恋と焦燥のロードマップ

たったそれだけの言葉だった。それなのに、胸の奥に小さな灯りがついたような気がした。特別な約束をしたわけでもない。ただ、時間があるから話す。それだけのことなのに、誰もいない部屋で一人きりだった俺にとって、その一言は思ってた以上に嬉しかった。
その夜、俺たちはいつもより長くメッセージを続けた。最近見た映画のことや、仕事であったくだらない出来事、子供の頃好きだったもの。話題は何度も変わったけど、どちらかが無理に次の話を探す必要はなかった。返信まで少し時間が空いても気まずくならないし、話が途切れても、また何かを思い出したようにどちらかがメッセージを送る。そんな時間を過ごしているうちに、俺はふと、この人とはもっと話したいと思うようになっていた。
それから、似たような夜が少しずつ増えていった。毎日必ず長く話すわけじゃない。忙しい日は短いやり取りだけで終わることもあるし、何も送らない日だってあった。それでも、翌日には自然に会話が始まる。雫からメッセージが届けば嬉しいし、仕事の合間にふと彼女へ話したいことを思いつくことも増えた。以前なら、その日のうちに忘れていたような小さな出来事まで「これ、雫に話したらどういう反応するかな」と考えるようになった。
まだ、会ったことすらない。それなのに、少しずつだった。昨日より今日、今日より明日。そんなふうに、目に見えないくらいの速さで、俺たちの距離は確かに近づいていた。プロフィールに書かれていた「ゆっくり仲良くなれたら嬉しい」という言葉を、俺はその頃になって初めて、本当の意味で理解し始めたのかもしれない。誰かと仲良くなるというのは、相手のことを一気に知ることではなくて、昨日まで知らなかった小さなことを今日一つ知って、明日また知っていく、その繰り返しなのだと。
そんな日がしばらく続いたある夜、俺はいつものように雫とメッセージを交わしていた。特別な話をしていたわけじゃない。撮影の合間に食べた弁当の話をして、雫が最近見た映画の話を聞いて、そこから好きな食べ物の話になって、気づけば一時間以上が過ぎていた。時計を見て、もうこんな時間かと思ったとき、俺は少しだけ迷ってから、画面に指を滑らせた。
『湊:今度、直接会ってみない?』
送信してから、急に緊張した。