恋と焦燥のロードマップ

ダメ元で画面の「いいね」ボタンをタップした。どうせ相手にされないだろう――そう思った、わずか数分後だった。
ポロン、と軽い通知音が部屋に響く。
『大輔さんとマッチングしました! メッセージを送りましょう』
心臓が跳ね上がった。本当にマッチングしてしまった。画面の向こうのハイスペ男が、私の偽造した「曲げわっぱ弁当」と「代官山の微笑み」に引っかかったのだ。
ポロン、と再び軽い通知音が鳴り、大輔からのファーストメッセージが滑り込んできた。
『真由さん、はじめまして!マッチングありがとうございます。お弁当の写真すごく美味しそうですね。最近の女の子で、ちゃんとお弁当作って会社に行く人って珍しいから、すごく素敵だなって思っていいねしちゃいました』
(あ、終わった)
画面を見つめたまま、私はベッドに突っ伏した。
嬉しさよりも先に、冷や汗混じりの戦慄が背中を駆け抜ける。彼は、私が日常的にあのクオリティの弁当を作っていると思い込んでいる。最初の一歩から、自分で仕掛けた罠の重みがズシリとのしかかってきた。
でも、ここで日寄ったら一生、あのハリー・ウィンストンのタイムラインを指をくわえて眺めるだけの「不良在庫」のままだ。私はよれよれのTシャツの襟元を引っ張りながら、覚悟を決めて指先を動かした。
『大輔さん、はじめまして!メッセージありがとうございます。お弁当、褒めていただけてすごく嬉しいです(笑)。普段から自炊が多いので、そう言っていただけると励みになります。大輔さんは海外旅行が趣味なんですね!すごく素敵です。最近はどこに行かれたんですか?』
大輔からの返信は、いつもスマートで、そしてこちらの背筋をピンと伸ばさせるものばかりだった。
『最近は、有給を取ってパリと南仏を回ってきました。やっぱり現地の空気感は刺激になりますね。真由さんはヨーロッパとか行かれますか?』
パリ。南仏。私にとってのヨーロッパといえば、せいぜい成田空港の免税店か、カルディの輸入菓子コーナーくらいのものだ。私は必死に脳内マーケティングを繰り返す。
『パリ、素敵ですね!私は最近まとまったお休みが取れなくて、国内の温泉地でゆっくりすることが多いです(笑)。でも、いつか南仏のラベンダー畑は見てみたいってずっと思っているんです』