恋と焦燥のロードマップ

撮影現場に着けば、いつものようにスタッフへと挨拶をして、衣装に着替える。台本を確認して、呼ばれればカメラの前に立つ。恋人ができたからといって、芝居が変わるわけではない。むしろ、昨日までと同じように仕事をしている自分が少し可笑しかった。
休憩に入ってスマートフォンを確認すると、雫から昼休みのメッセージが届いていた。
『ちゃんとご飯食べてる?』
思わず笑ってしまう。
『食べてるよ。雫は?』
『私は今から』
『じゃあ、ちゃんと食べて』
『湊もね』
それだけのやり取りだった。
撮影が再開されれば、また仕事に集中する。次のシーンを確認して、スタッフに呼ばれれば立ち位置に着く。そうしているうちに、あっという間に一日が終わった。
着替えを済ませ、現場を出る。迎えの車に乗り込むと、運転席には佐伯さんがいた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
いつもの挨拶を交わし、車が走り出す。
しばらくは今日の撮影について話していた。明日の予定や来週のスケジュールを確認して、話が一段落する。
窓の外へ目を向ける。
朝、雫から届いた『待ってる』という言葉が浮かんだ。俺は少しだけ迷って口を開いた。
「佐伯さん」
「はい?」
「その……一応報告というか、あの前に言ってた女性とお付き合いすることになりました」
言ってしまうと、思っていたよりあっさりしていた。佐伯さんは前を向いたまま、少しだけ間をおいた。
「そうですか」
「はい」
「おめでとうございます」
「…ありがとうございます?」
なんとなく恥ずかしくなって、窓の外を見る。すると、佐伯さんが小さく息を吐いた。
「ただ、これまで以上に気をつけてくださいね」
「……分かってます」
「前にもお話したと思いますが、写真を撮られることもあります。今までなら湊一人で済んでたことでも、これからは相手方を巻き込む可能性がある」
「……はい」
「それだけは、忘れないくださいね」
俺は黙って頷いた。分かっているつもりだった。雫と付き合うことになったと伝えた瞬間から、俺一人の問題ではなくなったことも。だからこそ、これまで以上に慎重にならなければいけない。
「……佐伯さん」
「はい?」
「その……ありがとうございます」
「何がですか?」
「いや……なんとなく」