放課後。
「……疲れた」
私は机に突っ伏した。
今日は席替え初日。
それだけなのに、ものすごく疲れた気がする。
原因は――
「四大アイドル……」
ちらっと周りを見る。
一ノ瀬くんは、女子たちに囲まれていた。
「一ノ瀬くん、今日の委員会って――」
「うん。あとで確認しておくね」
相変わらず完璧。
瀬戸くんは男子たちと楽しそうに話している。
「だからさ、それ絶対俺のほうが速いって!」
黒崎くんは静かに帰り支度。
九条くんは窓の外をぼーっと眺めている。
……やっぱり。
学校では、完璧なんだ。
私は鞄を持って立ち上がった。
「帰ろ……」
そのとき。
「あ」
教室に忘れ物をしたことに気づいた。
「ノート……」
机の中に入れっぱなしだった。
「取りに戻らなきゃ」
私は一人で教室へ戻った。
――そして。
廊下を歩いていたとき。
「……ん?」
どこからか、声が聞こえた。
「……もう無理……」
「え?」
聞き覚えのある声。
私は足を止めた。
教室ではない。
隣の空き教室から聞こえる。
「誰だろう……」
そっと扉を開ける。
すると――
「……」
「……」
「……」
「……」
そこにいたのは。
「一ノ瀬くん!?」
四人全員だった。
しかも。
私が知っている四人とは、明らかに違う。
「……え?」
一ノ瀬くんが机に突っ伏している。
「疲れたぁ……」
「…………」
私は固まった。
「一ノ瀬くん?」
「んー……」
「……大丈夫?」
「……あ」
顔を上げた。
そして私を見る。
「…………」
数秒の沈黙。
「……美桜ちゃん?」
「はい」
「……見た?」
「……見ました」
一ノ瀬くんが顔を覆った。
「終わった……」
「え?」
「僕のイメージが……」
「いや、そこまででは……」
「だって僕、学校ではちゃんとしてるから……」
「……」
その隣では。
「はぁ……」
黒崎くんがソファに座っていた。
手には――
ゲーム機。
「…………」
私は目を疑った。
「黒崎くん……ゲームしてる?」
「……悪い?」
「いや、悪くないけど……」
「学校ではあんまりやらないだけ」
「そうなんだ……」
すると。
「このステージ、マジで難しいんだよ」
「え?」
急に。
めちゃくちゃ喋り始めた。
「昨日からやってんだけどさ、ここで敵が――」
「…………」
「――だから装備を変えて――」
「…………」
「って聞いてる?」
「聞いてるよ!?」
さっきまでの無口はどこへ!?
「黒崎くんって、ゲーム好きなんだ……」
「うん」
即答だった。
その横で。
「俺もそれやりたい!」
瀬戸くんがゲームを覗き込む。
「陽向は下手だからダメ」
「ひどっ!」
「前やったとき三分で負けただろ」
「それは……」
「三分?」
私が聞く。
「いや! あれはたまたま!」
「五回連続で負けてた」
「朔!」
「……ふふ」
思わず笑ってしまった。
すると。
「……」
瀬戸くんがこちらを見る。
「……美桜ちゃん」
「ん?」
「笑った」
「え?」
「俺、女の子と二人で話すの苦手だから……」
「……え?」
「学校だと普通に話せるんだけど」
「うん」
「こういう状況になると、何話していいかわかんなくなる」
「……」
私は目を丸くした。
いつもクラスの中心にいる瀬戸くんが。
実は、人見知り?
「でも、美桜ちゃんとはなんか平気」
「……私?」
「うん」
瀬戸くんは照れたように笑った。
「なんでだろ」
「……」
なんだろう。
ちょっとだけ。
嬉しい。
そのとき。
「美桜」
「え?」
今度は九条くん。
「これ」
差し出されたのは――
お菓子。
「食べる?」
「え、いいの?」
「うん」
「ありがとう」
受け取る。
すると九条くんは。
「僕、お菓子好きなんだ」
「……そうなんだ」
「特にこれ」
「へえ」
「でも学校では食べない」
「どうして?」
「先生に怒られるから」
「……普通だね」
「普通?」
「うん」
すると。
九条くんは少し考えて。
「……僕って、普通?」
「え?」
「学校では、よく『何考えてるかわからない』って言われる」
「確かに……」
「でも、何も考えてないことも多いよ」
「…………」
思わず吹き出した。
「ふふっ」
「?」
「九条くん、面白いね」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、もっと面白くなる」
「どうやって!?」
そんな会話をしていると。
「……」
一ノ瀬くんがじっと私を見ていた。
「?」
「美桜ちゃん」
「なに?」
「……僕も」
「?」
「褒めて」
「…………え?」
「今日、委員会も頑張ったし」
「う、うん」
「授業もちゃんと聞いてた」
「そうだね」
「だから」
一ノ瀬くんが少しだけ身を寄せる。
「いっぱい褒めてほしい」
「…………」
完璧な王子様。
その姿は、どこにもなかった。
「……一ノ瀬くんって」
「うん?」
「甘えん坊?」
「…………」
一ノ瀬くんが固まった。
「……秘密にして」
「え?」
「絶対」
「……」
私は四人を見る。
ゲーム好きな黒崎くん。
人見知りな瀬戸くん。
天然な九条くん。
そして――
甘えん坊な一ノ瀬くん。
「……なるほど」
私は小さく呟いた。
「四大アイドルって」
四人がこちらを見る。
「全然、完璧じゃないんだね」
「「「「……」」」」
沈黙。
そして。
「……それ、本人たちの前で言う?」
黒崎くんが呆れたように言った。
「だって本当じゃん」
「……まあ」
黒崎くんが小さく笑う。
瀬戸くんも笑って。
九条くんはお菓子を食べて。
一ノ瀬くんは――
「でも、美桜ちゃんに知られたなら……」
「?」
「もう隠さなくていいかも」
「……え?」
四人が顔を見合わせる。
そして。
一ノ瀬くんが笑った。
学校で見せる完璧な笑顔じゃない。
もっと柔らかくて。
少しだけ安心したような笑顔。
「僕たちのこと、誰にも言わないでね?」
「……うん」
私は頷いた。
「絶対言わない」
――この日。
私は知ってしまった。
学校では完璧な四人の。
誰にも見せない、本当の顔を。
そして。
この秘密を共有したことが。
私たち五人の距離を、一気に縮めることになるなんて。
まだ、知らなかった。
「……疲れた」
私は机に突っ伏した。
今日は席替え初日。
それだけなのに、ものすごく疲れた気がする。
原因は――
「四大アイドル……」
ちらっと周りを見る。
一ノ瀬くんは、女子たちに囲まれていた。
「一ノ瀬くん、今日の委員会って――」
「うん。あとで確認しておくね」
相変わらず完璧。
瀬戸くんは男子たちと楽しそうに話している。
「だからさ、それ絶対俺のほうが速いって!」
黒崎くんは静かに帰り支度。
九条くんは窓の外をぼーっと眺めている。
……やっぱり。
学校では、完璧なんだ。
私は鞄を持って立ち上がった。
「帰ろ……」
そのとき。
「あ」
教室に忘れ物をしたことに気づいた。
「ノート……」
机の中に入れっぱなしだった。
「取りに戻らなきゃ」
私は一人で教室へ戻った。
――そして。
廊下を歩いていたとき。
「……ん?」
どこからか、声が聞こえた。
「……もう無理……」
「え?」
聞き覚えのある声。
私は足を止めた。
教室ではない。
隣の空き教室から聞こえる。
「誰だろう……」
そっと扉を開ける。
すると――
「……」
「……」
「……」
「……」
そこにいたのは。
「一ノ瀬くん!?」
四人全員だった。
しかも。
私が知っている四人とは、明らかに違う。
「……え?」
一ノ瀬くんが机に突っ伏している。
「疲れたぁ……」
「…………」
私は固まった。
「一ノ瀬くん?」
「んー……」
「……大丈夫?」
「……あ」
顔を上げた。
そして私を見る。
「…………」
数秒の沈黙。
「……美桜ちゃん?」
「はい」
「……見た?」
「……見ました」
一ノ瀬くんが顔を覆った。
「終わった……」
「え?」
「僕のイメージが……」
「いや、そこまででは……」
「だって僕、学校ではちゃんとしてるから……」
「……」
その隣では。
「はぁ……」
黒崎くんがソファに座っていた。
手には――
ゲーム機。
「…………」
私は目を疑った。
「黒崎くん……ゲームしてる?」
「……悪い?」
「いや、悪くないけど……」
「学校ではあんまりやらないだけ」
「そうなんだ……」
すると。
「このステージ、マジで難しいんだよ」
「え?」
急に。
めちゃくちゃ喋り始めた。
「昨日からやってんだけどさ、ここで敵が――」
「…………」
「――だから装備を変えて――」
「…………」
「って聞いてる?」
「聞いてるよ!?」
さっきまでの無口はどこへ!?
「黒崎くんって、ゲーム好きなんだ……」
「うん」
即答だった。
その横で。
「俺もそれやりたい!」
瀬戸くんがゲームを覗き込む。
「陽向は下手だからダメ」
「ひどっ!」
「前やったとき三分で負けただろ」
「それは……」
「三分?」
私が聞く。
「いや! あれはたまたま!」
「五回連続で負けてた」
「朔!」
「……ふふ」
思わず笑ってしまった。
すると。
「……」
瀬戸くんがこちらを見る。
「……美桜ちゃん」
「ん?」
「笑った」
「え?」
「俺、女の子と二人で話すの苦手だから……」
「……え?」
「学校だと普通に話せるんだけど」
「うん」
「こういう状況になると、何話していいかわかんなくなる」
「……」
私は目を丸くした。
いつもクラスの中心にいる瀬戸くんが。
実は、人見知り?
「でも、美桜ちゃんとはなんか平気」
「……私?」
「うん」
瀬戸くんは照れたように笑った。
「なんでだろ」
「……」
なんだろう。
ちょっとだけ。
嬉しい。
そのとき。
「美桜」
「え?」
今度は九条くん。
「これ」
差し出されたのは――
お菓子。
「食べる?」
「え、いいの?」
「うん」
「ありがとう」
受け取る。
すると九条くんは。
「僕、お菓子好きなんだ」
「……そうなんだ」
「特にこれ」
「へえ」
「でも学校では食べない」
「どうして?」
「先生に怒られるから」
「……普通だね」
「普通?」
「うん」
すると。
九条くんは少し考えて。
「……僕って、普通?」
「え?」
「学校では、よく『何考えてるかわからない』って言われる」
「確かに……」
「でも、何も考えてないことも多いよ」
「…………」
思わず吹き出した。
「ふふっ」
「?」
「九条くん、面白いね」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、もっと面白くなる」
「どうやって!?」
そんな会話をしていると。
「……」
一ノ瀬くんがじっと私を見ていた。
「?」
「美桜ちゃん」
「なに?」
「……僕も」
「?」
「褒めて」
「…………え?」
「今日、委員会も頑張ったし」
「う、うん」
「授業もちゃんと聞いてた」
「そうだね」
「だから」
一ノ瀬くんが少しだけ身を寄せる。
「いっぱい褒めてほしい」
「…………」
完璧な王子様。
その姿は、どこにもなかった。
「……一ノ瀬くんって」
「うん?」
「甘えん坊?」
「…………」
一ノ瀬くんが固まった。
「……秘密にして」
「え?」
「絶対」
「……」
私は四人を見る。
ゲーム好きな黒崎くん。
人見知りな瀬戸くん。
天然な九条くん。
そして――
甘えん坊な一ノ瀬くん。
「……なるほど」
私は小さく呟いた。
「四大アイドルって」
四人がこちらを見る。
「全然、完璧じゃないんだね」
「「「「……」」」」
沈黙。
そして。
「……それ、本人たちの前で言う?」
黒崎くんが呆れたように言った。
「だって本当じゃん」
「……まあ」
黒崎くんが小さく笑う。
瀬戸くんも笑って。
九条くんはお菓子を食べて。
一ノ瀬くんは――
「でも、美桜ちゃんに知られたなら……」
「?」
「もう隠さなくていいかも」
「……え?」
四人が顔を見合わせる。
そして。
一ノ瀬くんが笑った。
学校で見せる完璧な笑顔じゃない。
もっと柔らかくて。
少しだけ安心したような笑顔。
「僕たちのこと、誰にも言わないでね?」
「……うん」
私は頷いた。
「絶対言わない」
――この日。
私は知ってしまった。
学校では完璧な四人の。
誰にも見せない、本当の顔を。
そして。
この秘密を共有したことが。
私たち五人の距離を、一気に縮めることになるなんて。
まだ、知らなかった。

