正式に付き合う前の、もどかしくも甘い時間を経て迎えた週末の金曜日。誠也…くんは「アプリの最後のデートです」と言って、私をある場所へ連れ出した。
それは、会社のオフィスビルから少し離れた場所にある、都内を一望できる静かな展望台だった。夜の帳が降りた東京の街は、まるでひっくり返した宝石箱のようにきらきらと輝いている。平日のオフィスでの焦燥感も、アプリの画面の中で感じていたあの息苦しさも、この広い夜景の前ではすべて遠い出来事のように思えた。
並んで夜景を見つめていると、誠也がポケットから自分のスマートフォンを取り出した。画面の光が、彼の端正な横顔を白く照らす。
「先輩、これ見てください」
差し出された画面には、マッチングアプリ『Link』のマイページが開かれていた。驚いたことに、彼のメッセージ履歴の欄には、私とのやり取りだけがぽつんと残されていて、他の女性との関わりは少しも存在しなかった。
誠也くんは私の目の前で、一切の迷いなく画面をスクロールすると、『退会する』のボタンを親指でしっかりとタップした。画面に『アカウントの削除が完了しました』という無機質な文字が表示され、次の瞬間、アプリのアイコンが彼のスマホの画面から完全に消え去った。
「……」
私は、目の前で行われたそのあまりにも潔い儀式を、ただ息を呑んで見つめることしかできなかった。
「先輩」
誠也くんはスマートフォンをスラックスのポケットに仕舞うと、夜景から私へと、そのメガネの奥の瞳を真っ直ぐに向けた。
「俺の視界には、もうあなたしかいません。……だから、もし、正式に俺の恋人になってくれるなら」
彼はそこで一度言葉を区切り、緊張を隠すように小さく押し殺した声を響かせた。
それは、会社のオフィスビルから少し離れた場所にある、都内を一望できる静かな展望台だった。夜の帳が降りた東京の街は、まるでひっくり返した宝石箱のようにきらきらと輝いている。平日のオフィスでの焦燥感も、アプリの画面の中で感じていたあの息苦しさも、この広い夜景の前ではすべて遠い出来事のように思えた。
並んで夜景を見つめていると、誠也がポケットから自分のスマートフォンを取り出した。画面の光が、彼の端正な横顔を白く照らす。
「先輩、これ見てください」
差し出された画面には、マッチングアプリ『Link』のマイページが開かれていた。驚いたことに、彼のメッセージ履歴の欄には、私とのやり取りだけがぽつんと残されていて、他の女性との関わりは少しも存在しなかった。
誠也くんは私の目の前で、一切の迷いなく画面をスクロールすると、『退会する』のボタンを親指でしっかりとタップした。画面に『アカウントの削除が完了しました』という無機質な文字が表示され、次の瞬間、アプリのアイコンが彼のスマホの画面から完全に消え去った。
「……」
私は、目の前で行われたそのあまりにも潔い儀式を、ただ息を呑んで見つめることしかできなかった。
「先輩」
誠也くんはスマートフォンをスラックスのポケットに仕舞うと、夜景から私へと、そのメガネの奥の瞳を真っ直ぐに向けた。
「俺の視界には、もうあなたしかいません。……だから、もし、正式に俺の恋人になってくれるなら」
彼はそこで一度言葉を区切り、緊張を隠すように小さく押し殺した声を響かせた。


