恋と焦燥のロードマップ

高校二年の春から、卒業式の翌日まで付き合っていた、俺の人生で最初で、そしておそらく一番純粋に好きだった女の子。
俺たちが所属していたのは、校舎の最上階の隅にある、文化系の中でも地味な『映画批評部』だった。部員は俺と美月の二人。放課後、埃っぽい部室のパイプ椅子に並んで座り、家庭科室から払い下げられた小さなテレビモニターで、世界中の映画をひたすら観た。
美月は映画を観ている間、よく喋るやつだった。「今のカメラワーク、すごく意地悪だと思わない?」とか、「この主人公のセリフ、絶対本音じゃないよね」とか、画面の端々に隠された微かな感情を見つけるのが天才的に美味かった。俺は映画そのものよりも、モニターの光に照らされた美月の横顔が、感情に合わせてくるくると変わるその瞳を見るのが好きだった。
いつだったか、雨の激しい日の放課後、有線のイヤホンを片方ずづ分け合って、美月が一番好きだというマイナーな洋画のサントロを聴いた。狭い部室の中で、お互いの肩が触れ合うほどの距離。窓を叩く雨音に混じって、静かなピアノの旋律が流れていた。あの時、美月がふと俺の方を振り返り、「ねぇ、私たちって大人になっても、こうやって一緒に映画観てるのかな」と呟いた。その時の、少しはにかんだような笑顔と、不意に触れた指先の熱を、俺は今でも鮮明に思い出すことできる。
夕暮れの通学路、並んで歩きながらそっと手を繋ぐだけで、心臓が破裂しそうだった。お互いにお金を出し合って、京都の修学旅行の自由行動で見つけた革細工の店で、お互いのキーホルダーを買った。お互いのイニシャルが不恰好に刻印されたそれを持ち合うことが、当時の俺たちにとっては、世界の何よりも強い約束のように思えた。
けれど、そんなキラキラした季節は、高校卒業とともに唐突に終わりを告げた。
進路を決める時期、美月は東京の有名な私立大学への進学が決まり、俺は地元を離れられず、地元の国公立大学へ進むことになった。地方と東京。新幹線を使っても数時間はかかる距離だ。