見えた。
「美味しいです」
雫が料理を口にして、嬉しそうに言う。
「よかった。湊は昔からここの料理を食べて育ったから、こういう味にはうるさいのよ」
「母さん、余計なこと言わなくていいから」
「だって本当でしょう?」
雫が笑う。
「そうなんだ」
「いや、別にそんなにうるさくないから」
「でも、昔は嫌いなものが出るとすぐ残してたわよ」
「それ、今言う?」
母さんが楽しそうに笑って、雫もつられるように笑う。
その光景を見ながら、俺も自然と笑っていた。
昔は何とも思わなかった家族との食事が、今は少しだけ特別に感じられる。
たぶん、何年も離れていたからだ。そして、そんな場所に雫がいる。
そのことが、思っていた以上に嬉しかった。
食事を終える頃には、外はすっかり暗くなっていた。
母さんが用意してくれた部屋へ戻ると、そこには二人分の布団が並べられていた。
「じゃあ、今日はゆっくり休んでね」
「ありがとう、母さん」
「雫ちゃんも、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
母さんが部屋を出ていく。扉が閉まると、さっきまで聞こえていた旅館の音が少し遠くなった。
二人きりになる。それだけで、さっきまでとは少し空気が変わったように感じた。
「……なんか、変な感じ」
雫が布団を見ながら言った。
「何が?」
もともとは今日のうちに帰るつもりだった。雫もそのつもりで来てくれたはずだ。
それでも、目の前にいる母さんの顔を見ていると、ここで断る理由もないような気がしてきた。
「……雫は?」
そう聞くと、雫は少し考えてから、俺のほうを見る。
「私は……湊がいいなら」
「俺は、いいよ」
そう答えると、雫が小さく笑った。
「じゃあ、泊まろうか」
「うん」
母さんも嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、夕飯も一緒に食べましょう。せっかくだから、今日はゆっくりしていって」
それからしばらくして、夕食の時間になった。
旅館の食事処の一角で、俺たちは母さんと一緒に食卓を囲んだ。
子どもの頃には当たり前だった場所なのに、久しぶりに座ると、なんとなく落ち着かない。目の前に並ぶ料理も、昔から見慣れていたものばかりなのに、今日は隣に雫がいるせいか、少しだけ違って見えた。
「美味しいです」
雫が料理を口にして、嬉しそうに言う。
「よかった。湊は昔からここの料理を食べて育ったから、こういう味にはうるさいのよ」
「母さん、余計なこと言わなくていいから」
「だって本当でしょう?」
雫が笑う。
「そうなんだ」
「いや、別にそんなにうるさくないから」
「でも、昔は嫌いなものが出るとすぐ残してたわよ」
「それ、今言う?」
母さんが楽しそうに笑って、雫もつられるように笑う。
その光景を見ながら、俺も自然と笑っていた。
昔は何とも思わなかった家族との食事が、今は少しだけ特別に感じられる。
たぶん、何年も離れていたからだ。そして、そんな場所に雫がいる。
そのことが、思っていた以上に嬉しかった。
食事を終える頃には、外はすっかり暗くなっていた。
母さんが用意してくれた部屋へ戻ると、そこには二人分の布団が並べられていた。
「じゃあ、今日はゆっくり休んでね」
「ありがとう、母さん」
「雫ちゃんも、何かあったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
母さんが部屋を出ていく。扉が閉まると、さっきまで聞こえていた旅館の音が少し遠くなった。
二人きりになる。それだけで、さっきまでとは少し空気が変わったように感じた。
「……なんか、変な感じ」
雫が布団を見ながら言った。
「何が?」


