水族館のあとも、俺たちは何度か週末の予定を合わせた。
お互いに仕事の都合で行けない週もあったが、メッセージのやり取りが途切れることはなく、気乗りのしないアプリを開くことはいつの間にか完全になくなっていた。
「今度の土曜日、もし予定空いてたら遊園地行かない? ほら、高校のとき美月が『絶叫系乗ってみたい』って言ってた、あそこ」
「行く! あそこずっと行ってみたかったんだよね」
そうしてやってきたのは、少しノスタルジックな雰囲気を残す、都内から少し離れた郊外の遊園地だった。
休日の園内は、色鮮やかなポップコーンの甘い匂いと、子供たちの歓声、そしてアトラクションから流れる賑やかな音楽で満たされている。
「拓也、早く! 最初にあれ乗ろう!」
美月はロングスカートの裾を軽く揺らしながら、空にそびえ立つ巨大なジェットコースターを指差した。ハーフアップにまとめた髪から覗く耳元で、小さなイヤリングが小さく揺れている。
「おい、心の準備くらいさせてくれよ」
口ではそう言いながらも、俺の足取りは軽かった。
人気のアトラクションということもあり、列の最後尾についた時点で「90分待ち」の看板が目に入った。マッチングアプリで出会ったばかりの異性と2時間近く並ぶ状況を想像すると、それだけで胃のあたりが重くなる。何を話せば退屈させないか、減点されないか、沈黙が訪れるたびに冷や汗をかくようなあの息苦しさ。
けれど、美月が相手だと、そんな焦りは1秒すら湧いてこなかった。
「そういえばさ、先週の営業でさ……」
「待って、それ本当にひどいね」
仕事の他愛のない愚痴から、最近お互いの実家で起きたクスッと笑えるニュース、果ては高校の同級生が結婚したというSNSで見かけた噂話まで、会話のラリーは途切れることなく続いた。
途中で十分ほど会話が途切れ、ただ二人で並んでスマートフォンの画面を眺めている時間すらあった。だが、その沈黙ですら、不思議なほど気まずくない。お互いに「何か喋らなきゃ」という義務感を全く抱いていないのだ。
ただ、隣に美月がいて、同じ時間を過ごしている。それが当たり前の風景として、自分の身体にあまりにも綺麗に馴染んでいる。
やがて俺たちの番がまわってきて、シートに深く腰掛け、安全バーをガチリと胸に下ろした。
ゆっくりと巻き上げられていくコースターの、カチカチカチ、という乾いた音が、静かに緊張感を高めていく。一番高い頂点に達した瞬間、目の前に広がる青空と街の景色が一瞬だけ静止した。
「いくよ、拓也!」
隣の席で、美月が楽しそうに叫んだ。
次の瞬間、世界が反転するような猛烈なスピードで、俺たちは風の中に投げ出された。
お互いに仕事の都合で行けない週もあったが、メッセージのやり取りが途切れることはなく、気乗りのしないアプリを開くことはいつの間にか完全になくなっていた。
「今度の土曜日、もし予定空いてたら遊園地行かない? ほら、高校のとき美月が『絶叫系乗ってみたい』って言ってた、あそこ」
「行く! あそこずっと行ってみたかったんだよね」
そうしてやってきたのは、少しノスタルジックな雰囲気を残す、都内から少し離れた郊外の遊園地だった。
休日の園内は、色鮮やかなポップコーンの甘い匂いと、子供たちの歓声、そしてアトラクションから流れる賑やかな音楽で満たされている。
「拓也、早く! 最初にあれ乗ろう!」
美月はロングスカートの裾を軽く揺らしながら、空にそびえ立つ巨大なジェットコースターを指差した。ハーフアップにまとめた髪から覗く耳元で、小さなイヤリングが小さく揺れている。
「おい、心の準備くらいさせてくれよ」
口ではそう言いながらも、俺の足取りは軽かった。
人気のアトラクションということもあり、列の最後尾についた時点で「90分待ち」の看板が目に入った。マッチングアプリで出会ったばかりの異性と2時間近く並ぶ状況を想像すると、それだけで胃のあたりが重くなる。何を話せば退屈させないか、減点されないか、沈黙が訪れるたびに冷や汗をかくようなあの息苦しさ。
けれど、美月が相手だと、そんな焦りは1秒すら湧いてこなかった。
「そういえばさ、先週の営業でさ……」
「待って、それ本当にひどいね」
仕事の他愛のない愚痴から、最近お互いの実家で起きたクスッと笑えるニュース、果ては高校の同級生が結婚したというSNSで見かけた噂話まで、会話のラリーは途切れることなく続いた。
途中で十分ほど会話が途切れ、ただ二人で並んでスマートフォンの画面を眺めている時間すらあった。だが、その沈黙ですら、不思議なほど気まずくない。お互いに「何か喋らなきゃ」という義務感を全く抱いていないのだ。
ただ、隣に美月がいて、同じ時間を過ごしている。それが当たり前の風景として、自分の身体にあまりにも綺麗に馴染んでいる。
やがて俺たちの番がまわってきて、シートに深く腰掛け、安全バーをガチリと胸に下ろした。
ゆっくりと巻き上げられていくコースターの、カチカチカチ、という乾いた音が、静かに緊張感を高めていく。一番高い頂点に達した瞬間、目の前に広がる青空と街の景色が一瞬だけ静止した。
「いくよ、拓也!」
隣の席で、美月が楽しそうに叫んだ。
次の瞬間、世界が反転するような猛烈なスピードで、俺たちは風の中に投げ出された。


