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「青田ー、なんか女子が呼んでる」
昨日のようには上手くいかず、なぜかするりと頭に入れることができない恋愛小説と教室の隅の席で睨めっこしている俺の耳にそんな声が聞こえる。
顔を上げれば、教室の戸に片手をあげている彼女がいた。
春田さん、だ。
席を立って彼女の方にスタスタと向かう。春田さんはなぜか得意げな顔をしている。その片手に収まっているのは昨日一緒に読んだ恋愛小説。
「…もう読んだのか」
「うん!感想言いたいから話したいんだけど」
周りを見渡せば、好奇の瞳を携えたクラスメイトたちと目が合う。
なんだ、このむず痒さは。
「昼休み終わるまでもう少し時間あるし、青田くん話せる?てかお昼ごはん食べた?」
「食べた。ここじゃ話しづらいから図書室行こう」
「うん、分かった」
揶揄うような瞳から逃れるように俺は春田さんとその場から離れる。特に俺に興味なんかもたないくせに、他人の『青春』にはめざとく好奇の目を向ける。調子のいい連中だ。
ーーー青春?
俺、今、青春してるのか。女子と並んで歩いているだけなのに?
春田さんの横顔を見つめる。それの視線に気づいたのか、春田さんがこちらを向いた。「ん?」と。
ばっと視線を逸らす。らしくない、本当に。
「本、貸して」
「え?」
「感想言いたいなら、俺も読むから」
「え、でも、お昼休み中に読める?」
「速読は得意なんだ」
「ああ、なるほど、歩きながらだから前気をつけて」
「春田さんが俺の目になっといて」
「あはは、何それ」
ケタケタ笑っている春田さんをよそに俺は渡された本を開く。
さあ、俺様イケメン男子高校生は嫉妬に狂ってライバルをどう殺すんだろう。
殺すまではいかなくても、なにか頭を使って陥れるとか…。
「……」
ーーー花火の音で、私の告白は彼に届かない。
その綺麗な横顔を見つめて、小さな声でまた「好き」と放つ。
彼の瞳がこちらに向いた。
『今、なんか言ったかよ』
『い、いや、なんでも』
『嘘、ちゃんと聞こえてたし』
『え』
頬に添えられた手、そしてその唇が耳元に近づく。
彼は甘い声で言った。
「青田くん、図書室着いたよ」
「…好きって」
「はい?」
「告白、したぞこの男」
春田さんは苦笑いを浮かべて図書室の戸を開ける。
促されるまま、図書室に入り、昨日と同じ場所に2人で並んで座った。
「ライバルの男は、まだピンピンしてるじゃないか」
「だけど、最終的には主人公たちを応援してるんだよ、最強にロックだよね」
「ロ…?、しかも花火の下で告白なんて音に消されることなんて分かってただろ?なんでそんなところで…それに屋台の食べ物なんて恋のライバルたちにとっては毒を盛りたい放題じゃないか、俺だったら主人公たちを陥れる絶好のチャンスだと捉えるけどな」
「告白の時、主人公の声だけは聞こえてたんだよ。たぶんデスボで告白したんだよ、ロマンがあるよね」
「春田さん何言ってんの?」
「そっちこそさっきから何言ってんの?」
むっと顔を顰めると春田さんも顰めっ面になった。
やはり難しいな、恋愛小説って。
でも、なんだかこの言い合っている時間も自分にとっては心地が良くて、ずっとこの時間が続けばいいのになんて。
なんだよ、それ。
こんなくだらない言い合い、時間の無駄だとそう思うのに。お互いが吹き出すように笑う。
「恋愛なめてんの?」
そう言えば、春田さんはニコリと笑う。
「そっちこそ」
ああ、なんだか今なら書けそうな気がする。
青春キラキラ恋愛小説。


