嗚呼、愛しのアフロディーテ

「あれ誰だったんだろう?」
「めっちゃ美少年だったよね!」


今日も丁寧にアイロンがけしたハンカチを鞄の中に入れて登校すると、靴箱では女子数名が色めき立っていた。

どうやらとんでもない美少年がいたらしく、その話題でもちきりのよう。


「あかり、おはよ」
「あ、マミちゃん。おはよう」
「噂の美少年、隣のクラスらしいわよ」


さすが顔が広いマミちゃん。

学校に来るまでいろいろと情報を仕入れていたらしい。


上履きに履き替えて階段を上っていると、マミちゃんが「隣のクラス覗いて行こうか」と提案してくる。

坂本くんにハンカチを返したい私にとって願ってもない申し出。首を縦に振り、三階まで駆け上がった。



後ろの空いているドアから隣の教室内を見渡す。

坂本くんの席は真ん中の列の一番後ろ……。


「柊さん」
「え……」


坂本くんの席に座っていた男子が振り返る。


分厚い眼鏡はそこにはなくて。

前髪も、目元が隠れない程度の長さ。

まるで別人みたいな姿……。

サラサラの黒髪は艶があって、切れ長の目は涼やかで。

白い肌に薄い唇まで、なんだかよくわからないけれど、整っているように見える。


「先日は大丈夫でしたか?」
「えっ、えっ……?」
「ふふ……混乱してます?」


薄い唇が弧を描き、クスクスと楽しそうに笑う。


ほんとに『あの』坂本くんなの?