恋と焦燥のロードマップ

待ち合わせの日が来るまで、思ったよりも時間が長く感じた。
Linkで知り合ってから、湊とは毎日のようにメッセージを交わしていた。仕事のこと、好きな食べ物のこと、休日の過ごし方。どれも特別な話じゃない。それでも、少しずつ会話を重ねるうちに、いつの間にか港からメッセージが届くことが楽しみになっていた。
朝、スマートフォンを開いて新しい通知があると、それだけで少し嬉しくなる。仕事の休憩中に返事を考えて、帰宅してからまた続きを話す。そんな何気にないやりとりが、いるの間にか私の日常の一部になっていた。
だからこそ、実際に会うと決まったときは、嬉しいという気持ちより先に、少しだけ怖いと思った。
画面の向こうにいる人と、現実で会う。それだけのことなのに、不思議なくらい緊張した。
待ち合わせの場所へ向かう電車の中で、私は何度もスマートフォンの画面の確認をした。約束の時間はまだ先なのに、地図を開いてみたり、湊との最後のメッセージを読み返してみたりする。別に何か特別なことが書いてあるわけでもない。
『湊:じゃあ、駅前の時計のところで待ってるね』
『雫:分かった。私もそれくらいに着くと思う』
たったそれだけ。なのに、その文字を見るだけで胸が少しだけ騒がしくなる。
駅に着くと、待ち合わせの場所まで歩いた。休日の駅前は人が多く、待ち合わせをしている人もたくさんいる。誰かを探しているように周囲を見回している人もいれば、スマートフォンを見ながら立っている人もいた。
私もその中の一人なる。
時計を確認すると、約束の時間まであと五分ほどだった。
少し早くき過ぎたのかもしれない。そう思いながら、私は一度周囲を見渡した。その時、少し離れたところに、一人の男性が立っているのが見えた。
黒っぽい帽子を深く被っていて、メガネをかけている。服装はシンプルで、周囲に溶け込むような格好をしていた。スマートフォンを片手に、時々時計を確認している。何となく、あの人かもしれないと思った。
理由はわからない。ただ、メッセージで話していた湊の雰囲気と、どこか似ている気がした。
少しだけ迷ってから、私はその人のところへと近づいた。すると、向こうも私に気づいたのか、顔を上げて私の顔を見てきた。
「……湊さん?」
声をかけると、少しだけ笑ってから、
「あ、うん。雫さん?」
「そうです」
「よかった。合ってた」
その瞬間、張り詰めていたものが少しだけほどけた。もっと緊張すると思っていた。
会ったことのない二人で出かけるのだから、会話が途切れたらどうしようとか、写真と実物が違うって思われたらどうしようとか、そんなことばかり考えていた。でも、実際に声を聞いてみるち、Linkで何度もやり取りをしていた時の湊と変わらなかった。
「すみません、ちょっと早くきちゃって」
「私もです」
「じゃあ、同じですね」
そう言って、湊が笑った。その笑い方を見て、私は少しだけ安心した。眼鏡の奥にある目元を見ながら、ふと、どこかで見たことあるような気がした。でも、その考えをすぐに打ち消す。多分、気のせいだ。
街を歩いていて、似たような顔を見かけることなんて珍しくない。そもそも私は、人の顔を覚えるのが特別得意なわけでもない。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
湊が歩き出した。私はその隣に並ぶ。
最初は少しだけ距離があった。けれど、そんなことも気にならなくなった。
今日行く店は、湊が探してくれた小さなカフェだった。落ち着いた雰囲気の店で、休日でもそれほど混んでいないらいしい。
「こういうところ、よく来るんですか?」
「いや、実は俺も初めてです」