嗚呼、愛しのアフロディーテ

「すみません。お見苦しいところお見せして」


私が坂本くんの口元を見ているのがわかったのか、袖口で唇の端をグイッと拭う。

それでも頬は痛そうに赤くなっていて、やっぱり喧嘩していたんだとわかる。


倒れているのは、やんちゃなことで有名な山口くん。

坂本くんと接点なんてなさそうなのに……。


「柊さんは見なくていいですよ」


坂本くんの身体で見えないように遮られる。

そして、喧嘩していたのが嘘のような、あのとろけた視線をまた向けられた。


「あ、あの……何があったの?」


聞かないほうが良かったのかもしれない。

でも、私にも好奇心があるから……つい。

すると、坂本くんは「ああ」と顎に手を置いた。

さっきまでのとろけた表情は消え、冷めた視線が後ろへ向けられる。


「柊さんのことを聞いてこようとしたので」
「……ぇ?」


私のこと……?


「下衆な話題に柊さんの存在が、と思うと居ても立っても居られなくなり……すみません」


それだけで……?

山口くんを殴ったの……?