その日の夕方。
私は、一人で海へ向かった。
蒼空と交わした、あの約束を果たすために。
砂浜に立つと、波の音が聞こえた。
夕焼けが海をオレンジ色に染めている。
あの日と同じ景色。
あの日と同じ夏。
私は鞄から、蒼空の腕時計を取り出した。
午後五時三十七分。
止まった針を、そっと指でなぞる。
「……ねえ、蒼空」
空を見上げた。
「手紙、読んだよ」
風が吹く。
「全部、ちゃんと読んだ」
私は少しだけ笑った。
「私ね、まだ蒼空に会いたいよ」
涙が滲む。
「今でも、隣にいてほしいって思う」
それでも。
「でも、蒼空が願ってくれた未来を、ちゃんと生きてみるね」
波が、足元に寄せては返す。
「いつか、私を大切にしてくれる人に出会えるかもしれない」
少しだけ、空を見上げた。
「そのときは、ちゃんと幸せになる」
そして、胸元の時計を握りしめた。
「だから、見ててね」

