東京という未知の街で新生活を始める美月と、変わらない地方都市に残り続ける俺。遠距離恋愛という過酷な現実の寂しさに、当時の俺たちの幼い心が耐えられることは、お互いに言葉にしなくても痛いほど分かっていた。距離のせいで不満が溜まり、いつか喧嘩して、お互いを嫌いになって別れるのだけは絶対に嫌だった。だから俺たちは「一番綺麗な思い出のままでいよう」よ、泣きながら話し合って、卒業式の翌日に別れることを決めた。
あの日の駅のホーム。改札の手前で、美月はボロボロと大粒の涙を流していた。
鼻の頭を真っ赤にして、制服の袖で何度も涙を拭いながら、それでも美月は必死に口角を上げて、眩しいほどの笑顔を作った。
「バイバイ、拓也。私、東京で頑張るから。拓也も、絶対幸せになってね」
それが美月の最後の言葉だった。あの泣き顔のまま作った最高の笑顔が、十数年が経った今でも、俺の胸の奥の最も深い場所に刺さったまま、どうしても抜けない棘のようになっていた。
新しい誰かと出会うたびに、俺は無意識にあの日の美月の笑顔や、部室での会話の心地よさを探していた。そんな自分が嫌で、いい加減に過去を忘れて前を向くためにアプリを始めたはずなのに、皮肉なことに、画面をスクロールすればするほど、あの頃の記憶ばかりが鮮明に蘇ってくるのだった。
自宅のワンルームマンションに帰り着き、スーツのネクタイを緩めてベッドに寝転がる。
ため息を一つついて、ルーティーンワークのようにアプリを起動した。今日もお勧めされたユーザーの顔写真が、カードのように次々と画面に表示される。
「スワイプ、左、スワイプ、左……」
興味のない相手を事務的に弾いていく。どうせ今日も、誰のプロフィールを読んでも何も感じないのだろう。そ諦めかけた、その時だった。
指が、画面の途中でピタリ止まった。
表示されたのは、どこかの旅先だろうか、少し遠くから撮影された、白いワンピースを着た女性の横顔の写真だった。少し癖のあるボブカットの髪が、風に揺れている。
名前の欄には、ひらがなで『みづき』とあった。年齢は二十九歳。
「……嘘だろ」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。
写真を引き伸ばす。画質はそれほど良くない。しかし、その鼻のライン、少し猫背気味な独特の立ち姿、そして何より、笑った時に少しだけ細くなるその目の形。
あの日の駅のホーム。改札の手前で、美月はボロボロと大粒の涙を流していた。
鼻の頭を真っ赤にして、制服の袖で何度も涙を拭いながら、それでも美月は必死に口角を上げて、眩しいほどの笑顔を作った。
「バイバイ、拓也。私、東京で頑張るから。拓也も、絶対幸せになってね」
それが美月の最後の言葉だった。あの泣き顔のまま作った最高の笑顔が、十数年が経った今でも、俺の胸の奥の最も深い場所に刺さったまま、どうしても抜けない棘のようになっていた。
新しい誰かと出会うたびに、俺は無意識にあの日の美月の笑顔や、部室での会話の心地よさを探していた。そんな自分が嫌で、いい加減に過去を忘れて前を向くためにアプリを始めたはずなのに、皮肉なことに、画面をスクロールすればするほど、あの頃の記憶ばかりが鮮明に蘇ってくるのだった。
自宅のワンルームマンションに帰り着き、スーツのネクタイを緩めてベッドに寝転がる。
ため息を一つついて、ルーティーンワークのようにアプリを起動した。今日もお勧めされたユーザーの顔写真が、カードのように次々と画面に表示される。
「スワイプ、左、スワイプ、左……」
興味のない相手を事務的に弾いていく。どうせ今日も、誰のプロフィールを読んでも何も感じないのだろう。そ諦めかけた、その時だった。
指が、画面の途中でピタリ止まった。
表示されたのは、どこかの旅先だろうか、少し遠くから撮影された、白いワンピースを着た女性の横顔の写真だった。少し癖のあるボブカットの髪が、風に揺れている。
名前の欄には、ひらがなで『みづき』とあった。年齢は二十九歳。
「……嘘だろ」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。
写真を引き伸ばす。画質はそれほど良くない。しかし、その鼻のライン、少し猫背気味な独特の立ち姿、そして何より、笑った時に少しだけ細くなるその目の形。


