クズ男の純愛歌

 世の中は……いや、女はチョロい。

 俺が少し視線を送るだけで、頬が緩む。そこへ甘い声でひと言添えれば、もう完璧だ。

「それでは、今度サンプルをお持ちしますね」
「ありがとうございます」
「お得意様だけにお渡ししているものがあるんです。いつもお世話になっているので、特別にご用意しますよ」
「わぁ、嬉しい! 楠生(くすお)さんが来てくださるなら、楽しみにしていますね」

 女性の担当者が、にこっと笑う。
 はい、攻略完了。今日も俺の提案は、すんなり通った。

 まぁ、男性が相手でも大して変わらない。この圧倒的なオーラを前にすれば、誰だって首を縦に振るしかないんだからな。

 第二新卒でSumi化粧品に入って、ちょうど1年。この短い間で営業1課のエースまで上り詰めたんだから、我ながら大したもんだ。
 Sumi化粧品と言えば楠生晃誠(こうせい)、楠生晃誠と言えばSumi化粧品。いまやこの俺は、会社にとってなくてはならない存在になっていた。

「楠生君。来月から、広報部に異動ね」
「はい?」

 課長の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
 いつものように確かな手ごたえとともに帰社した俺は、いきなり会議室へ呼び出され、そう告げられた。

 異動って……広報に? え、俺が? エースである、この俺が?