写真を見ているうちに、忘れていたことまで少しずつ思い出していった。お母さんが作ってくれた料理の味や、お父さんの車の助手席から見ていた景色、お兄ちゃんとテレビのチャンネルを取り合ったこと。それがきっかけてで、もう一つ小さなテレビを自分の部屋に置く用に買ってくれたこと。どれも特別な出来事ではなかったけれど、だからこそ、その一つ一つが今になって大切なものに思えた。
私は写真をそっと指でなぞった。
「……楽しかったな」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。その言葉を口にしたのは、事故のあと初めてだった。涙が一滴だけ写真の上に落ちたのを、私はそれを慌てて拭おうとはしなかった。悲しいから泣いているのか、懐かしいから泣いているのか、自分でもよく分からなかった。ただ、写真の中で笑っている家族を見ていると、失ったことだけを思い出すのではなく、一緒に過ごせた時間を思い出してもいいのだと思えた。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面を見ると、湊からだった。
『今日の仕事終わったよ』
いつものような、何気ないメッセージだった。私は少し迷ってから、机の上に置いた写真を撮り、そのまま湊へ送った。
『今日、昔の写真を見つけた』
すぐに既読がついた。
『家族の写真?』
『うん』
少しして、湊から返事が届く。
『いい笑顔だね』
その言葉を見て、雫はもう一度、写真へ目を向けた。
『うん。まだちょっとだけ怖かったけど』
送信してから、しばらく画面を見つめる。けれど、それ以上、湊から何かを求めるような言葉は届かなかった。ただ、少しして、『そっか』とだけ返ってきた。
その短い返事が、今はありがたかった。何かを忘れろと言われるわけでもなく、無理に前を向けと言われるわけでもない。ただ、自分が見つけたものを、そのまま受け止めてくれているような気がした。
スマートフォンを置き、もう一度、写真を見つめた。
四人で笑っている写真だった。もう、写真の中へ戻ることはできないし、失った時間を取り戻すこともできない。それでも、その時間がなくなったわけではなかった。あの頃、確かに一緒に笑っていた。一緒にご飯を食べて、くだらない話をして、喧嘩をして、それでも家族だった。その記憶まで、失う必要はない。
私は写真をそっと箱の中へ戻した。そして、今まで棚の奥にしまっていたその箱を、手の届く場所へ置いた。
また見たくなったときは、いつでも取り出せる。そう思えるだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
窓の外では、夕方の光がゆっくりと街を照らしていた。
私はしばらくその箱を眺めてから、いつものように部屋の片付けを続けた。昔の家族との時間を、もう隠しておく必要はない。これから先も、きっと思い出すたびに悲しくなることはあるだろう。それでも、その悲しさだけではなく、あの頃に一緒に過ごした時間も、ちゃんと覚えていたいと思った。
そして、ふと湊とのメッセージ画面を見る。
これからも、きっと忘れることはない。でも、忘れなくても前へ進める。
そんなことを、少しずつ分かり始めていた。
私は写真をそっと指でなぞった。
「……楽しかったな」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。その言葉を口にしたのは、事故のあと初めてだった。涙が一滴だけ写真の上に落ちたのを、私はそれを慌てて拭おうとはしなかった。悲しいから泣いているのか、懐かしいから泣いているのか、自分でもよく分からなかった。ただ、写真の中で笑っている家族を見ていると、失ったことだけを思い出すのではなく、一緒に過ごせた時間を思い出してもいいのだと思えた。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面を見ると、湊からだった。
『今日の仕事終わったよ』
いつものような、何気ないメッセージだった。私は少し迷ってから、机の上に置いた写真を撮り、そのまま湊へ送った。
『今日、昔の写真を見つけた』
すぐに既読がついた。
『家族の写真?』
『うん』
少しして、湊から返事が届く。
『いい笑顔だね』
その言葉を見て、雫はもう一度、写真へ目を向けた。
『うん。まだちょっとだけ怖かったけど』
送信してから、しばらく画面を見つめる。けれど、それ以上、湊から何かを求めるような言葉は届かなかった。ただ、少しして、『そっか』とだけ返ってきた。
その短い返事が、今はありがたかった。何かを忘れろと言われるわけでもなく、無理に前を向けと言われるわけでもない。ただ、自分が見つけたものを、そのまま受け止めてくれているような気がした。
スマートフォンを置き、もう一度、写真を見つめた。
四人で笑っている写真だった。もう、写真の中へ戻ることはできないし、失った時間を取り戻すこともできない。それでも、その時間がなくなったわけではなかった。あの頃、確かに一緒に笑っていた。一緒にご飯を食べて、くだらない話をして、喧嘩をして、それでも家族だった。その記憶まで、失う必要はない。
私は写真をそっと箱の中へ戻した。そして、今まで棚の奥にしまっていたその箱を、手の届く場所へ置いた。
また見たくなったときは、いつでも取り出せる。そう思えるだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
窓の外では、夕方の光がゆっくりと街を照らしていた。
私はしばらくその箱を眺めてから、いつものように部屋の片付けを続けた。昔の家族との時間を、もう隠しておく必要はない。これから先も、きっと思い出すたびに悲しくなることはあるだろう。それでも、その悲しさだけではなく、あの頃に一緒に過ごした時間も、ちゃんと覚えていたいと思った。
そして、ふと湊とのメッセージ画面を見る。
これからも、きっと忘れることはない。でも、忘れなくても前へ進める。
そんなことを、少しずつ分かり始めていた。


