「ただ……いつか本当にそう思ったときに、覚悟があるなら、そのときはお前に任せる」
その言葉を聞いて、俺は親父の顔を見た。
「……いいの?」
「お前が自分で決めたことならな。ただ、俳優を辞めろとは言わん。お前が選んだ仕事なんだから、最後までやればいい」
その言葉が、思っているよりも深く残った。
昔の俺は、旅館か俳優か、そのどちらかを選ばなければならないと思っていた。家を選ぶなら夢を諦める。夢を選ぶなら、ここには戻れない。
そうやって自分で道を二つに分けて、その間にあるものを見ようとしていなかった。でも今は、少し違う。
「……うん。わかった。でも、いつかそのときが来たら……そのときは、ちゃんと向き合いたい」
親父はしばらく黙って俺のことを見ていた。
その顔を見ていると、昔のことが少しずつ浮かんできた。俺が俳優になりたいと言ったときも、家を出るときも、親父とは何度もぶつかった。あの頃は、自分の選んだ道を認めてもらえないことが悔しくて、だからこそ何も言わずに離れることを選んだ。
でも今こうして向かい合ってみると、あの頃とは少し違う気持ちで親父の顔を見ることができていた。
「……そうか」
短い言葉だった。でも、その声には昔みたいな強さも、俺を引き戻そうとするような響きもなかった。ただ、俺が自分で選んだことを、そのまま受け止めてくれているように聞こえた。
親父は少しだけ視線を落としてから、静かに口を開いた。
「なら、それでいい」
旅館を継がなかったことを、許してほしかったわけじゃない。俳優として生きることを認めてほしかっただけなのかもしれない。けれど、今になってようやく、俺が選んだ道と、この場所に残ってきた親父の道は、どちらか一つを選ばなければならないものじゃなかったのだと思えた。
今はまだ、俳優として歩いていく。そしていつか、この場所に帰ることを選ぶ日が来たら、そのときは逃げずに向き合えばいい。
そう思えたことだけで、何年も抱えていたものが、ようやく少し軽くなった気がした。
しばらく黙ったあと、親父はふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……雫さん…だったか。一緒に来ているのか」
「ああ。今は母さんと一緒にいるみたいだけど」
「ああ、そうか」
親父はそれだけ言って、少し考えるように黙った。
その言葉を聞いて、俺は親父の顔を見た。
「……いいの?」
「お前が自分で決めたことならな。ただ、俳優を辞めろとは言わん。お前が選んだ仕事なんだから、最後までやればいい」
その言葉が、思っているよりも深く残った。
昔の俺は、旅館か俳優か、そのどちらかを選ばなければならないと思っていた。家を選ぶなら夢を諦める。夢を選ぶなら、ここには戻れない。
そうやって自分で道を二つに分けて、その間にあるものを見ようとしていなかった。でも今は、少し違う。
「……うん。わかった。でも、いつかそのときが来たら……そのときは、ちゃんと向き合いたい」
親父はしばらく黙って俺のことを見ていた。
その顔を見ていると、昔のことが少しずつ浮かんできた。俺が俳優になりたいと言ったときも、家を出るときも、親父とは何度もぶつかった。あの頃は、自分の選んだ道を認めてもらえないことが悔しくて、だからこそ何も言わずに離れることを選んだ。
でも今こうして向かい合ってみると、あの頃とは少し違う気持ちで親父の顔を見ることができていた。
「……そうか」
短い言葉だった。でも、その声には昔みたいな強さも、俺を引き戻そうとするような響きもなかった。ただ、俺が自分で選んだことを、そのまま受け止めてくれているように聞こえた。
親父は少しだけ視線を落としてから、静かに口を開いた。
「なら、それでいい」
旅館を継がなかったことを、許してほしかったわけじゃない。俳優として生きることを認めてほしかっただけなのかもしれない。けれど、今になってようやく、俺が選んだ道と、この場所に残ってきた親父の道は、どちらか一つを選ばなければならないものじゃなかったのだと思えた。
今はまだ、俳優として歩いていく。そしていつか、この場所に帰ることを選ぶ日が来たら、そのときは逃げずに向き合えばいい。
そう思えたことだけで、何年も抱えていたものが、ようやく少し軽くなった気がした。
しばらく黙ったあと、親父はふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……雫さん…だったか。一緒に来ているのか」
「ああ。今は母さんと一緒にいるみたいだけど」
「ああ、そうか」
親父はそれだけ言って、少し考えるように黙った。


