恋と焦燥のロードマップ

俺の胸の奥には、いつも不思議なほど静かで、どこか平穏すぎる凪が広がっていた。
傷つくことのない、絶対に間違えることのない、完璧な関係。
高校時代のように、嫌われることを恐れて夜も眠れなくなったり、連絡が来ないだけで世界が終わったような絶望に陥ったりすることは、今の俺たちにはもう起こり得ない。それはあまりにも成熟していて、あまりにも穏やかで、そして――。
俺はジョッキを置き、目の前で焼き鳥を美味しそうに頬張る美月を見つめた。
ハーフアップにまとめた髪、笑うと少しだけ細くなる目の形。愛おしいと思う。大切だとも思う。だからこそ、俺はこの完璧なロードマップの上から、一歩も外れないように、慎重に言葉を選び、完璧な「男側の役割」を演じようとしていた。この居心地の良さを、手放したくはなかったから。
でも、それはきっと、美月も同じだったのだ。
二杯目のレモンサワーを注文した頃、ふと、会話のラリーが途切れた。
いつもなら沈黙すら気楽なはずなのに、今日のその空白には、どこか薄いガラスを隔てたような、不思議な緊張感が混ざっていた。
美月がグラスを置き、少しトーンを落として俺を見つめた。その瞳は、いつになく真面目で、どこか決意を秘めているように見えた。
「ねえ、拓也」
「ん? どうした?」
俺はできるだけ自然な笑顔を作って、美月の言葉を待った。付き合う直前の、あの独特のもどかしい空気が、座敷の狭い空間に満ちていく。読者がページをめくる手を止めるような、完璧な告白のシチュエーションがそこにあった。
美月はカバンの中に手を伸ばし、スマートフォンのケースの端で揺れる、あの古びたイニシャル入りの革のキーホルダーをそっと指先でなぞった。
「今日の遊園地も、先週の水族館もさ、本当に、信じられないくらい楽しかった。私、東京からこっちに戻ってきてからずっと、こんなに何でも話せて安心できる場所、他になかったから」
「うん。俺もだよ」
「でもね……」
美月はそこで一度視線を落とし、それから、意を決したように真っ直ぐに俺の目を見た。
「一昨日さ、アプリでマッチングした別の人からメッセージが来たの。その時、ふと『この人と会ったらどんな感じなんだろう』って、ちょっとドキドキしてる自分に気づいちゃって」
美月の言葉に、俺の身体がかすかにこわばる。