恋と焦燥のロードマップ

大輔が笑う。
そんな二人の何気ない夕方だった。
二人にとって、南條湊斗はテレビの中の人だった。
その人がどんな場所で育ち、どんな夢を追いかけ、何を選んできたのか。そして、誰と出会ったのか。
二人が知ることはない。
ニュースの中では、ただ「一般女性との結婚」と「俳優業からの引退」が伝えられる。
その女性が、かつてテレビを見ることさえ避けていたことも。
一人の俳優を見るために、約十年ぶりにテレビを買ったことも。
その出会いによって、少しずつ過去と向き合えるようになったことも。
誰にも知られることはない。
けれど、それでいい。
すべての物語が、誰かに知られる必要はない。
大切だった時間は、その時間を生きた人の中に残っていればいい。
そして、湊と雫だけではない。
大輔と真由にも。
拓也にも、美月にも、杏奈にも、神谷誠也にも。
それぞれに、誰かには知られていない時間がある。
笑った日も。
迷った日も。
何かを失った日も。
それでも前へ進んだ日も。
Linkで出会った時間は、人生全体から見れば、ほんの一瞬だったのかもしれない。
それでも、その一瞬が、その後の人生を変えた人がいる。
誰かと出会ったことで、自分自身を知った人がいる。
誰かを好きになったことで、これまで避けていたものと向き合えた人がいる。
誰かと別れたことで、新しい道を選べた人もいる。
人生は、最初から完成された地図を持って歩くものではない。
歩きながら、少しずつ書き足していくものなのだ。
道を間違えたと思ったら、戻ればいい。
違う道へ進みたくなったら、曲がればいい。
途中で誰かと出会ったら、その人と一緒に歩いてもいい。
一人で歩くことを選んでもいい。
目的地が変わったっていい。それまで歩いてきた道が、無意味になるわけではない。
あの日、Linkで交わした言葉も。
笑ったことも。
傷ついたことも。
好きになったことも。
そのすべてが、それぞれの人生の中に残っている。そして今日も、八人はそれぞれの場所で歩いている。
同じ場所へ向かっているわけではない。
同じ未来を目指しているわけでもない。
それでも、まだ道の途中にいる。
この先、また道が分かれるかもしれない。
思いもよらない場所へ辿り着くかもしれない。