リフォーム営業マンの小さなドキドキ短編集 エピソード4

初対面でこんな事言われたら、、

これは、嘘みたいな話だけど、本当の話。

もちろん、多少の脚色はある。笑

ただ、最初に言っておきたい。

あくまでも――
リフォーム相談で伺った話だ。

そんな出会いだった。

⸻

現場の工事中、材料が足りなくなった。

仕方なく、近くのホームセンターへ向かった。

探していたのは、ホワイトの艶消し塗料。

デニムジャケットにGパン。

買い物かごには、養生テープにローラー、刷毛。

どう見ても店員ではない。

塗料コーナーで棚を眺めながら、目的の塗料を探していると、

「あのー……」

背中越しに、か細い声が聞こえた。

俺は振り返らなかった。

自分に声を掛けているとは思わなかったからだ。

もしかしたら、通路を塞いでいるのかもしれない。

そう思って、棚の方へ少しだけ身体を寄せた。

「あの……お兄さん……すみません」

……ん?

まだ聞こえる。

「教えて欲しいんですが……」

そこでようやく振り返った。

「えっ?」

俺か?

「あ、はい。どうしました?」

そこに立っていたのは、同年代か、少し上くらいの女性だった。

ロールアップした太めのデニム。

薄緑のタンクトップに、白いボタンダウンシャツ。

金髪に近いショートカット。

第一印象は――

お洒落な人だな。

だった。

女性は少し申し訳なさそうな顔をしながら、塗料の棚を指差した。

「あの……お店の人に聞いたら、塗料はここだって言われたんですけど……」

「はい」

「木を、木目を出したまま塗れるやつってどれですか?って聞いたら、オイルステインって言われて……」

「ああ、はい」

「でも、店員さんも忙しそうですぐ行っちゃって……。もう少し詳しく聞きたかったんですけど……」

そこで一度、俺の方を見る。

「ご迷惑かなと思ったんですけど……」

そして、俺の買い物かごを見る。

「実際に作業されてそうな方がいたので……声を掛けちゃいました」

そう言って、女性はペコッと頭を下げた。

正直、時間はなかった。

現場では大工さんが待っている。

でも――

自分でやってみようとしている。

しかも、知らない人に声を掛けるのだって、きっと勇気がいったはずだ。

そんな気持ちを邪険にはできなかった。

「えっと……何を作るんですか?」

そう聞くと、女性は少し嬉しそうに話し始めた。

どうやら、自宅のトイレに棚を作りたいらしい。

「なるほど。それなら、オイルステインで大丈夫だと思いますよ。ただ、木の種類によって色の出方が結構変わります」

「そうなんですか?」

「はい。あと、塗る前に……」

そこから、しばらく塗料の話をした。

話しているうちに、ふと思い出した。

今、俺が向かっている現場でも――

トイレのカウンターを、大工さんに造作してもらっていた。

「そういえば……」

俺は女性にその話をした。

「今ちょうど、近くの現場で大工さんにトイレの造作をしてもらってるんですよ」

「えっ!」

女性の顔がパッと明るくなった。

「見てみたいです!」

……そこまで?

正直、少し驚いた。

「いや、空き家の売り物件なんですけど……」

「それでも大丈夫です!」

目が完全に本気だった。

DIYが好きで、自分でも色々作っているらしい。

そして何より――

プロが実際に作っているところを見てみたい。

その気持ちが伝わってきた。

「じゃあ……大工さんに聞いてみます」

その場で大工の大山さんに電話をした。

事情を説明すると、

「いいですよ。連れてきちゃってください」

いつもの大山さんらしく、あっさり了承してくれた。

「大丈夫だそうです」

そう伝えると、

「本当ですか!」

また目が輝いた。

女性も車で来ていたので、

「じゃあ、現場まで案内します。車でついてきてください」

そう伝えた。

ただ、途中ではぐれてしまうと困る。

「念のため、LINE交換しておきましょうか」

「あ、はい!」

そこで初めて、名前を知った。

葉山さん。

『葉山です』

お辞儀をするスタンプと一緒に、メッセージが届いた。

俺も簡単に挨拶を返した。

そして、現場へ向かった。

⸻

現場に到着すると、大山さんに葉山さんを紹介した。

「大山さん、こちら葉山さんです。DIYが好きで、今日ホームセンターで知り合って……」

「葉山です。突然申し訳ございません」

葉山さんは、また深々と頭を下げた。

大山さんは笑いながら、

「いやいや、全然いいですよ」

すると葉山さんは、現場を見渡しながら言った。

「DIYが大好きで……」

そして、トイレの造作を見つける。

「まさかプロの方に直接教えてもらえるなんて……」

本当に嬉しそうだった。

「ありがとうございます!」

その目はキラキラしていた。

完全に――

学ぶ気マンマンだ。

その姿を見ながら、俺は思った。

ホームセンターの塗料コーナーで、たまたま声を掛けられた。

ただ、それだけの出来事だった。

でも、あの時もし俺が、

「分かりません」

と言っていたら。

もし、急いでいるからと、そのまま立ち去っていたら。

きっと、この出会いはなかった。

人との出会いって、本当に不思議だ。

そして、この時の俺はまだ知らなかった。

このホームセンターでの出会いが――

この後、もう一つの「ドキドキ」に繋がっていくことを。

……もちろん、

あくまでもリフォーム相談で伺った話だけど。笑