恋と焦燥のロードマップ

「そう。だから、Linkの攻略ブログを血眼になって読み漁って、この市場で勝つには港区男子の余裕を演じなきゃいけないんだって、必死に格好つけてただけなんだ。真由さんみたいに素敵な、丁寧な暮らしをしてる清楚な女性に振り向いて欲しくて。……だから、あの日急に謝って車を降りられちゃった時、僕、本当に自分が情けなくて。僕が嘘ばっかりついて格好つけてたから、真由さんを追い詰めちゃったんだって、ずっと後悔してた。……そしたら、まさか僕が一番落ち着ける大好きなこの居酒屋で、こんなガサツに笑ってる真由さんに会えるなんて思わなかった」
大輔の言葉に、私は呆然とした後、胸の奥がじんわりと、驚くほどの温かさで満たされていくのを感じていた。
お互いに、相手を想って、嫌われたくなくて、自分を良く見せるための「必死の努力」が完全に同じ罠にハマっていたのだ。
「あはは! 何それ、二人してバカみたい!」
「本当だよね。でも、今日初めて、真由さんの本当の笑顔が見られた気がする。お弁当の写真の時より、今のガサツに笑ってる真由さんの方が、ずっと素敵だよ」
不意に投げかけられた真っ直ぐな言葉に、今度は嘘の演技ではなく、本物の熱が私の頬を赤く染めた。
お会計を済ませ、赤提灯の灯る路地裏へと出ると、初秋の夜風が火照った顔に心地よかった。駅へと向かって並んで歩く。
今日の私はサンダルだから、一歩歩いてもどこも痛くない。大輔の歩調も、無理に遅くしたエスコートではなく、私の等身大の歩幅と自然に重なっていた。
改札の手前で、私は足を止めた。
私はバッグから、いつのものか分からないレシートの裏紙と、ボールペンを取り出した。
「真由さん?」
「……はい、これ」
私は、自分の本当の携帯番号と、本当の趣味を殴り書きしたレシートを、少し照れくささを隠しながら大輔に差し出した。
大輔がそれを受け取り、不思議そうに文字をなぞる。
「……趣味、ビールと漫画。特技、どこでも寝られること。……あはは、何これ」
「文句ある? これが私の本物のプロフィール」
私は一歩、大輔に近づいた。そして、いたずらっぽく微笑みながら、今度は仮面ではない、心の底からの本音を口にする。
「……ねえ。今度はちゃんとお互いの本物のプロフィール、教え合わない?」
大輔はレシートを愛おしそうにポケットに仕舞うと、今度は見栄を張らない、本物の優しい笑顔を私に返した。
「……うん、そうだね。まずは、僕の本当の好物から教えるよ」
完璧に舗装された嘘のロードマップは、一度派手に失敗して崩壊した。
けれど、その泥臭い瓦礫の隙間から、私たちは今、お互いの身の丈に合った、本物の恋のロードマップを歩き始めようとしていた。